Japanese
sajou no hana
2023年03月号掲載
Member:渡辺 翔 sana
Interviewer:山口 哲生
-もう1曲の「メーテルリンク」は作詞作曲が渡辺さんで、編曲はキタニさん。オンライン・ゲーム"ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか バトル・クロニクル"の主題歌ですが、「切り傷」とはまた対照的と言いますか。アップテンポで、エレキ・ギターの音を強く出したポストロック的なものになっていますけども。
渡辺:僕が書いた段階では、それこそ鍵盤とかストリングスとか、アコギも入れないものにしようと思ってました。ちょっとしたSEチックなものはあってもいいですけど、わかりやすい"シンセだね~"みたいなものは入れたくないなと思って。
-その意図と言うと?
渡辺:さっき話した、sajouの新しい軸になった明るさや爽やかさの部分が、ありがたいことに好評いただいて、そういう曲のお話をたくさんいただくようになってきたんですけど。それで、これは単純にクリエイターとしてのエゴなんですけど、差別化をしたかったんです。前回のシングルだった「天灯」はストリングスとかアコギが入っていてあの雰囲気で、「青嵐のあとで」は鍵盤が入っていてあの雰囲気、「Evergreen」(2020年12月リリースのメジャー5thシングル表題曲)もエレキは少なめだったので、じゃあ従来のバンド・サウンドだけで仕上げたほうがいいかなって。そうすることで、他の明るい系の曲とも差別化が図れるかなと思いました。
-サウンド面でもそうですし、アウトロも「切り傷」はほぼゼロですけど、「メーテルリンク」はがっちり長めですよね。
渡辺:そうそう(笑)。僕としては、長めに作っていたんです。それをキタニ君に投げたんですけど、彼の感性を信じているので、"長かったら切っていいよ"ぐらいの感じで渡したんですよね。そしたら彼が、いや、ここには明確な意思があるだろうっていうことで、一切切る気はなかったみたいです(笑)。
-sanaさんとしては、「メーテルリンク」にどう臨みました?
sana:「切り傷」の冷たい雰囲気から、「メーテルリンク」は温かさや温もりみたいなものも含めた楽曲になるんですが、やっぱりバンド・サウンドが魅力なので、めちゃめちゃまっすぐに歌ってますね。翔さんの楽曲はメロディもそうですけど、リズムも魅力だと思うので、子音がリズムとカチっとハマる気持ち良さみたいなものを結構意識して録ったかなと思います。
-子音がポイントだったと。
渡辺:そこを意識しすぎて、冒頭で言われたみたいに、歌い手のことを考えてないなっていうことが起きたんですよ(笑)。
sana:はははははは(笑)。そうでしたね。
渡辺:レコーディングのときに何回か録って、僕もsanaちゃんも"これは無理だよね?"って(笑)。それで、その場で歌詞を変えました。タイアップに入るところだったんですけど、OKが出たので。
sana:なんか、メロディがめっちゃ速いのに、"し"がめっちゃ続いて、全然歌えなくて(笑)。
渡辺:ほんとに考えてるのか? って話になりますよね、その書き方(笑)。でもまぁ、言葉を重視するときもあるので。
-渡辺さんが歌詞を書かれるときは、タイアップのことは念頭に置きながらも、ご自身の心情とリンクするものを書かれたりします?
渡辺:そうですね。楽曲提供に関しては私情をほとんど入れないですけど、sajouに関しては、自分が共感できないものは書いていない気がします。ただ、自分が完全にそういう人間というわけでもなくて、"共感できたり、理解できたりする面もあるかなぁ"ぐらいの感じ。でも、自分が何かしら思っていることだと思いますね。"僕はそう思わないですけど"っていう歌詞はないかもしれないです。
-サビにある"誰の背中も追わない/あの行列にくべない未来への想いを/近くで探そう"というラインに、改めて強い意志を打ち出している感じもありました。
渡辺:タイトルになっている"メーテルリンク"は"青い鳥"の作者なんですけど、あの話って、ずっと幸せを追い続けてもキリがないし、本当は近くにあるというもので、それは"ダンまち"に関しても共通するところだなと思っていて。僕もそうですけど、やっぱり頑張っていると先を見てしまうんですよ。とはいえ、それはキリがないし。ただ、そうは思うけれども、僕は完全にそう思えているわけではないというか、"そうだよね、近くにあるよね"の境地にはまだ至っていないんです。だから、先を見て探していくんだけど、頭の片隅では"でもまぁ、近くにはあるから、そんなに頑張りすぎないでいこうよ"とも思っているから、こういう歌詞が出てきたんだろうなっていう気がします。
sana:ふふ(笑)。
-どうしました?
sana:いや、翔さんの歌詞ってちょっとひねくれてますよね(笑)。
渡辺:ほんとに? 自分で"ひねくれてる"とか言うと中二病みたいな発言でカッコ悪くて言いたくないけど(笑)。
sana:でも、ただ夢を追いかけるだけじゃなくて、それをまた違う視点から見ているのが翔さんらしいかなと思います。そこまでまっすぐな歌詞ってそんなに書かないじゃないですか。
渡辺:sajouではね。でも、なんでだろうな......。もちろん自分の好きな音楽の方向性では絶対にあると思うんですけど。昔から、一瞬"何? よくわかんない。どういうこと?"って思う歌詞が好きだったから......でも別に俺、「世界に一つだけの花」とかめちゃくちゃ好きだけどなぁ。
sana:意外!
渡辺:すごくいい歌詞だなと思う。でも、sajouだとこうなるのは自分でもわかんない(笑)。
sana:sajouだと闇がどんどん出てくる(笑)。たぶん、自分のバンドだからっていうのもあるんじゃないですか?
渡辺:そこはあるかもしれない。やっぱり楽曲提供では出してこなかった面が自分にはあって、その部分を出せてないっていうのがだんだん溜まっていく感覚というか。それをバッと放出したからこうなるっていう可能性もありますね。楽曲提供のときも、やっぱりわかりづらかったりすると、クライアントからは"もう少しわかりやすく"という話もいただくので。
sana:なんか、女性声優さんに歌わせるわけにはいかない、みたいな(笑)。
渡辺:そうだね(笑)。歌った方がそういう人間だって勘違いされちゃうかもしれないから。だからまぁ、身内ならそういう人間って思われてもいいかっていうのがあるのかもしれないね(笑)。僕の歌詞だけど、こっち(sana)がそういう人間って思われますから、結果的に。
-sanaさんとしても、渡辺さんの歌詞はわかるなという気持ちはあります?
sana:そうですね。これまでいただいた歌詞も、これは自分の気持ちとは全然違うなっていうものはなかったです。そういう意味では、ベースの部分というか、なんていうか、ひねくれたところがちょっと似てるんじゃないかなと思います、sajouのメンバーは。
渡辺:でもキタニタツヤは、言っても陰ではないんだよ。なんか、全部を持っているというか、本当に万能型というか。なんて言えばいいんだろう......まぁ、まだ底が見えないっていうのはあるんですけど、完全な陰ではないんですよね。それは本人も言ってるんですけど。
-そんな3人で作っていくこともそうですし、新たな挑戦をした「切り傷」と、ある意味原点的な部分を出した「メーテルリンク」を発表されたことで、またここから新しいものが生まれてきそうですね。
渡辺:そうですね。今も曲を作っているので。
sana:新しい面が見えるような曲も作っていきたいです。
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