Japanese
Aqilla
2022年09月号掲載
Interviewer:藤坂 綾
万人受けしなくてもいいし全員にいいねと言われなくてもいい――わかってくれる人が出会ってくれればいいのかなって
-今お話を聞いていて、いらないものを削ぎ落としたからAqillaさんがはっきり現れたのかなって、さっきの答えが見つかった気がします。
そうですね。今までの活動をずっと応援してくださっている方がいらっしゃるんですけど、みんなは逆に、最近の私が変わったと思ってるみたいで。逆にいろんなものを身につけすぎていってるんじゃないかって。
-今のほうがってことですか?
はい。たしかに今の自分は前の自分とはまったく違うから、変わったと言えば間違いなく変わってはいるんですけど、私が何にも影響を受けてない小学生の頃や中学生の頃のことを思い返してみると、自分の好きなもの、好きな音楽ってやっぱり変わってないんですよね。私、子供の頃から親の影響で永ちゃん(矢沢永吉)が大好きで、毎年武道館に行ってたくらいなんです。
-それはすごいです!
親の影響ってすごいですよね。それからずっとロックに憧れて、女版の矢沢永吉さんになりたかったくらいなんで、むしろ好きなものは変わってないんですよ。逆にそれまで自分で忘れてしまっていたというか、正直封印してたところはあるんです。で、その封印した上にさらにどんどんいろんなものを乗せていっちゃったというか。
-あー、そこまでいったらきっと自分の好きなものとかもわからなくなっちゃうでしょう。
子供の頃から大人と関わる仕事をたくさんしてきたので、あれをしたらダメ、これをしたらダメ、こういうことはやらないほうがいいって山ほど聞かされて、それに結構忠実に、真面目にやってきたんです。信頼される人間にならなくっちゃって思ってたから。でも、そう思えば思うほど自分の好きなものを否定されてる気がして、"あれ? 私の本当に好きなものはいったいなんだろう?"っていうところまでいっちゃったんですよね。それが一番苦しくて。だからあの頃の自分を思い返して、この2年間で自問自答を続けた結果、やっと本来の自分が出てきて、どんどん自分らしくなっていけてるんだと思います。実際今が一番楽しいし、自分でいられる気がしますから。
-本来の素の自分で勝負していくというところで、プレッシャーみたいなものはないですか?
プレッシャーは死ぬほどあります。死ぬほどあるんですけど、それこそリスクじゃないですが、そういうのがあったほうが楽しいかなって。そのほうが音楽に真剣に生きてるなって思うんです。なので絶対に無難なほうを選ぶなって言い聞かせてますね。
-楽しいほうを選べっていうのはよく聞きますけど。
あー、でも危険なほうを選んだうえで自分がどう楽しめるかって、そこなんじゃないかと思います。それで楽しめないんだったらこれでほんとに合ってるのかな? っていう気持ちにきっとなるんだろうけど、常に危険を選んでそれをどこまで楽しめるか、そこが一番重要なのかなと。
-なるほど。多少のリスクを背負ったほうが刺激的でもあるし、この先に繋がっていくのかもしれないですね。
アルバムの曲も、Aqillaの曲は別に万人受けしなくていいって、そういうところもあるんです。聴いてもらった人全員にいいねと言われなくてもいい気持ちは私にもあって、わかってくれる人が出会ってくれればいいのかなって。そういう人たちに私から出会いにいけばいいのかなって思います。
-たしかに、どの曲も一筋縄でいかないというか、構成からアレンジまですごく凝ってるなと思いました。
"あれ? なんか急に違う曲が入ってきた?"って感じですよね(笑)。
-そうですそうです。難しい曲ばかり(笑)。
難しいんですよ、これがほんとに。私の中ではすべての曲がシングルにできてしまうくらいだと思っていて、何ひとつとしてサブキャラ、モブキャラがいないというか全曲主役くらいの曲ばかりなうえに、普通じゃないものを選びまくった結果がこのアルバムで。普通じゃなくても、万人受けしなくても、それを面白いと思う人がいてくれたらそれでいいのかなと。聴いてる人の頭に"?"を浮かべたいんです。それで何回も聴いてもらえたら嬉しいなって。私も聴いてて全然飽きないし、私らしい曲たちだなって思いますよ。
-中でも一番思い入れのある曲はどの曲ですか?
ライヴでももうやってるんですけど、「名前の無い感情」ですね。この曲は、歌ってて泣きそうになります。サビはわりと強めに歌ってるんですけど、歌詞の内容的にはちょっともやもやしたような、この2年間の自分の気持ちみたいなものを歌ってるようなところもあって。生きてたら矛盾だらけだし、そういう気持ちって誰にでもあるじゃないですか。特に私たちの世代というのは常に矛盾とか、いろんな人からの言葉や意見と闘って生きていくみたいなところがあるので、"名前の無い感情"がいっぱい出てくると思うんです。そういう想いや気持ちが歌ってると自分にもすごく沁みてきて、泣きそうになっちゃいます。あとは、単純にリズムが難しくてレコーディングに苦戦しましたっていう意味で、レコーディングで感じた私の"名前の無い感情"が入ってるかもしれない(笑)。
-あはははは(笑)。なるほど。
もう1曲歌ってて泣きそうになる曲があって、「幻日と月」なんですけど、"感情を飲み込んで 笑ってる僕は 嘘つきかい"って、この歌詞がもう大好きで、レコーディングで泣きそうになっちゃいましたね。この歌詞はチームで話し合ってたときに出てきたんですけど、すごく切ない言葉じゃないですか。でもこういう気持ちの人ってきっといっぱいいて、なんなら1回は必ず経験してることなんじゃないのかなって。感情を飲み込んで、押し殺して笑ってる人っていっぱいいると思うんです。私が自問自答してきたこともこういうことなので、これが私の本質とも言えるし、その気持ちをこうやって言葉にして出してみると、改めて切ないなって感じますね。万人に受けなくていいけど、この曲のこの部分は多くの人に共感してもらえるんじゃないかなって思います。
-ちなみに、アルバムの中で一番新しい曲はどの曲なんですか?
「SUGATAMI」ですね。最新曲「ROCK'N ROLL SHOW」のひとつ前だから。
-「ROCK'N ROLL SHOW」はライヴでやられてた曲ですか。
そうです。ちなみに、うちは最新曲が一番かっこいいんですよ。レコーディングのたびに、"いやー、またいい曲できた、次のはほんとヤベぇ"って(笑)。
-「ROCK'N ROLL SHOW」はなんでアルバムに入らなかったんですか。
アルバムが完成してからレコーディングしたんですよ。一番新しい曲なので。でもかっこいいからってこないだの下北のライヴ("DaisyBar pre.-North to South-")で急遽やったんです。当たり前かもしれないけど、みんな常に成長してるから、一番新しい曲が今の自分を一番表してるんですよね。だからこのアルバムの中で言えば「SUGATAMI」が今の自分に一番近い曲になるし、そういう意味でリード曲にもなってるし。
-新しい曲が一番かっこいいって、単純にこの先がすごく楽しみになりますね。
これからいい曲しか出てこないんじゃないかって思うとわくわくしますね。あの曲に似てるとか、同じような曲を作ることは二度とないので、次の作品はまったく違うものになると思うんです。だからきっとこれからもどこかに辿り着くっていうことはなく、Aqillaをやっと掴めたと思ってもまた次の作品では全然違うだろうし、そうやって常にどんどん変わっていくんだと考えています。
-Aqillaとはこういうものだというのは一切なく。
それはもう一切ないと思っていただけたら。Aqillaとはこういうものっていうのはほんとにないです。ただひとつ言えるのはロックだよって、ただそれだけなので、そこだけわかっていただければ。そもそもロックに縛りはないし、今こういう音楽をやってる人もいないと思うので、奇妙に思ってもらっても全然いいです。むしろ奇妙に思ってもらえるくらいが、ちょうど私たちの目指してるところなんじゃないかって、そんなふうに思います。
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