Japanese
水中スピカ
2025年01月号掲載
Member:千愛(Gt/Vo) 野口 岳寿(Gt) 内田 潤(Ba) しおのむすび(Dr)
Interviewer:山口 哲生
全くブレてないです。ずっと同じ信念を持って曲を書いてます
-野口さん的にはどうです?
野口:僕的には、前の『Osm』を発表した後、1曲目に作ったのが「拍動」だったんですよ。あの曲ができたのが、それこそ『Osm』のリリース・ツアー("2nd album 「Osm」 release tour")の途中ぐらいだったと思うんだけど。
千愛:うん、リリース・ツアー中。私がコロナでツアーに行けなかったときに作った曲なので。
野口:僕的には「拍動」から変わっていったのかなっていう感じがしてます。1stアルバムの『mEq』のときとかは、歪みもそこまで使わずに、ちょっとオシャレできれいな音楽性を求めていたんですけど、ライヴ活動とかいろいろなバンドとの出会いを経て、ロックな要素を欲してきているんじゃないかなっていう感覚があって。ライヴでも抑えるところはしっかり抑えて、爆発するところはめちゃくちゃ爆発するみたいな。それに「拍動」ら辺から目覚めたのかなって。一時期、ライヴの1曲目はずっと「拍動」だったんですよ。
千愛:今も基本的にはそうですね。
野口:「拍動」を1曲目に持ってきて、ライヴをバーン! と始めることにたぶん快感を得てしまって。そこから他の曲もきれいめなところと激しいところがあったり、ちょっとシューゲイザー的な要素というか、轟音を鳴らすゾーンを作ったりとか、いろいろなものを練り込みたくなる欲が出てきているイメージですね。だから『Osm』終わりからそれは始まっていたのかなと思ってた。
-たしかに『Lux』の特徴の1つとして、歪みというのはかなり大きいですよね。
千愛:そうですね。
野口:昔はファズとか使ってなかったもんね。
千愛:でも、その歪みの影響は、私はDABDAから受けたんですよ。"ギターってこんなに歪んでいいんだ?"って。"ファズ使っていいんだ!?"、"それを入れてもなおこの音楽性が成立するんだ!?"っていうのを知ったのがDABDAだったので、そこから歪み始めましたね。私の場合はね? あなたはもっと前から歪んでた(笑)。
野口:「拍動」を作ったあたりから、明らかに僕等の機材の音量がどんどん上がっていってるんですよ(笑)。ギター・アンプとかも買い替えてるんですけど、どんどんデカい音が鳴るやつに変わってきていて、最近めっちゃうるさいです(笑)。
千愛:それはいいのか悪いのか(笑)。
-では、潤さんが変化を感じた瞬間というと?
内田:俺は............「拍動」です。
千愛:えーっ!?
野口:一緒だ(笑)。
内田:そうだよね? デモが送られてきたときにまず気付いたのが、変拍子を使ってなかったんですよ。
千愛:あぁ! そうだね。
内田:変拍子が入ってなくて、なおかつロックになってるっていう、今までにない曲が来たから、"うわ、これは流行るぞ!"と思って。
全員:ははははははは(笑)!
内田:そんな感じでベースもロックなフレーズにして、ライヴでバーン! とやってみたら、それこそめちゃくちゃ気持ち良くて。そこからうちらがライヴ・バンドになっていったというか。今までは"音源とライヴが結構違う"みたいな話をお客さんからよく言われていたんですけど、そこからライヴのクオリティも意識し出すようになった感じがあるくらい、「拍動」が転換点だったんじゃないかなと思うんですけど。
野口:一緒! 一緒!
千愛:すみません......。
-いや、謝ることではないかと(笑)。
内田:でも、フレーズ的には「beyond me」から結構変わったと思う。もっと複雑になっていったから。そこは作曲者として凝ったものをどんどん出すんだけど、それを聴きやすいようにアレンジしていったから、そういう進化が「beyond me」から出たんじゃないかなって思う。
千愛:フォローありがとうございます! 進化ですね。
野口:なるほどね。「拍動」が目覚めで、「beyond me」が進化。
-「beyond me」の次に出した「MIYAKO」は、それこそライヴでバーン! とやる快感を覚えて作った曲というか。
内田:ははははは(笑)。
野口:間違いないですね(笑)。
千愛:「MIYAKO」は、マス・ロック/ポストロックとか、インストゥルメンタルを普段聴かない人も楽しめる曲をちょっと意識していたんです。テンポが速かったり歪んでたり、変拍子には聴こえないけど実は変拍子みたいなものを目指していて。メロディも普段は使わないような、かなりキャッチーなものにしてるし、声の出し方も「MIYAKO」だけはだいぶロックなんですよね。
-そうですよね。
千愛:私、過去に歌いすぎて声帯結節を持っているので、高音域を歌いすぎると声が枯れてしまうんですよ。1時間半とか2時間のワンマン・ライヴをツアーで連日やることを考えて、それをこなすためにも自分の声が枯れずに歌えるところにしているんですけど、「MIYAKO」は自分の声が枯れる領域のところまで地声で出してるんです。やっぱり音域が高いほうがキャッチーでポップだし。
-マス・ロックやポストロックを聴かない人にも届けていきたいと強く思い始めたのがこのタームでもあったんですか? それともそこはもともと強く思っていたんですか?
千愛:そこはもともと強かったんですけど、やっぱり自分等の信念を曲げちゃダメだと思って、そっちに行きすぎないようにっていう変なプライドを持っていたんですよね。マス・ロックだから変拍子使わなきゃとか、クリーン・トーンできれいに絡み合いを鳴らさなきゃとか、変なこだわりがあって、なかなかそっちに振り切るタイミングがなかったんですけど、「MIYAKO」とか『Lux』に入ってる「恐竜も人間も飲む水は同じ」はもう振り切っちゃえ! みたいな。ちょっとリミッターが外れた感じがして。もういいかなっていう。
-もっとやってしまおうと。
千愛:アルバムの中にそういう曲が何個かあったほうが楽しいし、そっちのほうが聴けるんじゃないかなって。幅広い人に手に取ってもらえるアルバムにしたかったから、プライドを捨てた部分もあります。水中スピカの信念はしっかり持ち続けながらも、こだわりすぎない、いい塩梅で作ろうかなって。今話していて誰も頷いてくれないんだけど(苦笑)。
内田:いや、同意してるよ。
-お話にあった「恐竜も人間も飲む水は同じ」はそれこそ振り切っていますし、タイトルからしていいですね。
野口:ありがとうございます!
千愛:これは私がこの曲をどういう気持ちで作ったかを説明して、ちょっと一緒にタイトル考えてよって。
野口:曲調的にちょっとヘンテコな感じがあるし、物語チックな感じもあるので、小説の一節というか、本のタイトルみたいなものを意識して、どう? って出したら──。
千愛:それめっちゃいいやん! って。
野口:あと、今までのタイトルって単語が多かったんですよ。今回もそういう曲名が多かったので、そこに入れてあげるとまたちょっと面白いし、ああいうタイトルの付け方ってすごく日本特有というか、日本らしい感じもあったから、あえて日本語で長めにしてみたっていう感じですね。
-歌詞はタイトルを決めた後に書いたんですか?
千愛:先にありました。だし、このアルバムに入れる曲というのが分かっていたからこの歌詞にしました。この『Lux』というアルバムは、水の中にある光をイメージしているので、"水"という要素は外したくなくて。で、私は恐竜が好きなので、恐竜の曲を作りたいと思っていたんですけど、その曲の物語もアルバムのテーマに関連させたかったんです。それで、水は恐竜がいた頃からあって、巡っているし、恐竜の時代と私たちの時代を繋ぐものだなと思ったので、それを題材にして歌詞の中にもそういう要素を入れて、みんなに伝わったらいいなぁと思いながら作っていました。
-今のお話の中で断片的にも出ていましたが、改めて千愛さんが『Lux』で歌いたかったこと、伝えたかったことというと?
千愛:基本的に私が最近作る曲は、みんなの人生を鼓舞する曲。簡単に言うと応援ソングという言葉にはなってしまうんですけど、人生の中で諦めないでねっていう気持ちだったり、悲しいことがあってもその次には嬉しいこととか、幸せなことが来るよっていう。そういうことを伝えていく曲が多いんですけど、『Lux』は本当に全ての曲がその要素を持っていて。というのも、水中スピカというバンド名の由来が──水の中って屈折率が高かったり暗かったりするんですけど、その水中にスピカという光があって。水の中を私たちの音楽が照らすことによって、屈折している歪みとかを解消して周りを明るくしたい。その歪みを是正していこうという意味でバンド名を付けたんですけど、そこはやっぱり壊したくないんです。
-うん、うん。
千愛:その世界観を壊さないためにも、その意味を持っている曲を書いていますし、そこは一番最初に書いた「青い惑星」から変わってないんですよ。生命の感じだったり、呼吸してる人間の様を書いていたり。「拍動」もそうですね。自分の脈="拍動"のことですし、『Lux』の1曲目の「iki」も、生きるという"iki"と、呼吸をするという"iki"の両方の意味を込めていて、社会の中で埋もれずに頑張って生きていってねという曲なので。だから、人生を鼓舞する作品に今はなっているかなって。それも"Lux"というタイトルだけじゃなくて、水中スピカというバンド名と全て繋がっているというのを、間接的に読み取ってもらえたらいいなと思ってます。
-今作でサウンド的には歪みが増えたり、よりキャッチーなアプローチをしたりしてはいるけれども、水中スピカという名前からは全くブレていないし、ここまでずっとその名前の意味通りの曲を書いてきていると。
千愛:全くブレてないですね。そこはずっと同じ信念を持って曲を書いてます。
-軸がしっかりと真ん中にあって、周辺領域を広げているような感じというか。
千愛:そうですね。
-すごくいいことだと思います。しおのさんは、今回の『Lux』はまだレコーディングに参加していなかったとのことでしたが、リスナーとして受け取ったときにどんな感覚がありましたか?
千愛&野口:(聞くの)怖っ!
しおの:(笑)シンプルに言うと、今までのアルバムの中で一番好きでした。私もマス・ロックが好きなので、前の作品もすごく好きなんですけど、おっしゃってたように本当にできる範囲が広がってるという感じがすごくあって。私が『Lux』で一番好きな曲は「MIYAKO」なんですけど、あの曲は本当に名曲です。
千愛&野口:おぉー!
しおの:説明するのが難しいけど、別に水中スピカが変わったわけじゃなくて、進化しているのがすごいなと思って。いいアルバムだなと思いました。
-その作品をここからライヴで叩いていく楽しみはすごくありそうですね。
しおの:そうですね。加入前にサポートで何本かやらせてもらったんですけど、新曲も何曲かやったりしていて。前の曲もすごくいいけど、最近の曲はライヴでやっていてやっぱりすごく楽しいです。
-そんなライヴについて、まだ発表できないことも多いと思いますが、2025年はどんな活動になりそうですか?
千愛:2025年は、本当に日本にいない年になりそうです......。
野口:ライヴが決まっている国が現状かなり多くあって。もちろん自主企画のライヴもそうですし、フェスもそうなんですけど、僕等もわりと把握しきれないぐらい広がってきています。
千愛:私たちは自主で活動してるんですけど、すごく助けてくれる大切なパートナーが本当にたくさんいて。そのおかげで水中スピカが成り立っているんです。そういったなかでのワールド・ツアーなので、2025年は大切な1年になると思います。
-楽しみな1年になりそうですね。
野口:そうですね。期待と不安とで、どうなってしまうんだろうって(笑)。
千愛:私たちは世界を大切にしたいし、日本もやっぱり大切にしたい気持ちがあって。だから、ワールド・ツアーの中にはもちろん日本公演も入れますし、あとは自主だけどワールド・ツアーができることを証明したいところもあります。
アルバムのリリースも、普通はどこかのレーベルとかレコード会社から出すことがほとんどですけど、私たちは自分たちでプレス会社にCDを持って行って、何千枚も刷っているんです。だから、これからバンドを始めようかなと思っている人たち、水中スピカみたいなバンドをしようと思っている人たちに、もしレーベルとかマネジメントに声を掛けられなかったとしても、バンド活動は楽しくできるし、世界に自分たちの音楽を届けることだってできるんだよっていうお手本になれたらいいかなと思ってます。
私たちとしては、自主でやってることを掲げたくて自主でやっているわけではないんです。もちろんメジャー・レーベルに所属したいなとか、そういう夢も持ってるし、現状自主というだけであって。だから、そういう若手アーティストの励みにもなったらいいなと思っていますし、いろいろな意味を持ったワールド・ツアーにできたらいいですね。
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