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INTERVIEW

Japanese

マコトコンドウ

2025年04月号掲載

マコトコンドウ

Interviewer:吉羽 さおり

自分を受け入れて、自分を愛する、不完全な自分も受け入れられるきっかけになる曲を作りたい


-それはアレンジをしていくなかでどんどんアイディアが出てきて、最初のデモからガラリと変わっていく瞬間もある感じですかね。

「そばにいて、冷めた光で」とかはそんな気がしますね。最初はもうちょっと明るいバンドの質感で作っていたんですけど、もっとよれているビートの感じがいいなとか。


-「そばにいて、冷めた光で」は、コンドウさんの曲としては珍しいボリューム感のあるギターも印象的です。

ああいう歪んだギターはあまり弾いたことがなかったから、ちょっと弾いてみたいなっていうのもあって(笑)。わりとインディー・ポップに近いサウンド感で作っていたからこそ、ああいう歪んだものがアクセントになるかなと。この曲は、Roberta Flackの「Feel Like Makin' Love」のメロディを、ちょっとオマージュして作っていて。アレンジは、D'ANGELOのアルバム『Voodoo』に収録されている「Feel Like Makin' Love」のブラスを参考にしたり、サウンドもQUESTLOVEが叩いてるようなよれたリズムだったり、ベースもPino Palladinoをちょっと意識したりもしているんですよね。

-そういったR&B要素がありつつも、ポップに着地していますね。

日本のポップス、J-POPを作ろうっていう感じはあります。あまりにも本格派になってしまうと、僕が求めている、子どもにも伝わるっていうのとはちょっと違うのかなって。これからそんなふうに(本格的に)作りたいと思うかもしれないですし可能性もありますけど、今のモードはそうじゃないかなっていう。J-POPとして僕ができることをやりたいなと思っているんです。

-アルバムには、メロディアスでありつつ語るような歌い方をしている曲も多いと感じますが、歌への思いが変わっていっているところはありますか。

そこはどんどん変わっていってる気がします。歌い方については2024年1月リリースの「たぶんね」から、アルバムのリード曲の「ゴミ出し」にいくにつれて、語ってるように歌おうという気持ちにどんどんなっていると思いますね。歌おうっていう意識から、寄り添う意識になってる感じなんですかね? 「そばにいて、冷めた光で」とかはそれがより出ているかもしれないです。歌のキーを無理しないようにしようっていうのもその辺から生まれているので、より語っているように聞こえるのかもしれないですね。

-声を張らずに、口ずさめるようなキーで歌うという。

全然張らない感じですね。語っているように聞こえるというのは、まさに言い得て妙という感じです。

-「あったか~いね」等もまさに軽やかに口ずさんでいるような感じですよね。この曲はラテン、サルサ調のアレンジが心地よい曲ですが、どんなアイディアからでしたか。



この曲を作っていたのがちょうどお正月で、初詣に行くとき、外は寒いから厚着していくじゃないですか。でも意外と陽が出ていて暑くて、汗かくなっていう(笑)。そういうところからラテンの感じ、サルサだったり、ブラジル・ミュージックの感じがいいよねって作った気がします。

-ラテンムードで旅しているようなサウンドでありつつ、歌には自販機等日常のシーンが出てくる。その交じり合いが不思議な心地を生んでいる曲です。

そうですね。歌詞がめっちゃ冬っぽいけどサウンドは夏かなっていう、そのギャップもいいのかなって。この「あったか~いね」はわりと難しかったですね。ブラジル系の音楽のリズムの取り方は正直研究してなかったから、そこはかなり聴き込みました。ブラジル・ミュージックのプレイリストをお風呂でずっと流すとかして(笑)。ボサノヴァのもとになったのはサンバらしいから、サンバを聴こうとか。

-そうやって、これが自分の音楽にハマったら面白いなって部分をピックアップして、音楽を組み立てていくわけですね。今コンドウさんとしては音楽を聴く際に、どういうところに耳がいきますか。サウンドの構成的なところなのか、リズム的な面白さなのか。

歌い方かもしれないですね。歌をどういうふうに歌うのか。コード進行についてはいろんな人がいろんなやり方で研究しているところなので、そこは面白いなとも思うけど、もっとどんなふうに歌うか、ラッパーとラッパーじゃない人の違いってなんだろうとか発声とか、そういうところに今はよく耳がいくかもしれないですね。

-そういうところで注目するアーティストはいますか。この人のアプローチって面白いなとか。

2010年代にハマって聴いていた時期があって、最近聴き返して改めていいなと思ったのがアメリカのラッパー、NONAMEですね。ポエトリー・リーディングというか、ただしゃべってるような感じでもあるけど、めちゃくちゃ音楽的に聞こえるし、音程が合ってるのかどうかも分からないけど、めちゃくちゃかっこいい。以前に聴いていたときはわりとトラック部分を注目していたんですけど、今彼女の歌い方の部分に、この歌い方なんだろう? っていうのでかなり注目していますね。僕がそのエッセンスを取り入れて、どういう表現の仕方にできるのかなとかは考えてます。

-ちなみにEP時もそうでしたが、今回のアルバムでもリード曲「ゴミ出し」が、語りバージョンでも収録されますよね。この"語り"バージョンを収録するっていうのは、どんなところからだったんですか。

もともとの話をすると、実は声の仕事をしたくて始めたんです(笑)。でも、聴いた人から語りバージョンが好きだとか、より歌詞が入ってくるって言ってもらえて。歌詞を好きでいてくれるリスナーの方も多いので、歌詞が伝わる浸透力をより上げるために、語りのバージョンを入れたいっていうのでやっているんです。歌詞を浴びてほしいっていう気持ちで今は作っている感じですね。

-それでは改めてリード曲「ゴミ出し」についてお聞きします。この曲はまさに、アルバムでのテーマを集約した曲ですね。

まさにそんなつもりで作ったというか、収録する曲を決めてそこからこれを体現するリード曲をと考えましたね。最初はどんなきっかけだったかな......。

-まず曲のタイトルが"ゴミ出し"ですからね。

最初は、"歯磨き"とかその辺で作ろうと思ってたんです。朝、絶対にするものですしね。でも、それだと普通だなというか。僕はサラリーマンとして働いていたことがあるんですけど、朝ゴミ出しをして、さぁ行こうっていう感じで会社に行っていたんです。ゴミを出して、ちょっと小走りで駅に向かうっていう(笑)。ある意味、僕にとっての朝のスタートだったんですよね。それで"朝はゴミ出して"っていうフレーズが最初に出てきたんです。ゴミ出しをスタートに、ちょっとだけ忙しい1日が始まるなっていうところから作っていった曲でしたね。そこから、朝から夜までの出来事を歌にしたら日常を感じられる曲になるかな、アルバムのまとめの曲になるのかなというところで、歌詞を書き上げた感じでした。

-そういう日常のいつもの景色やルーティンというところから、日々への愛おしさに繋がっていく歌になっているのが、このアルバムのテーマそのものでもありますし、今のコンドウさんの思いでもあることが伝わる曲です。

ゴミって言うとネガティヴなワードだなと思うんですけど、ゴミって思い出まではいかないけど、自分が何かしらをした履歴ではある気がしていて。それを捨てる作業で、それが新しいものに繋がっていく。これって、時間にも言えると思うんです。時間は生きていることで捨てていってるとも言えるし。そういったところで、また人生を感じられるかなっていうのはありましたね。

-アルバム・タイトルである"不完全ルーティン"の、"不完全"というところにも繋がる部分がありますね。同じようで同じでないというか。

そうですね。最初はこの曲のタイトルも、"ゴミ出し"じゃなくて"不完全ルーティン"にしようかなと考えていたこともあったんです。でも"不完全ルーティン"だとちょっと大きすぎるなと思って、このタイトルは置いておいたんですけど、アルバムのタイトルにぴったりじゃんと感じて。ルーティンと言いつつ、毎朝同じようなことをやっているようで、意外とやってないですよね。朝起きたら寝違えている日があるとか(笑)。

-いろいろサボっちゃう日もありますしね。

ルーティンっぽいけど、ルーティンじゃない。でもルーティンで。日常って、不完全なルーティンだなという。日常は、毎回イベントがあるわけじゃなくて、毎回違った同じような日が続いていくもので。それが不完全ルーティンになるなっていう。

-すごくいい言葉ですよね。とても人間らしいところでもありますし、それでもいいんだなと気持ちが軽くなる部分もあって。

リアルですよね。なのでアルバムの大きなテーマとしてはリアル、なのかもしれないですね。セルフラヴというか、僕自身、自己受容をしたいんですよね。それをリスナーの方にもしてほしいんです。自分を受け入れて、自分を愛する。不完全な自分も受け入れられる、そういうきっかけになるような曲を作りたいと思っているから。それが1つの作品になればというアルバムなんです。