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INTERVIEW

Japanese

鎌野 愛

 

鎌野 愛

Interviewer:石角 友香 Photo:菅原一樹

-土岐さんも"山住まい"をされていますよね。

そうなんです。車で20分くらいの距離のところに引っ越してきたので、同じような景色をお互いに見ながら"今日、山きれいだね"とか"雪積もったね"等写真を送り合う仲になりました。

-「Prelude」は声を楽器的に使われてる曲で。モノローグは菅原さんなんですね。

最初そこに朗読を入れたいと思って自分で適当に喋ってみたんですが、なんか違うと思って菅原に何かしら喋ってもらって。そうしたら男性の声のほうが合うなと思ったので、そのままここはお任せしました。この曲のイメージとしては......私の作業スペースって8畳ぐらいの小さなところなんですけれども、その中でずっと悩み続けている自分というか......制作のときってみんな結構孤独だと思うんです。自分の部屋で孤独に向き合って音楽を作っていると想像の海にどんどん埋もれていって、やっと何かを見つけて這い上がってきて、現実世界に戻るんですが、そんなに最初と変わってなくて。だけど一度沈んだことによって何かほんの少し変わったなみたいな曲にしたくて。そういうことを伝えたら菅原が文章を作ってくれて、いい感じだったのでそのまま使わせてもらいました。

-ライナーノーツにきっかけとして"イマーシブで曲を作る"とありますが、これは空間オーディオのことですか?

そうです。8本マイクで360°収録できるイマーシヴマイクを使って、何か面白い曲をやりませんか? という話が土岐ちゃんからあって、なんとなく自分に合っている気がしたのでお引き受けしました。私はもともと大学でクラシック音楽を勉強していたのですが、声楽家は声を鳴らすときにマイクを使わないので、ホールの響きがどうかを考えながら歌わなければいけないんです。よく響くホールもあればそうじゃないホールもある。自分の響きを確認しながら声の出し方を変えるということを学んだので、音の響かせ方、空間の捉え方が無意識に身に付いてると思っていて。それをマイクで拾って落とし込めるならなんて素晴らしいことなんだろうと思って、その話をお受けしました。イベントのときにはサラウンドで私も聴くことができました。

-ライヴでその音像を聴く設定で作られた?

そうです。もともとそういう設定で録音して聴くイベントがあったのでそのために作った曲です。ただリリースするにあたって、ステレオにする必要があり、改めてミックスをしなおしました。ストリングスはイマーシヴマイクで録音したままの素材を使ったので、音像的にはステレオなんですが、距離感が分かるような曲になったかなと思っています。また、弦のアレンジを波多野敦子さんにお願いしたんですが、彼女の空間の捉え方も素晴らしく、当日は6人弦の方に来ていただいて、立って録る、座って録る、ちょっと離れる、歩きながら演奏する等いろいろ試してくれたので様々な距離感の音が重なった面白い音像に仕上がりました。敦子さんが参加してくれたことによっていい化学反応が生まれて当初の想像を超えたものができあがったと思っています。

-続いての「ゴーストグレイス」、これは"ゴーストシリーズ"ですね。"シリーズ"と言うからには論理的、イメージ的に何か共通項が?

このシリーズは、エレクトロニックな方向に進んでいて、なおかつ重めの音像で作っているイメージがあります。私が最初に「ゴーストスキャン」(『HUMAN』収録曲)を作ったときは初めてアナログ・シンセを触った頃で音の存在感に感動したんです。いつもはピアノ、ヴァイオリン、歌、もしくはバンドの編成で制作していたんですけど、アナログ・シンセを弾いたときの計り知れない音の存在感というか、一音で"めちゃくちゃいいじゃん!"という機材への感動が大きくて。もちろん他の楽器が良くないということでは決してありません。じゃあこの重圧な音に歌を乗せたらどうなるんだろう? という好奇心から始まっていて。いつもの編成とは歌の乗り方が違うので、どういうエフェクターの使い方だったら合うかとか、どういうコーラスの重ね方だとバランスよく仕上がるか等、声の置き方をより深く考えられたので、すごくいいきっかけになったと思います。そしてそれがとても面白かったのでシリーズ化できたらいいなと思ったのが始まりでした。それで第2弾として「ゴーストグレイス」に続いたという流れです。

-続く「カルテ」は淡々と重ねられていく日記のような歌詞のスタイルも新鮮でした。

そもそもは1stアルバムの自分にちょっと立ち返ろうと思って作り始めたんです。自分の声をサンプラーに入れて弾いたりして "よし実験的なことをするぞ"と思っていたのですが、意外とそこまで実験的にもならなくて(笑)。アルバムに収録されている他の曲よりは少し違和感を感じられるようなトラックになったと思うんですけど、いざそれに歌のメロディを乗せてもなかなかしっくりこなくて、毎日悶々としている私に菅原が"喋ってみたら?"とアドバイスしてくれたんです。で、何冊も本を持ってきてランダムにめくったページがすごくこの曲に合っていたので、"この言葉好きだな"っていうのを何個かピックして、自分に置き換えて新しく物語を作るという方法で完成させていきました。最終的には歌詞がトラックにうまくはまって、良い形でリリースすることができたと思っています。

-ラストには前作収録の「螺旋の塔」のライヴ・バージョンが収録されていますが、アコースティック編成で聴くとAメロの展開の複雑さが明快になりましたよ。

私の楽曲に多いのですが、一個一個のフレーズを取り出すとみんなすごく複雑なことをやっているのに、音数が多いため合わさると複雑さが薄れちゃうんです。狙ってやっているところでもありますが、アコースティック・バージョンにすることによっていろいろなフレーズが削がれていって、残されたリフが際立って、より複雑だと感じるようになるのだと思います。

-アコースティックの解釈で他の曲も聴いてみたくなります。

いいかもしれないです。今年も八ヶ岳にある"やまゆり"というお店でアコースティックのライヴ・イベント"里帰りの音楽"というのをやったんです。「皆既」を私のピアノとGecko(佐藤 航)君のピアノの2台のみでアレンジして演奏したんですけど、鬼のような難しさで(笑)。小編成で演奏するとバロックっぽい感じになりがちで、クラシック音楽を演奏しているかのような難しさがありました。歌い手3人と2台ピアノ等の編成で響きのいいホールでできたらまたいつもとは違う雰囲気の面白いライヴになりそう。今後の展開でいつかできたらいいなと思います。

-そしてリリース記念のライヴ("鎌野愛ソロライブ cocoon")が12月10日にフル・メンバーで開催されますが、楽しみですね。

どうしてもこのメンバーでやりたいっていう気持ちが去年から引き続きあったので、まず全員の予定が合う日を先に決めてから会場やリハ日を決めました。 "何月になってもいいからみんなが集まれる日どこ?"という話から入って、ようやくこの日の開催になりました。私自身、当日みんなと演奏できるのをとても楽しみにしていますし、とてもいい日になると思いますので、ぜひ遊びにいらしてください。