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INTERVIEW

Japanese

伊東歌詞太郎

2021年12月号掲載

伊東歌詞太郎

伊東歌詞太郎

Official Site

インタビュアー:山口 智男

シンガー・ソングライター、伊東歌詞太郎がTVアニメ"ディープインサニティ ザ・ロストチャイルド"にエンディング・テーマとして提供した「真珠色の革命」をシングルとしてリリース。この壮大なミッドテンポ・ナンバーには、同アニメが描こうとしている"ヒーローとはなんだ!?"というテーマに対する伊東の回答や思いが込められているという。

-今年7月に再びメジャー・レーベルと契約したことを発表したと考えると、1年3ヶ月前(※取材は10月下旬)に『記憶の箱舟』をリリースしたときとはまた、状況や伊東さん自身の心境も違ってきたのではないでしょうか?

こんなにメジャー・デビューする人もいないと思うんですよ(笑)。そのたびに思うんですけど、実は自分の心境は変わらない。というよりは、変わってはいけないんじゃないかって気持ちがあるんです。メジャー・デビューしたから、自分の活動がそこで上がるってことはない。今までどおり、いい曲を作って、いいライヴをしてということを続けていくのはこれまでと変わらない。そこに関わってくれる人が増えるということがメジャー・デビューだと思うんですけど、その核になるアーティストである自分が変わってしまったら変だと思います。なので、心境は変わらないというのが正直なところです。

-でも、これまで以上に多くの人に自分の歌を届けられる可能性が広がることに対して、期待はあるんじゃないでしょうか?

もちろん希望は持っています。でも、メジャー・デビューが決まる前から、僕は自分には期待していたんです。期待していたというか、自分に期待ができるように生きたほうがいいと思っていました。例えば、音楽をさぼって、毎日音楽とは関係ないことをやっていたら、ミュージシャンとして自分に期待できない。だから、朝起きたとき"今日は音楽的にいいことが起きるんじゃないか"と、それはお客さんが増えることももちろんですけど、昨日、歌えなかった歌がもう一生大丈夫だと思えるぐらい掴めたでもいいし、そういうことが起きる期待を、毎日僕は自分にしているんです。それは過信ではなくて、昨日までの生き方次第で期待が持てるかどうかが決まると思うんですよ。だから、さぼっていたら当然、期待はできない。そういう意味で、メジャーに行く前から自分はしっかり音楽をやってきたので、絶対メジャーからまた声が掛かると思ってたし、お客さんが増えると思ってたし、そういう希望は変わらず持っていました。

-そんななか今回、リリースする「真珠色の革命」は、TVアニメ"ディープインサニティ ザ・ロストチャイルド"のエンディング・テーマですが、どんなところから取り組んでいったんですか?

最初に最終話までのプロットが来て、それからシナリオが来て、キャラクター・デザインのラフが来て。そこで主人公の姿とか話し方とか、自分なりに想像しながら作ったんですけど、シナリオもそのあと当然変更が加わるんです。だから、曲を作ったとき、主人公の時雨・ダニエル・魁は"ヒーローになりたいんすよ、俺"みたいな今よりも強気の性格の印象だったんですけど、実際アニメが始まったら"笑われるかもしれないですけど、僕ヒーローになりたいんです"みたいな。全然印象が変わったんです。

-でも、そこで「真珠色の革命」、主人公のイメージと違ってない? とはならなかったわけですよね?

もちろん。なぜかというと、主人公本人を描くってことをしていないから。タイアップものって全部そうなんですけど、作品全体を通して、原作者なり、監督なりが描きたいことってなんなんだろうって話じゃないですか。今回は、特にしっかりと描きたいものが、それを自分はアートと呼んでいるんですけど、アートがあるんですよ。それはアニメを観ていけば、段々わかってくるんですけど、時雨がある決断をしていくんです。ネタバレになるからはっきりとは言えないんですけど、その決断が大きなテーマになっているし、ヒーローになりたいという思いを、時雨が初めに持っているところも実はこの作品で描きたいところだと思うんですね。詰まるところ、ヒーローってなんだ? って話なんですよ。ただ、ヒーローってなんだ? という問いに対して、明確な答えってなかなか言えない。もちろん、アートの真理って合理/非合理で語れるところではないから、描くってところで完結するんですけど。でも、そこを描ききろうとしている作品に思えたんです。なので、主人公の性格、印象は正直枝葉でしかない。幹の部分をしっかり抽出して、それを自分のアートと照らし合わせる。そういうふうに作らないと、タイアップって齟齬ができるし、番組に対しても、アーティストである自分に対しても嘘をつくことになるんです。例えば、主人公の気持ちに寄り添いすぎると、"自分はそう思ってるの?"ってことになる。たしかにアニメのタイアップなんだから、主人公の気持ちに寄り添うのは正解かもしれないけど、自分のライヴで歌うとき、アニメは関係ないじゃないですか。そのとき、どういうふうにアートとして、お金を払ったお客さんに提示できるのかってことになる。だから、作品と自分のアートは一致していないといけないと思うんですよ。

-伊東さんは今回、作品とご自分の一致をどこに見いだして、「真珠色の革命」でどんなヒーロー像を描こうとしたのでしょうか?

実は、「真珠色の革命」は1番と2番で描いていることが違うんです。さっき言ったように、この作品の中で、ある決断をする時雨のことを考えたとき、僕の中にぱっと浮かんできたのが、日本のある時代を生きた人たちのことだったんですよ。それを言っちゃうと、アニメのネタバレに繋がっちゃうから、アニメを観ながら曲のタイトルや"きっと目覚めたら/約束の場所へ行こう"という歌詞から想像していただきたいんですけど――

-あぁ、なるほど。

時雨の生き様がその人たちと重なったんですけど、両者に共通していたのが、守りたいものを守るという感覚だったんです。それで、それは自分が描きたいものなのかどうか、アートとして自分の中にあるのかどうかと考えてみたとき、自分の中にもちゃんとあったので、それを1番で描きました。つまり、「真珠色の革命」の1番は、アニメのエンディング・テーマとして相応しいものを作った。それを書き終わってからの2番なんですけど、2番はアニメや、僕が主人公の決断から思い浮かべた人たちの時代から離れて、時代が今になって伊東歌詞太郎本人をフォーカスしたものになる。2番では、特にサビなんですけど、自分なりのヒーローの在り方を込めました。そこで歌っている"誰かの何かになれたら"とか、"誰かのため生きられたら"とかって、結構誰もが思うことじゃないですか。でも、違うんですよ。そのあとに、"なんで?"というひと言がないんです。例えば"人の役に立ちたい。私が活動することで誰かが笑ってくれたり、幸せな気持ちになってくれたりすることが心の底から嬉しい。だからこのたびいろいろありましたけれどもこのお仕事を続けさせていただきたい"みたいなコメントを耳にすることもあるんですけど、僕は違和感を感じるんです。でもこの部分の譜割りでその感覚を全部表現するのは無理だから"何か違うそれは違う"と書きました。そのあとの"迷わずに伝えるから"っていうのは、確信を持っているからです。最終的に何を伝えたいかと言うと、"君だけのために生きてよ"ということなんです。もっときつい言葉で言い換えると、"自分のために生きてるんでしょ"ってことです。例えば、僕自身は音楽をやることを目的として生きているんですけど、アーティストやエンターテイナーの中には、お金が欲しい、ちやほやされたいという目的があって、その手段として音楽や芸能を使っている人もいる。そういう人ほど、"みんなのために"と言いがちなんですけど、違うんじゃない? 自分のためじゃないの? と。僕はその手段自体は全然否定しないけど、嘘はついてほしくないと思っています。

-"誰かのために"を言い訳にするな、と。

自分が満たされていたら、周りを満たすことはできるんです。お金でもチヤホヤされることでもいいからそれを手に入れて満たされたら、周りに優しくできると思う。人って自分が満たされているという思いを持ったら、他人にも優しくなれるし、お客さんに対しても、"自分の人生は、あなたたちのために"って自然に言えるようになります。それを聞いたお客さんたちも幸せな気持ちになれるから、それはそれでいいこと。でもまずは"自分のため"だってことを意識しておいてほしい。ヒーローってそういうことなんじゃないのと。そのうえで時雨は決断をしたんですけど、僕の中にずっとあった"君だけのために生きているんでしょ"って言いたいという思いが、そことリンクしたんです。

-"名も知らぬ魂たちに 出来るだけ多くこの音楽が/寂しさも苦しさもただ受け止められるように 届けたいだけだ"と歌っているのは、伊東さんの本心なわけですね。

そのあと、"笑われたままでいいから/後ろめたいままだっていいから"と歌っているんですけど、自分の判断で生きてきたんだから、誰に何を言われても納得して生きているんだったらどうでもいいじゃないですか。もちろん、僕だって悩むことはありますよ。むしろ"自分の歌ってなんなんだろう"って疑問に思いながら、悩みながら生きているんです。悩むってネガティヴなイメージがあるかもしれないけど、アートとか、芸とかって悩まないと磨かれない。

-"あれでもないこれでもない/迷いながら進んでいく"と歌っていますね。

そうですね。これからも迷いながら、歌というものを追求していきたいと思っています。