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INTERVIEW

Japanese

伊東歌詞太郎

2021年12月号掲載

伊東歌詞太郎

Interviewer:山口 智男

毎回夢を見ているし、そこに希望も持っているし、すごく期待しているんです


-「真珠色の革命」のMVは、伊東さんの念願だった東市篤憲監督が手掛けていますね。

僕、BUMP OF CHICKENが大好きなんですよ。東市監督というと、プロジェクション・マッピングと光を駆使したバンプ(BUMP OF CHICKEN)の「ray」とか、「Butterfly」とかが有名じゃないですか。でも、あまりにも東市さんと言えばというふうになってしまって、ここ数年間はそういう作り方は封印していたそうなんですよ。でも、今回、"歌詞太郎君の作品で封印を解いたんだ。プロジェクション・マッピングと光ってやっぱりいいね"と仰っていて、オファーに対してOKをいただいたときも"マジですか!?"って思いましたけど、もう1回びっくりして、"ありがとうございます!"って(笑)。

-では、MVの内容に関しては、監督にお任せだったんですか?

打ち合わせして決めようということになっていたんですけど、楽曲を聴いた東市監督から最初プレゼンしてもらったとき、ひとつの偶然があって。もちろん、その偶然がなくても全然良かったんですけど。"Auroragazer(伊東歌詞太郎 ワンマンLIVEツアー2021「Auroragazer」)"というタイトルでツアーを回ることがすでに決まっていたんですけど、東市監督から"曲を聴いて、こんなイメージが浮かびました"って提案してもらった中にオーロラが出てきたんですよ。"えぇっ!?"って思いました。そういう素敵な偶然が起きるときって、そこに身を委ねたほうがいいじゃないですか。それもあって僕から"こうしたいんです"っていうのはなかったですね。宇宙とか、星とか、オーロラとか、僕の曲をいろいろ聴いたうえで出てきたイメージだったようですけど、もともとそういうものが好きなんですよ。だから、星の曲は多いんです。ただ、オーロラは1曲もなかった。それなのに出てきたから、びっくりしました。

-"Auroragazer"ってツアー・タイトルはどんなところから?

僕は路上ライヴをライフワークにしているというか、路上ライヴで音楽的な体力とか、信念とか、哲学とかを醸成してもらったので、いつかオーロラの下で路上ライヴをやりたいんです。それが僕の夢なんですよ。今回、メジャー・デビューするってなったとき、"3度目のメジャー・デビューなんだから、さすがにもう夢なんて抱いてないだろ?"って言われたんですけど、毎回夢を見ているし、そこに希望も持っているし、すごく期待しているんです。その意味では、今はまた夜明けなんですよ。オーロラには始まりの光という意味もあるらしい。それでオーロラの光が見えてきたという意味で、"Auroragazer"というタイトルにしたんです。

-そしたらMVにオーロラが出てきた、と。

MVだけじゃないんですよ。"ディープインサニティ ザ・ロストチャイルド"のエンディングの映像を観たら、途中からオーロラが出てきたんですよ。これも偶然なんです。びっくりして、え、アニメでも!? って(笑)。そういう意味で思い入れがある曲になりました。どの曲も思い入れがあるというか、愛しているから世に出すんですけど、そこに付随する出来事がエピソード的に出たことで、この曲は自分の心に残る楽曲になりましたね。

-TVアニメ"幼なじみが絶対に負けないラブコメ"に挿入歌として提供した2曲目の「スプリングルズ・サワークリーム」は、ホーンもフィーチャーしたハジけるようなロックンロールですが、3曲目の「TEL-L」は――

ヤバいですね、この曲は(笑)。

-歌詞、曲ともにそう思います。タナカ零さんによる作詞/作曲/編曲なのですが、どんな経緯でタナカさんの曲を歌うことになったんですか?

いつもマスタリングをお願いしているエンジニアさんから"殴られたぐらい衝撃を受けた。すごい歌詞なんだ"って教えてもらったのが、タナカさんが作詞/作曲/編曲した安月名莉子さんの「たたくおと」という曲で、実際聴いてみたら歌詞も曲もすごかった。いい意味でおぞましいというか、底が知れない感じがしたんです。それで"タナカ零、すごい!"と思って作品を追っていたんですけど、今回、いろいろな巡りあわせがあってお願いすることになりました。すごく久しぶりですよ、作詞/作曲/編曲まで、自分が一切関わっていない楽曲って。

-歌詞、曲ともに伊東さんが普段作らないタイプの曲ですよね?

そうですね。少し計算をしないとこういう曲は作れないですね。

-自分からは出てこないものを取り入れたかったんですか?

いえ、制作サイドからの挑戦を感じたんですよ。"伊東歌詞太郎さんっていろいろな曲が歌えるけど、こういう曲はさすがに苦労するんじゃないの?"って(笑)。実際、曲が送られてきたとき、メロディを覚えられなかったんです。それで無理だと思って、それから一切聴かずにレコーディングの当日を迎えるっていう。でも、昔から僕は自分の曲だろうが、提供曲だろうが、カバー曲だろうが、レコーディングの本番当日まで練習をしたことがないんですよ。その曲だけを練習しても意味ないんです。歌とか音楽とかって、あえて技術という言葉を使いますけど、そういうものが万とかひょっとしたら億とか、ずらっとあって、そのうち1個だけ突出していても意味がない。必須アミノ酸と同じ例えをしているんですけど、必須アミノ酸って9種類全部、毎日、規定量を摂らないと意味がない。歌もそうだと思うんですよ。だから、何か曲を1曲だけ練習するとか、何かの技術のためにずっと練習するとか、まったく意味がないんです。だったら、毎日大好きな歌を歌っているほうがいい。僕はこの曲を初めて聴いたとき、難しすぎて、楽しく歌えないと思ったんです。

-当日を迎えてどうだったんですか?

マイク選びをしながらまず歌ってみたんですけど、タナカさん、"この人何も覚えてきてないな"って絶対、不安になったと思います。いや、そこにいる全員が不安になったはず(笑)。それで、"Aメロ3回聴かせてください"って超集中して聴いてから、"やってみよう"ってやりました。やっぱり、歌って覚えている/覚えていないって関係ない。メロディをなぞるとか、リズムの符割を覚えるとかやっていると、ただそれだけの曲になっちゃうんですよ。自分の身体に入れて"よし、今なら入ってるぞ。あとは解放"ってやって、出てきたものをあとから聴いて、"これはいい"と思ったらそこを使おうってなるんですけど、結局、「TEL-L」はセリフ以外、頭から最後まで歌ったテイクを使いました。あとから聞いたら、制作の人が"歌詞太郎さんってなんでもできるから、どんな要素でも入れちゃってください"ってタナカさんに言ったらしい。だから、"「たたくおと」のほうが難しいんじゃないですか?"ってタナカさんに言ったら、"「たたくおと」はリズムが複雑だけど、「TEL-L」は音域も含め、様々な表現方法が必要だから、こっちのほうが難しい"って。そう言われても、自分としてはわからないんです。出てきたものを、そのまま表現しただけなんですよ。

-最後に"Auroragazer"の意気込みを聞かせてください。

来年春にベスト・アルバムが出るんですけど、そういう意味合いも含め、最新の歌を聴いてもらって、それで春を一緒に迎える。そんなふうに思ってもらえるようなライヴにしたいと思っています。