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INTERVIEW

Japanese

伊根

2023年10月号掲載

伊根

Interviewer:生田 大起

いろいろ探してるんですかね、音楽と一緒に


-最新作についても教えてください。例えば前作『Direct-View AR』は、白色を基調としたカラーリングに正方形や直線を中心としたデザインで幾何学的な印象でしたが、2ndアルバムとなる最新作『High-Pressure AR』のジャケットでは黒色を基調とし、アートワークには金の円などの曲線が目立ちます。前作と180°違う、動的な印象を受けたのですが、今作は前作と比較してどんな変化がありますか?

ヴィジュアル・デザインについては、金箔のついた漆器をモチーフに、デザイナーさんに依頼しました。僕の書く小説は和風な要素のあるSF作品で、民族性みたいなテーマがあるので、それを的確に表現していただいた結果がデザイン内の曲線なのかなと思います。あと、前作は絵本にしては文字が多い"半絵本"みたいな作品("HiPARは誰")を同梱しましたが、今回は完全に文章だけの小説が入ってます。僕のWEB小説の最終話が収録されていて、一般的な作品の1~3章ぶんくらいのボリュームがあるかと思います。WEB公開直前の10月11日にアルバムが出るので、最終話を先行して紙で読めるというのと、今回小説の最終ページはORIHARAさんにイラストを描いていただいたので、そこも楽しんでいただきたいですね。

-前作が第1章的立ち位置で、今作が第2章ですが、これで完結になるのでしょうか?

一応、そうですね。本当に自分の作り方が祟ってというか、"一応終わりではあるけど......"みたいな感じ。"インターステラー"もそうですけど、"完結ですか?"って聞かれても、映画としては完結してますけど、その先にはいろいろとあるはずじゃないですか。その感じに収まったというか、着地したのかなと。一応完結といえば完結な感じですね。

-いい意味で、登場人物たちに任せたというか。

本当にそうですね。

-収録曲についても教えてください。今作で印象的だった曲はありますか?

制作全体としては、オリジナル曲を作り始めた頃のスピード感や高揚感みたいなのを思い出したくて作曲してたと思います。制作初期はなかなか上手くいかないことも多かったですが、最後10曲目の「スリープジョーク」は原点回帰っぽく作れたので印象深いです。整合性より語感を優先して作詞してみたり、活動の中で固定化されていた自分の制作スタイルを1回全部取っ払って"宅録を始めた初期はこんな感じで作ってたなぁ"って。あと3曲目「言語羊の夢」は今の最大限を出せたなと。6拍子や7/4拍子とか変拍子を多用したうえで疾走感を損なわないように、など試行錯誤しながらも、わりとすんなり作れた曲ですね。

-特に10曲目「スリープジョーク」は顕著ですが、今作は非常に肉体的な印象でした。いわゆる調教というか、ボカロのミックスも意識した部分はありましたか?

前作のヴォーカルはコンプを強めにかけて潰したみたいな、無機質なヴォーカルにしてたんですけど、今回は人間っぽい暖かみを意識しました。オートチューン的なケロケロ感強めな調声でいて、あえてヴォーカルの音自体は強く加工せず、機械っぽさを減らしてます。声はロボット・ヴォイス、ミックスはちょっとだけ人間に寄せてるというか。

-まさに肉声寄りな感じがすごくしました。今のお話、すごく腑に落ちます。

でも無自覚でやってたかもしれないです。言われてみるとたしかに意識はしてたんですけど、そういえばそうだなと。

-今回店舗購入特典としてついてくる"さわれる"深深度AR"アクキー"も面白いなと思いました。あえて"さわれる"と表記されていますね。

僕のWEB小説"DiVAR"はタイトルの通りARを扱うストーリーになってるんですけど、100年後くらいの日本ではARをさわれるようになる技術ができているっていう背景があって。要は" ポケモン GO"の写ってるポケモンにさわれるみたいな感じで、それをモチーフとした特典なので、そういう表記になっているという話ですね。

-アクキーがフィジカルでついてくるということですよね?

フィジカルです。

-"さわれる"と記載があることで小説の中に入ったみたいな気分です。"本当に現実に存在するんだろうか?"みたいな。

それがちょうどいいかなって。

-世界観や魅力が凝縮された、ある意味キャッチコピーだなと思ってました。

あわよくばARなのかなと思って取った人が"なんも起きなくない?"って反応するのが一番それっぽいというか、それがやりたいというか(笑)。

-最後に今後の展望であったり、活動のご予定みたいなものがあればうかがえますか?

今作のリリースでひと区切りつけたので、鋭意検討中っていうのが正直なところです。また作りたくなるときがたぶん来るでしょうけど、僕の性格上、新しいアプローチをしたくなると思うんですよね。今おぼろげに思うのは、いつか自分のコンテンツを映像で観たいなっていうのはあります。アニメでもゲームでもいいんですが、それに自分が関わっていたり、自分で作っているって言えると一番嬉しいですね。自分がやるとしたら、どんな構造のSF映画的なコンテンツが作れるか試したいです。今回書いたWEB小説は、文量的にアニメ1クールとかに絶対収まらないと思うんですよ。そこは見誤ったというか......でも転用しやすいものを作れたので、ゲームとかだったら全然移植できるだろなと思いつつ、いろいろ探してるんですかね、音楽と一緒に。

-ゲーム化してほしいですね。伊根さんの世界を冒険したいです。オンライン・ゲームとかでも面白いかもしれない。

僕のWEB小説の中みたいにさわれるかどうかは置いといて、この世界観をARで再現するのは全然できると思います。ハードSF的に作ったつもりなので。僕自身、社会人時代が開発の仕事をしていたので、システム設計みたいなものもつい意識してしまうというか。これだったら実現できるよね、みたいな。やればできそうじゃない? ぐらいのとこまで盛り込んでしまってますが。少なくとも、ドラえもんの道具よりは実現できそうな気がするんですよね。

-メタバースというかバーチャル空間をアバターで歩けるみたいなのにも注目が集まってる昨今、合うかもしれないですね、伊根さんの世界観。

そうですね。ちなみに、個人的にはVRより先にARのほうが生活に根づくだろうと思ってます。VRだと五感体験の解像度を上げづらい気がしているので。実際に歩いたりとかは難しいじゃないですか。一応そういう装置はありますけど、それだとちょっと大掛かりだし、それ以上となると脳と繋げないと運動時の感覚もたぶん再現できないので、そうなると先にARじゃないかなって。そういう現実的な空想も相まって、合う世界観かもしれません。