Japanese
DYGL
2024年10月号掲載
Member:秋山 信樹(Gt/Vo) 下中 洋介(Gt) 加地 洋太朗(Ba) 嘉本 康平(Gt)
Interviewer:吉羽 さおり
2012年の結成以来、国内だけでなく、アメリカやイギリスに長期滞在をして制作やライヴをしてきたDYGL。瑞々しい感性とポップ・センスによるギター・サウンドを奏で、Albert Hammond Jr.(THE STROKES)プロデュースによる1stアルバム『Say Goodbye to Memory Den』(2017年リリース)に始まり、4th『Thirst』(2022年リリース)では完全セルフプロデュースで国内外のインディー・ロック・ファンに愛される作品を生み出してきた4人が、久々となるEP『Cut the Collar』をリリースした。幻影的で、イマジネーションを刺激する曲でありながらも、今作ではより身体性の高い、エネルギッシュなバンドの姿が映し出された。'90sオルタナの衝動感に溢れたノイジーさと、タイトで洗練されたアンサンブルが同居した新鮮さで、バンドが加速していくのを感じる1枚だ。この作品の背景について、バンドのモードについて、4人にインタビューした。
-事務所から独立をして、今は自分たちでバンドのマネジメント等もやっているんですか。
加地:昨年の6月頃からマネジメントみたいな部分は自分たちでやっていて、制作やエージェント的な役割をnever young beachとかが所属するBayon Productionに手伝っていただいているんです。セルフマネジメントではありますけど、いろんな相談をしつつ一緒にやっている感じですね。
-実際に自分たちでやってみての感じはどうですか。
秋山:精神衛生はいいですね。ちょうど昨日もそのことについて考えていたんですけど、(所属していたのは)理解のある事務所だったし、担当の人も理解がある人だったんです。それでもやっぱり大きな会社だったので、そういう会社にいるっていうこと自体、何か無意識に影響があったんだなと感じるところがありましたね。むしろ、事務所に何を言われたわけでもないのに、自分たちで勝手に何か制限してしまうとか、そういう気持ちになっていたことのほうが怖いなと。
下中:会社に所属している以上、自分たちがやることを会社に納得させて動き出さないといけないとなると、息苦しさに繋がってくるところはあったんじゃないかなと思います。そういう面で責任は自分たちに全部ふっかかってくるけど、思い切りは良くなったかな。
加地:フットワークも軽くなった感じがありますね。
-そういったことも今回のEP『Cut the Collar』のタイトルや作風が想起させる。自由になるというイメージがある感じでしょうか。
秋山:分かりやすいですよね(笑)。最初からテーマとして据えていたわけではなかったんですけど。
-では改めて作品についてのお話を伺っていこうと思います。EP『Cut the Collar』は、これまでの作品の中でもより生々しいバンド感がある作品になった印象です。今回は、先にライヴで披露していた曲をレコーディングにした作品になっているそうですね。
秋山:EPの4曲はわりと下地というか、ある程度演奏できるねってアレンジになってからライヴでやり始めるまでは早かったですね。リリースまでの間に相当ライヴでやっているので、僕等の中ではちょっと新曲感が薄れてきました(笑)。でもライヴで数をやってからレコーディングをする、というのは目標の1つでもあったので。
-もともと、ライヴで曲を仕上げてレコーディングしようと考えていたんですね。
秋山:いつもは、録るぞってなってまずレコーディングの日程を決めても、結局ギリギリに追い上げるみたいな感じだったので、録った曲がライヴでどういう演奏になるのか自分たちで分かるのが後だったんです。ある意味、ライヴで先にやっていたら、ここはもうちょっとこうできたのになって曲も多かったんですよ。今回は、意図的にライヴで先にやろうというのがあったかもしれないですね。
-レコーディングの感触もだいぶ違いますか。
秋山:だいぶやりやすかったかな。
加地:基本、一発録りだしね。
-これはサウンド面でも感じるところではありますが、曲作りのやり方や制作の進め方にしても、ルーツ、原点的な感じがあったのでしょうか。
秋山:今回リファレンスにしたバンドはいろいろあったんですけど、音で考えるとそういう感じもしますね。
加地:曲作りも、だいぶ紆余曲折あったからね。
秋山:最近、EP以降の新たな曲を作っているんですけど、今できている曲はもっとアグレッシヴな感じになっていて。前回の4thアルバム『Thirst』はUSのエモとかオルタナティヴ、ちょっとUSの郊外っぽい感じを参考にしていたんですけど、今回のEPは、『Thirst』とこの次に来るだろう5枚目のアルバムの橋渡しになっているなと感じています。このEPを通して勢いが帰ってきた感じは自分たちでもしています。
-一発録りでのレコーディングも、そうした勢いを作品に封じ込めようという思いからですか。
加地:そうだと思いますね。あと作曲のプロセスでは、セッションで作った曲もやってみたいねっていうのはありました。収録した曲は秋山が作った曲が多いんですけど、候補に上がった曲はセッション・ベースのものもあったりして。
下中:今回だと「Evil」はセッションだったよね。
加地:そうだね。バンドらしいというか、フィジカルな感じが出てきているなとは4th『Thirst』以降の制作で感じていますね。だから一発録りも自然な選択だったかなと思うし。
-曲作りでは紆余曲折あったということですが、4thアルバム『Thirst』以降はいろんなアプローチを試した時期だったんですか。
秋山:自分たちの感覚を刺激できそうなデモをいろいろ作ってみようと思ったんです。特に3rdアルバム『A Daze In A Haze』(2021年)以降は、コロナ禍を引きずっていたのもあると思うんですけど、わりと内向きな感じがあったことに気付いたので。デモを作る段階からもう少しアグレッシヴにというか、エネルギーを意識して曲を作りたいのはありました。前作『Thirst』のリリース後も、僕自身、今後どんな曲をやっていきたいかというなんとなくの感覚はあったんですけど、100パーセント見えているわけではなかったので、まずはいろいろ作ってみて。自分的にこれもいいし、あれもいいしと思っているなかでも、バンド・メンバーみんなでいいと思えるものがDYGLらしくなると考えていたので、みんなに聴いてもらって、この辺をやってみようかっていう流れでやっていましたね。
-セッションでの制作もその時期にやってみたことだったんですね。
秋山:セッション自体はいつも自然発生的にやっていたんですけど、ここ最近明らかに調子が良くて。1日何十曲分のデモができるみたいな感じなので、それまでの自分たちのことを忘れ始めています。
嘉本:そうかも(笑)。
秋山:とりあえず1回流しでやってみて、今の感じ良かったねみたいなことは昔から定期的にあったんです。ただ腰を据えて、"この間のデモが良かったから、曲に起こしてみよう"みたいなことは意外とやっていなかったんですよね。最近は自分たちがやりたい方向、今、この感じで演奏を合わせていると楽しいねっていうのと、セッションで生まれてくるものそれぞれのチューニングが合い始めた感覚で。アルバム『Thirst』というセルフプロデュースの作品を作って、今回のEPでより自由に自分たちのエネルギーの出し方を探って、さらに今新しいところに繋がってきたかなと思います。セッションのやり方を試し直していた時期かもしれないですね。
下中:もともとみんなセッションは好きなんだと思うんです。1回始めたらずっとやってるし。レコーディング・スタジオでも、誰かが音出すと誰かがそれに乗っかってセッションが始まっちゃって、エンジニアの人に"また発作始まったよ"みたいなことを言われたりするので。セッションはもともと好きだし、ずっとやってきてはいるんですけど、それを曲に起こしてなかっただけなんですよね。
-今回の「Evil」はそういういいノリの中でできた曲だったんですね。
秋山:そうですね。この時期のセッションでは他にも何曲かできていて、曲としていいなっていうのもあったんですけど。DYGLはみんな趣味が多様で、それぞれの円がちょっとずつずれているから、よりカバーしている領域が広い感覚があって。しかもその好きを好きのまま、作品に詰め込んできた感じがあったんです。1枚のアルバムの中でいろんな要素があって、それを良しとする人もいると思うし、自分たちもそういう面があったんですけど。改めて、自分たちが好きなアーティストの作品をアルバム単位で見たときに、アルバムの中での統一性というのは表現の1つのパラメーターとして大事な部分だし、過去の自分たちを見ると、ちょっとそこら辺をないがしろにしてきたなと思うこともあったので。作品を作る際に、中心となる音の方向性や作品性は意識しようっていう話をしましたね。その話はちょくちょくあったんですけど、どうしたらそれを作品に落とし込めるのかを、ブラッシュアップする前に作品が出てしまうことが続いていたので、今回のEPでは、今まで以上にそこは意識しています。「Evil」以外のセッション曲を入れなかったのは、それもあるのかな。
−「Evil」は特に90年代オルタナの香りがしますね。個人的にはTHE VASELINESっぽいポップさを感じましたし、それもNIRVANAがカバーしていたTHE VASELINESっていう手触りがありました。
秋山:今日、ちょうどTHE VASELINESを聴いてきました(笑)。PIXIESとかNIRVANAもそうだし、THE VASELINESもそうですけど、オルタナともう1回向き合ってみようっていうのが、ここ最近はあったかもしれないですね。オルタナと言っても広いから、その定義の確認からみたいなのはありましたけど。
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