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INTERVIEW

Japanese

kiki vivi lily

 

kiki vivi lily

Interviewer:山口 智男

ソウル・ミュージックとヒップホップをバックボーンに持つシンガー・ソングライター、kiki vivi lilyが2ndフル・アルバム『Tasty』をリリース。その『Tasty』は荒田 洸(WONK)、MELRAWをサウンド・プロデューサーに迎えながら、ぐっと研ぎ澄まされた印象の作品に。これまでスウィートでポップという言葉で表現されてきた魅力は相変わらずながら、クールという言葉が相応しい魅力がこれまで以上に感じられるようになってきた。実は、こちらのほうが彼女の実像に近いんじゃないか。そんなことを念頭に『Tasty』について訊いた。

-2ndフル・アルバム『Tasty』は想像力を刺激される、とても聴き応えのある作品でした。今日はその『Tasty』について、いろいろ聞かせていただきたいのですが、その前にSkream!初登場なので、kiki vivi lilyさんの音楽的なバックグラウンドを聞かせてもらえないでしょうか。『Tasty』にはゴスペル、レゲエ、ジャズなど幅広い音楽の要素が感じられる曲が収録されていますが、kiki vivi lilyさんの音楽的なバックボーンというと、やはりソウル・ミュージックなのかな、と。kiki vivi lilyさんはいつ頃、どんなふうに音楽と出会ったのでしょうか?

小さい頃、ほんとに小学生くらいのときは、当時流行っていた歌謡曲を聴いていました。そのあと中学生ぐらいになると、ゆずとか、親が好きだったサザン(サザンオールスターズ)とかレンタルCDを借りてきて聴いていたんですけど、大学生になった頃に、ニュー・ミュージックと言われていた80年代の楽曲に改めて出会ったんです。例えば、荒井由実さん、松任谷由実さんとか山下達郎さんとか。やはり両親が好きだったんですけど、私にとっては音楽に、さらに興味が湧いたきっかけがそのニュー・ミュージックとの出会いだったんです。そこからずっと邦楽を聴いていたんですけど、そのあと、大学のサークルのメンバーとか音楽仲間とかから紹介されて、ソウル・ミュージックとか、ヒップホップとかを聴くようになって今に至ります。

-ちなみにkiki vivi lilyさんがご自身でも曲を作り始めたのは、大学でサークルに入ってからだったんですか?

そうですね。大学生のときに作り始めました。

-では、80年代のニュー・ミュージックももちろん吸収してきたと思うのですが、曲作りという意味では、ソウル・ミュージックやヒップホップの影響がやはり大きなものとしてあるんでしょうか?

そうですね。kiki vivi lilyというソロ・プロジェクトに関して言うと、まさにソウル・ミュージックをルーツにサウンドもなるべく嚙み砕いてというか、多くの人にわかりやすく、馴染みのある形にして届けるみたいなことが、ちょっとした使命としてあると自分では思っています。

-ソウル・ミュージックやヒップホップで、フェイヴァリット・アーティストを挙げるとしたら?

最初にkiki vivi lilyはこの路線で行こうと思ったきっかけは、NEW EDITIONの「Candy Girl」という楽曲のキュートさにやられたことでした。ヒップホップだったら、クラシックなところなんですけど、2PACとか、NASとか、SNOOP DOGGとか。

-ギャングスタ・ラップがお好きだったんですね。

音楽的にすごく惹かれたんです。ラップ・ミュージックを聴くスタンスっていろいろあると思うんですけど、私は音色やサンプリングの文化に惹かれて、ポップスに昇華したいと思いました。

-『Tasty』からは、それ以外にもいろいろな音楽を聴いていることが窺えるのですが、もちろん今現在もいろいろな音楽を聴かれているんですよね?

そうですね。ジャンルにこだわらず聴いているので、レゲエも必然的にというか、音楽に対して探求心を持っているなかで出会って、好きになりました。

-『Tasty』の5曲目に収録されている「Whiskey」の歌詞に、Robert Glasperの名前が出てきますが、ああいう最近のジャズもちろん聴いている、と。

めちゃめちゃ聴いているというよりは、みなさんと同じようにひと通り聴いているぐらいの感じではあるんですけど、大好きです(笑)。

-そういうリスナー歴や最近聴いている音楽の要素が『Tasty』では、多彩な曲として生かされているわけですが、今回『Tasty』を作るにあたっては、生活の中で味わう様々な感情を音楽で表現するというテーマがあったそうですね。そういうテーマはどんなところから思いついたものなのでしょうか?

コロナ禍になってから作り始めたアルバムなんですけど、必然的に家にいることが多くなって、家にいること自体はすごく好きだったので、よりおうち時間を充実させていったんです。そのなかで出会ったのが料理で。誰でもおいしいものを食べると元気になるじゃないですか。そんな楽しみをコロナ禍の日々に見いだしていたので、作る曲、作る曲が食べ物に寄っていってしまって(笑)。

-あぁ、なるほど(笑)。

食べ物をモチーフにした曲が増えてしまったので、『Tasty』というコンセプト・アルバムにしたらいいかもしれないと思いました。そんなふうに、まさに自分の身近な楽しみから着想を得た作品なんです。

-コロナ禍以前から料理はされていたんですよね?

ええ。ずっとひとり暮らしなので、料理はこれまでもしていたんですけど、いいフライパン買おうとか、いいオーブンを買おうとか。買ってもいい感じ、あるじゃないですか。コロナ禍になってから(笑)。それでちょっとグレードアップしたって感じです。

-そんなkiki vivi lilyさんの一番の得意料理は(笑)?

それ、困るんですよね(笑)。ほんと自分しか食べないんで、たいしたものは作ってないんですけど、最近だったら、パン作りにはまってます。

-おっ、パン作りですか。

ベーコンエピとか作るんですよ。あとはシンプルにカレーとかですね。たいしたもの作ってなくてすみません(笑)。

-いえいえ、こちらこそ『Tasty』の話から横道に逸れてしまいすみません(笑)。作っていったら、食べ物をモチーフにした曲が多かったということなのですが、逆に『Tasty』というコンセプトに導き出されてできた曲もあるんでしょうか?

「Whiskey」はそういうコンセプトありきで作りました。今回のアルバムにはいろいろな味を入れようと思ったんですけど、苦みみたいなものを入れていないと気づいて、「Whiskey」でほろ苦い恋を描いてみました。コンセプトをがちっと決めないことには生まれなかった曲だったので、そういうのは面白いと思いました。あと、4曲目の「Yum Yum (feat. Shin Sakiura & Itto)」、9曲目の「Onion Soup」もそうですね。「Yum Yum (feat. Shin Sakiura & Itto)」は、まさに"Tasty"という感じの曲になったんですけど、ちょっと遊びも入れられたのは、やっぱりそういうコンセプトがあったからだと思います。

-『Tasty』は前作の『Good Luck Charm』(2020年リリースのデジタル・ミニ・アルバム)、前々作の『vivid』(2019年リリースの1stフル・アルバム)と比べると、クールになったというか、音作りが研ぎ澄まされた印象があるのですが、今回サウンドメイキング、トラックメイキングという意味では、何かテーマや方向性は決めていましたか?

これまでの作品は自分が何者なのかを提示する作品だったと思うんですね。世の中に、まだ私というものがどういう音を奏でるのか広まっていない状態だったので、かなりがっちがちに盛りつけて出していた感じなんです。もちろん、今もまだ、私のことをより多くの人に知ってほしいという気持ちはあるんですけど、そういうところから自分の音楽というものをみんなに聴いていただける立場になって、前の2作のように着飾らなくなってもよくなったというか、そんなにポップに盛りつけずに素材の良さや、ちょっと気を張らない感じを今回見せられたらいいと思ってサウンド面、歌唱、ミックスどれもなるべく自然体を意識しました。そういう部分がおっしゃっているクールさに繋がっているのかもしれないですね。

-自然体というふうにおっしゃったのですが、『Tasty』を聴いて、音楽的な感性は尖っている方なのかなと思いました。

時々言われますね。怖い人なのかもしれないって(笑)。でも、音楽的には私が一緒にやっている仲間たちもそうなんですけど、何か新しいことをしようと常に思っているし、安易なところに逃げないようにしようと常々言いながらやっているんです。ちゃんとひとつひとつの音に意味があるものを作ろうという共通認識が全員にあるので、メンバーのおかげもあってちょっと尖った感じがあるのかもしれないです。

-曲作りはどんなふうにやっているのでしょうか?

ビートメイカーの方に入ってもらっている曲は、ビートを先に作ってもらって、ネタを乗せていくんですけど、ほとんどの曲は最初私がピアノ弾き語りで作って、そこにある程度のアレンジを施した段階でサウンド・プロデューサー陣に持っていって、それをバラして、みんなでイチからアレンジしていくというやり方が多いです。

-サウンド・プロデューサー陣のところに持っていくときにはkiki vivi lilyさんの中で、"こういうアレンジで"、"こういう方向性で"というのは決まっているわけですね。

なるべく、そこで提示できるような状態には持っていくようにしています。でも、そこから全然別の方向に行くこともざらにありますね。

-今回もあったんですか?

3曲目の「手を触れたら」は、かなり変わりました。最初は『vivid』からの流れが感じられるアレンジにしようと思っていたんです。kiki vivi lilyの新譜を聴いているってわかってもらえるように。でも、サウンド・プロデューサーのふたり(荒田 洸(WONK/Dr)、MELRAW)に聴いてもらったら、"前作と同じことをやるんだったら、前の作品を聴いてもらえばいい。それよりも新しいことをやろう"って言われて、たしかにそうだと思って、「手を触れたら」は4つ打ちの曲になりました。

-サウンド・プロデューサーもkiki vivi lilyさんも常に新しいものを求めているという姿勢が、そこに生かされたわけですね。

そうです。かなりがらっと変わりましたね。

-ビートメイカーの方からビートを提示してもらってとおっしゃいましたが、ビートというのはどんな状態のものなのですか?

ウワモノも含め、すべて入った状態のトラックのことです。ほぼほぼ完成形に近いものですね。

-そこに歌詞とメロディを乗せていくわけですね?

そうです。そういう曲も1作品に1曲は入れたいと思っているんですけど、今回は、それが「Yum Yum (feat. Shin Sakiura & Itto)」と「New Day (feat. Sweet William)」、2曲あるんですよ。