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LIVE REPORT

Japanese

ヤなことそっとミュート

Skream! マガジン 2021年07月号掲載

2021.06.20 @代官山UNIT

Writer 宮﨑 大樹 Photo by Masato Yokoyama

5年という節目で、過去も振り返りつつしっかりと前を見据えて歩んでいく。最新アルバム『Beyond The Blue』を中心に、しばらくぶりの曲も交えて組み立てたこの日のアニバーサリー・ライヴからは、そんな意志が窺えたような気がする。

3月に新たなメンバーの加入が発表され、その新メンバー 彩華を5月にお披露目。これまでも、止まることなく進み続けてきたアイドル・グループ"ヤナミュー"こと"ヤなことそっとミュート"が、5周年イベント[ヤなことそっとミュート 5th Anniversary "YSM FIVE"]を代官山UNITにて開催した。

天井から放射状に伸びる巨大な5本の虫ピンのようなオブジェと、どこかミステリアスなSE。まるで異世界に迷い込んだかのようなステージにメンバー4人が静かに登場し、そのまま「結晶世界」でライヴがスタートした。加入して1ヶ月も経っていない彩華は、開幕から堂々たる歌唱と、先輩メンバーとの息の合ったダンスを見せていく。ヤナミューとして5年間やってきたメンバーと比べてもまったく悪目立ちせず、新メンバー感を微塵も感じさせないパフォーマンスにはいきなり驚かされた。厳しくも美しい冬景色が情景として浮かぶ轟音の中で、シーンでも屈指のヴォーカリストであるなでしこがその実力を遺憾なく発揮して歌い、間宮まにがハモりでさらに深みを出していく。南一花の熱を込めた歌唱も、ヤナミューの表現に彩りを加えているのがわかる。

シンガロング系のサビで透明感のあるユニゾンを届けた「Sing It Out」、推進力のあるギター・リフが印象的な「ルーブルの空」から繋げた「Passenger」では、コーラスや歌の表現力だけでなく、優しく微笑むような表情でも魅せた。歌、ダンス、表情――轟音且つ解像度が高いヤナミューのサウンドに負けない彼女たちのパフォーマンスのレベルは、間違いなく5年間の活動による賜物だろう。

ここで、本日最初のMCへ。なでしこが"彩華さんを新メンバーとして迎え入れて、この新体制で5周年ワンマンという日を迎えることができてとても嬉しく思います。彩華さんにも、ありがとうございますと言いたいです"と伝える。感謝を伝えられた彩華は、照れながらも"まだ実は加入してから1ヶ月経っていなくて、本当にあっという間。こんなにたくさんのみなさんと一緒に、素敵なワンマン・ライヴという機会をいただけてすごく嬉しいですし、今までの5年間ヤナミューに携わってくださった方々がひとりでも欠けていたら、私はここにいられなかったかもしれないので、すごくありがたいなと思います"と語った。また、南は"5周年と言われて感慨深い感じじゃなくて、フワフワした感じなんですけど、早かったなと個人的には思います"と話したが、一方で間宮は"なんて長い道のりだったんだって思っています"と言う。さらに"5年やっていると、楽しいことよりも、つらいこともだんだん増えてきて、実際もう3回くらい実は心が折れているんですけど、それでもこうやってステージに立っていられるのは、紛れもなくここにいるみなさんと、配信で観てくれているみなさんのおかげでしかない"と、包み隠さず彼女らしい伝え方で感謝を述べた。

ここから、暖色の明かりに照らされて届けたノスタルジックな「orange」、イノセントな世界観を演出した「HOLY GRAiL」と、各曲に確固たるヤナミューサウンドが組み込まれているなかでも、それぞれ表情豊かな曲で会場を彩っていく。とりわけ、間宮が美しく儚げな歌い出しで魅了し、なでしこがハイトーン・ヴォイスで曲全体を引っ張った「Afterglow」から、エレクトロの要素を取り入れて都会的な夜の風景を心に浮かばせる「レイライン」への流れは素晴らしかった。

そんな「レイライン」の歌詞が響いて涙が出てきたという南は"私たちがどうしたらみんなに恩返しできるのかなって考えたときに、長く続けてみんなの前に立ち続けることが恩返しのひとつになるんじゃないかなと思っています。ヤナミューは新体制になって、彩華さんもヤナミューに対する想いがあると思うし、今では大切な私たちの仲間なので、これから一緒にいろんな景色を観に行けたら"と、これからの活動への想いを口にした。

いよいよライヴも後半戦へ。ストロボが激しく点滅するなか、ダイナミックに踊るパートから始まった「最果ての海」では、複雑なメロディを見事に乗りこなす。続く「遮塔の東」では、歌がよりハッキリと聴こえるミドル・チューンだからこそ、丁寧な歌唱で技術の高さを感じさせたし、ラスサビを歌い上げてから揺らめく4人の姿は、絵画のような美しさだった。本編ラストは、ひとりしゃがみこんでいた彩華が立ち上がり、彼女の純朴な歌声から始まった「Nostalgia」。音の洪水の中で流れるように舞う姿も、高音で畳み掛けるラストも、クライマックスに相応しい圧巻の出来映えだ。

アンコールでは「ぼくらのちいさな地図」を約2年ぶりに披露して、5周年ライヴは終幕した。

"進んでいくことも 振り返ることも/ぼくらにはきっと淋しいことだけど/進んでいくことが 振り返ることが/ぼくらにはきっと必要なことなんだ"。

アンコールを締めくくったこの歌詞が、5周年という節目のライヴの核心を突いていたのではないか。

10年以上にわたり、日々新たなアイドルが誕生し、そして消えていくこのシーン。同志、戦友とも言えるグループが次々と解散していくなかで、ヤナミューが活動を続けていく意義と、彼女たちにかかる期待は小さくないだろう。ただ、その一方で、彼女たち自身には、変に考えすぎず、自分たちの芸術をただただ突き詰めてほしいという気持ちもまた大きい。


[Setlist]
1. 結晶世界
2. Sing It Out
3. ルーブルの空
4. Passenger
5. orange
6. HOLY GRAiL
7. Afterglow
8. レイライン
9. 最果ての海
10. 遮塔の東
11. Nostalgia
En. ぼくらのちいさな地図

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