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INTERVIEW

Japanese

のうじょうりえ

2025年06月号掲載

のうじょうりえ

Interviewer:吉羽 さおり

自分が自分でいることが、誰かのためにもなるのかもしれない


-「音楽で人を救えないと思い知った夜」は友人のことをきっかけに書いたということでしたが、これを書く、言葉にしていくっていうのもなかなか苦しいものがありますね。

そうですね。ただ、すごく前向きな曲にしたんです。私ここまで振り切って前向きな曲は少なかったと思うんですけど、その友人の話を聞いたのがライヴで共演が決まっていた日だったんです。体調が悪いからキャンセルになったと電話で聞いて、検査結果はそのライヴ前日には出ていたようなんですけど、みんなを心配させたくなくて言わなかったんだと思います。でも本人に電話したときにすごく前向きだったんですよ、"子宮癌だけど頑張って治すわ"みたいな感じで。だから勝手にこっちが落ち込むのって違うんじゃないかって思っちゃって。本人が治そうとしてる、戻ってくると考えていたとしたら、こっちで勝手に落ち込んで絶望してるのってすごく失礼じゃないかと。治す気しかないから、絶対に死なないから信じてって言ってくれたんです。その子とはどこか似ているところがあって、私もあまり人のことを信じられないんですけど、これは絶対信じようと思って。生きる未来しか考えないようにしようと思って曲にしたので、それをそのまま書いた曲になりました。

-歌詞も、"君が「信じて」と言ってくれたから/信じた今日を 歌っている"と力強く締められています。

それしか考えないで書こうと思って。私は恥ずかしくて本人には送れなかったんですけど、いつの間にかレーベルの人が曲を送っていたようで、すごく喜んでくれました。自分の気持ちをそのまま形にしてくれたって言ってくれたのがすごく嬉しくて、私が受け取ったものは合っていたんだなって。頑張れとか言ってももう頑張ってますからね。私たちができることはたぶん、この子を信じることだなと。

-アルバムの中でもこの曲が一番感情的に歌っているなと思いました。やっぱり力が入る感じもありましたかね。

そうですね。レコーディングのとき、この歌は全力で来いって言われて。気持ち的にはたしかに力を入れて歌いたかったし、とにかく音が割れてもいいから全力で来いって言われました。ちょっと割れてるところとかもあるんですけど、とにかく全力で歌っているので、この曲だけちょっと違うと思います。

-また「星が綺麗」という曲で"いつだって 僕がいなくても生きていけるように/僕は 君を助けない"と、アルバムのタイトルとなった"君を助けない"というフレーズが出てきますが、曲の着想はどんなところからですか。

作ったきっかけはスマホのライトだったんです。

-スマホのライトですか。

夜寝る前に部屋の電気を消して、スマホをいじっていたときにすごく眩しくて。いつもなら部屋の暗さに目が慣れてくる頃なのに、明るくてまだ慣れないなと思っていたときに、たぶんこうやって何かに頼りすぎたり助けられたりすると、見えるものも見えなくなっていくのかなと思ったんです。自分の周りで、人がいないとダメというか、成り立ってないような生活をしている人を見たことがあって、でも本当に支え合っている人たちって、互いが自立していたなと思って。

-たしかにそうですね。

1人でも成り立つから自分のために向き合えるし、人のためにも向き合えるなと。それを重ねて書いている感じですね。このアルバムの始まりだったり、昨年の自分の心境の変化のきっかけでもあるんですけど、自分の意思をちゃんと出すのが大事だなと思ったんですよね。今まで私は争いを避けてきたんです。本当は短気なんですけど、あまり言い返したりもしなかったし、絶対にこうだって意思があることを否定されても結構ヘラヘラしてたんですけど。それはもちろん自分のためにならないし、そこで何も言い返さないとそれを肯定したことになって、私と似たような人も傷付けることになるって気付いたんです。私がもしそこで言い返せたら、言ってくれたって思えるし。私のことを大切にしてくれてる人は、私が嫌なことを言われっぱなしだったら悲しむと思うんです。それって自分も守れないし――争いという点とか、傷付かないということでは守れるかもしれないですけど、自分の周りの人も守れないなと。そういうことがきっかけになって、書く曲が変わったのもあると思うんです。自分が自分でいることが、誰かのためにもなるのかもしれないと考え始めたんですよね。そういう気持ちもここにこもっていると思います。ただ、なかなか実践するのは難しいですけどね。

-そうですね。言い返すにも勇気がいるし、言葉を発するまでにいろんなことを考えてしまうというか。

そうなんですよね。自分の処世術でもあったし、当たり障りないことを言って、怒らせないようにとか、不快にさせないようにというのがあったので。でも思うことがあるならちゃんと言わないと、自分のためにも人のためにもならないと思って、やめました。自分の大切にしたい人、大切にしてくれる人だけいてくれたらいいやと思えるようになったので。自分のことを大して気にしてない人まで気にしちゃってた気がするんです。そう考えたら結構勇気を持てるようになりましたね。

-サウンド面での話も聞きたいんですが、今作ではドラム、ベース、アコギと歌という編成ですが、そのなかでもこれは面白いアンサンブルになっているなという曲が「リンゴとライト」ですね。

これまでバンドのアレンジに関しては丸投げだったところがあるんですけど、今回のアルバムからバンド編成をシンプルに3人にしたんです。アコギ&ヴォーカル、ベース、ドラムで。今まではプラス、エレキ2本入れていたりとか、ごちゃごちゃとした感じだったんですけど、レーベルとも話し合って、バンドをやっている人も引っ掛かるサウンドにしたいねと。今までは方向性とかもなかったんですけど、のうじょうりえはこういうサウンドっていうのを一回統一しようとなったんです。弾き語りのニュアンスも活かしたいとなって、アコギがメインで、ドラムとベースのシンプルな編成にしようとなりました。

-「リンゴとライト」はシンプルではありますが、3人のグルーヴ感、アンサンブルの呼吸感が出た曲で。初め、インストなのかってくらい前奏が長いという。

私も好きですね、この曲は。今回のアルバムは一切クリックなしで録っていて。クリックがあるとどうしてもライヴ感というか、生物感が減るとなったときに、私には合ってないんじゃないかと提案されたんです。ドラムとベースは大変だけど、頑張ってクリックなしでやろうということで、せーので録って。何回もスタジオに入って、ライヴも重ねて、グルーヴみたいなものを合わせていってレコーディングに挑んだ感じでした。

-そのリアルなサウンド面も聴きどころですね。そして今回の初回限定盤にはCDに加えて、エッセイ本"君を助けない"が付くということなんですが、これはどういうものなんですか。

8曲分のライナーノーツではなく、個々のタイトルでそれぞれエッセイを書いたものなんです。例えば"優しさの価値"というタイトルで、曲の説明ではない文章を書いたっていう感じなので、すごく大変でした。

-そうですよね、曲、歌詞としてはすでにできあがっているものから、また違うものを書くってことですよね。"優しさの価値"ってなんだろう、ともう一回考えるわけですもんね。

アルバム作りで最も大変だったかもしれない。曲の説明にならないようにというのはできたんですけど、8個分を1~2ヶ月の間で書かないといけなかったので、同じことを書いてるような気がして。当たり前ですよね、1人の人間が書いてるんだから。自分の意思を書いているので、めっちゃ内容が被ってそうな気がして。これ、この前も言った気がするなとか。もうこの期間に頭の形が変わったんじゃないかってくらい大変でした。

-脳も感覚もフル稼働で。

しんどかったですけど、またやりたいってくらい楽しかったです。

-8タイトルでエッセイを書いてみて、一番難しかったのはどのタイトルですか。

"優しさの価値"だったかな。これが一番難しかったと思います。なんでも言えちゃう分、何を言ってるか分からなくなるというか。かといって、優しさの価値って決められるものでもないし、断定もできないので難しかったですね。

-曲はもちろん、エッセイ本も付いてと、自分に向き合い続けた作品で。デビュー・アルバムにしてかなり濃密なものになりましたし、充実感があるのでは。

アルバム発表したらちょっとは燃え尽きるかなという心配はあったんですけど、全然そんなこともなく。むしろ前はこう言ってたけど、今はちょっと違うなとかもすでにあるので。人間って変わっていくものだなって思いますね。嬉しいことに、先程の癌の友人も今すごく体調が良くて、すごい勢いで治ってきていますし。このアルバムはこれで、過程として完結はしてますけど、私的にはまだ続いているので、また曲を書きたいなという気持ちがあります。