Japanese
ヤなことそっとミュート
2021年01月号掲載
Member:なでしこ 間宮まに 南一花 凛つかさ
Interviewer:宮﨑 大樹
"ヤナミュー"こと"ヤなことそっとミュート"が完成させた、メジャー1stアルバム『Beyond The Blue』が、とにかく素晴らしい。オルタナ、ポスト・ロック、シューゲイザーを軸としたヤナミューらしい高い音楽性はその深度を増し、それだけでなく新たな挑戦や表情も感じる作品に仕上がっている。それは、2020年という世界的に困難な時期を乗り越えて、これからもアップデートをしながら新たな時代、新たな1年を切り拓いていこうと静かに燃えている意志にも感じられた。
-メジャー1stアルバム『Beyond The Blue』がとてもいい作品で。大作映画を観たような充実感がありました。これはみなさんも手応えを感じているんじゃないですか?
なでしこ:そうですね。今回のアルバムは壮大な雰囲気の曲が多いと感じていて、その雰囲気をレコーディングのときに歌で表現できたんじゃないかなという意味での手応えはすごく感じています。
-なでしこさんは"令和のアイドル界 スゴいボーカリスト10人"に選ばれていましたよね。
なでしこ:ありがたいことに(笑)。
-その歌唱力が遺憾なく発揮されたと思います。素晴らしいアルバムに感じたと同時に、めちゃくちゃ歌うのが難しそうだなと。変拍子も多いし、曲によってはメロディも複雑で。
一同:難しかったです(笑)。
まに:ヤナミューの曲はいつも簡単ではないんですけど、今回の新曲たちは特に難しかったです。レコーディングのスケジュールもカツカツで、仮歌をいただいてからレコーディングまでの期間がかなり短く......録るのが翌日とかだったんですよ(笑)。
一花:なんならレコーディング前日の夜みたいな。
-前日の夜にあのメロディが来たら半泣きになりますね。
まに:本当に(笑)。新曲は全部難しかったんですけど、「最果ての海」は特に難しくて。
なでしこ:「最果ての海」は5拍子が中心の曲で、仮タイトルが最初"5"だったんですよ。しかも5拍子と4拍子がどんどん変わっていくので、リズムは個人的にレコーディングで一番苦戦しました。
つかさ:私にとってはヤナミューに入ってから初のアルバムなので、すごく楽しみにしていました。初回限定盤のほうはリレコーディングのものもあって、今まで歌ったことがない曲も音源化できたので嬉しかったです。本編で一番好きなのは「遮塔の東」と、「結晶世界」で。今までになかったような、パワーアップした感じのヤナミューをいっそう楽しめる曲だなと思います。自信作です。
-アルバムのタイトルは、すでにシングルとしてリリースされている曲と同じ"Beyond The Blue"じゃないですか? ただ、曲の「beyond the blue.」とは表記が違うので、意味合いは違うのかなと。どういう解釈をしました?
なでしこ:最初は"どういう意味で付けたんだろう?"と疑問があったんですけど、シングルのタイトルとしての意味とは別で付けたみたいな話を聞きました。ジャケット写真は、緞帳が燃えていくにつれて夜が明けていくものになっているんですけど、"Beyond The Blue"というタイトルに合っているなと感じましたね。
まに:アルバムのタイトルになった成り行きみたいなことはわからないんですけど、シングルのタイトルの"beyond the blue."とアルバムの"Beyond The Blue"では同じブルーだけど青の色みが違う印象があります。曲のほうは淡いブルーの印象があって、アルバムのほうは濃紺に近いイメージ。アルバムをひと言で表すなら、みたいな話をMCでしたときに、なでしこさんやつかささんが言っていた"青い炎"みたいな、「beyond the blue.」とは違った、静かに燃えている熱さを持ったブルーだと思います。
一花:ヤナミューって特にイメージ・カラーとかはないんですけど、"Beyond The Blue"はヤナミューを通して見た色、景色というイメージがありますね。
つかさ:曲の"beyond the blue."は、歌詞やメロディも悲しい感じ、大事な人の喪失の曲だったので、太陽が沈んでいく静寂なイメージがあります。アルバムの"Beyond The Blue"は、前に前に進んでいくプラスの意志が感じられて、朝日が昇ってくるとか、向こう側に進むイメージがありますね。大げさに言うとマイナスとプラスの"ビヨンドザブルー"があると捉えていて。
-ジャケット写真を公開したときに"夜が明けて新しい1日が始まる、そして、その先の向こうへ・・・そんな新章の幕開けを暗示しているかのような美しいジャケットデザインが完成しました"というコメントを出していましたね。2020年は悪いことも多い時代ではあったんですけど、それを越えて、ヤナミューとして次のステージでやっていこうという感じに解釈していました。
まに:2020年は、新しい時代に思う人が多い世の中だと思うので、そのタイミングでアルバムを出せるのはいろんな意味があるよね、とは感じていますね。
-ここからは曲について。「最果ての海」は"Beyond The Blue"というタイトルに関連性があるように思える曲ですね。オルタナ感もマスロック感もあってカッコいい。
まに:メジャー・デビューしてから出した「Afterglow」と「フィラメント」は、しっとりとしたバラード寄りのシングルだったと思うんです。アルバムの新曲ではどの曲でも感じたんですけど、打って変わってバチバチの曲ばかりで、攻撃力が高い印象がありましたね。
なでしこ:ヤなことそっとミュートでよく曲を作ってくださっていて、バンド・セットでもギターを弾いてくださっているJ. ogさんの曲がアルバムに入っている時点ですごくワクワクしていました。「最果ての海」の仮歌を初めて聴いたときに、メジャー以降初めてゴリゴリのJ. og節がやっと来た! みたいな(笑)。「Passenger」もそうでしたけど、それ以上で"これこれ!"みたいな気持ちになりましたね。
一花:歌詞は、ヤナミューの曲の中でもわかりやすくストーリーっぽくなっていて。つかささんが言っていたアルバムの進んでいく感じが色濃く表れている曲だなと思いました。
-特に中盤以降はどんどん複雑で新しいメロディが出てきて、覚えて歌うのは相当大変だろうなって。
まに:音がすごく飛んでて、それが難しかったです。
一花:ハモリも難しくて。高いところから急に低いところ、低いところから急に高いところみたいなことも結構あるんです。J. ogさんらしさが出ているなと思いました。
-個人的な感覚ではヤナミュー史上、歌うのが最も難しい曲な気もしたんですけど、みなさんからするとどうですか?
まに:まだライヴでやっていないので、印象がわからない部分もあるんですけど――
なでしこ:それでもレコーディングの時点では「最果ての海」が一番苦戦しました。
-歌詞としては世界の終わり感がありつつも希望を残すというか。"ねぇ きっと出口はあるんでしょう"、"ねぇ きっと楽園はあるんだよ"と、最後に希望を残すあたりにヤナミューらしさがあります。
つかさ:最後の歌詞のところを見ると、結局"向こう側"は見つけられなかったけど、それでも探そうという感じなんです。ここの時点ではバッド・エンドだけど、"まだまだ行くぞ"という意図があるんだよと言われて、なるほどな、と。個人的に好きな歌詞は"自由と潮風"というところで、組み合わせが素敵だなと感じました。よく頭の中でリフレインしてます。
まに:歌い出しの"荒廃の末路!"にビックリマークがついていますよね。そこは私のパートなんですけど、ヤナミューの歌詞ってビックリマークがついている歌詞があまりなくて。なので最初に歌詞をいただいたときに意外性というか、"ビックリマークがある!"みたいに思いました(笑)。感情的なものを感じて、そういうイメージで歌いましたね。
一花:この歌詞に出てくる登場人物は、かなり強い意志を持った人だと感じていて。だからこそ歌うときは感情的というか、強い意志を感じられるように歌いました。あと"心臓が脈を打って足を早めた"という歌詞が個人的に好きで。物理的な現象なんですけど、それで心情がわかるという表現にグッときましたね。
なでしこ:苦しみもがきながらも一生懸命進んでいる主人公みたいな、バトル系アニメのオープニング曲みたいなイメージがあって。だからアルバムの最初の曲というのもぴったりだなと思いました。"ねぇ きっと出口はあるんでしょう"という歌詞の"ねぇ"の部分の歌い方が、歌っているというより、叫んで必死に問い掛けているみたいに感じて。そこに歌詞の中の登場人物の気持ちが込められているなと思い、レコーディングでは訴え掛けるように、叫ぶように意識しました。
-2曲目の「Sing It Out」は、6拍子からサビでは4拍子に変わりますよね。そういう意味ではシンプルな曲ではないけど、サビがキャッチーだからこそ1回目に聴いたときから耳なじみが良くて。
まに:仮歌とできあがった完成版の印象がいい意味で違った曲でした。歌詞ありでのシンガロングは初なので、今だとお客さんは声を出せないですけど、ライヴで歌うのも楽しいだろうなと思います。
つかさ:歌い方とか全体的にそうなんですけど、バンドっぽい感じだなと思って。歌う前に、"こういうふうに歌うんだよ"と見せてもらった海外のバンドの映像があったんです。それを観てから歌ったので、みんなが楽器を持って歌っているイメージがあります。歌詞にもバンドっぽさや荒々しさが出ていると思いますね。
なでしこ:ポップなシンガロング系の曲は初めてなので、今までにないポップなバンドっぽさを感じています。レコーディングのときは、ポップなバンドのヴォーカリストをイメージしながら歌いました。こういう楽曲は初めてでしたけど、上手く表現できたんじゃないかなと。いいシンガロング曲になったと思います。今まで応援してくださった方がどういうふうに感じるのか、ワクワク感がありますね。
-お客さんも一緒に歌ってくれたらいいですよね。
なでしこ:今は歌えないんですけどね(笑)。そういう日が来たらいいなと思います。
-「オッド・ランド・オード」は、イントロでミドル・バラードが始まるかと思いきや、軽快でノリのいい曲になって驚かされました。
なでしこ:最初に聴いたとき、始めのギターの音がすごくかわいいなと思って。でも最後のほうはそこから想像できないような壮大な感じで驚きました。
まに:私もイントロとアウトロの気だるげなギターの音がすごく好きなんですけど、歌メロが始まるとこうなるんだ、という驚きがありました。あと、4年もやっていてあれなんですけど、自分の声ってこう聴こえるんだ、みたいに感じて(笑)。特に落ちサビの後半の歌割で、自分の声に新鮮味を感じた部分がありましたね。
一花:「オッド・ランド・オード」はこのアルバムの振り幅を大きく広げている曲だと思っているんですけど、まにさんと同じで、私の声が小さな男の子みたいな声で驚きました。2サビ前の"キミは気づいてくれるかな"のところは、ライヴでめちゃくちゃ気持ちいいところだろうなと思いますね。
-歌詞にストーリー性があって、ひとつの物語みたいな形になっていますよね。後半の"懐かしい声が聞こえて"からの部分も感動的でいいなと。
つかさ:私なりの解釈では、主人公は地球上にいなくて、宇宙にいるイメージがあります。なので宇宙旅行をイメージしながら歌っていました。宇宙人がいるなかで"君"という人に会いに行くために旅立つ、みたいな感じ。逆に、現実的に捉えるとすれば、ある日突然"君"以外を信頼できなくなってしまって、人が違う生き物に見えてしまう、みたいな。思い込みという呪いにかかって迷い込んでしまったけど、ヤナミューは最後に希望がある歌詞が多いので、この曲でも最終的には向こう側に進んでいく意志が見えますね。
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