Skream! | 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト

MENU

INTERVIEW

Japanese

さかいゆう

さかいゆう

Interviewer:三木 あゆみ

ポップス、ソウル、R&B、ジャズ、ゴスペルなど幅広い音楽的バックグラウンドを持つ、シンガー・ソングライター さかいゆう。2020年3月には、ロンドン、ロサンゼルス、ニューヨーク、サンパウロで、豪華ミュージシャンらを迎えレコーディングしたアルバム『Touch The World』を発表し、自身が今一番やりたいことを体現した。そんな彼が、6月17日に同アルバムに収録されているソウル・バラード「Soul Rain」のアコースティック・バージョンをシングルとしてリリース。彼の死生観も表れた同楽曲が、改めて弾き語りで、編集なしの一発録りで、まさにネイキッドな状態で届けられる。また、Disc2にはアルバムのインスト音源が収録。アルバムと合わせても深く楽しむことができる今作について、本人に話を訊いた。

-3月にリリースされたアルバム『Touch The World』が本当に素晴らしい作品で。"世界"と"旅"がテーマとのことですが、とても充実感のあるアルバムだと感じました。改めて、こちらはどのような作品になりましたか?

(新型コロナウイルス感染症の流行と)時期がズレて良かったなぁと。

-そうですよね。

自分の憧れの人たちや、今一緒にやりたいなと思っていた人たち、本当にいろいろなミュージシャンと密にセッションできて良かったですね。いろんな運や奇跡がくっついてできたアルバムだなと思います。

-今回はロンドン、ロサンゼルス、ニューヨーク、サンパウロで制作されたそうですね。

今は、いい意味でも日本の音楽がガラパゴス化してて、20~30年前から日本人が好きそうなニュー・スタンダードがあるけど、ガラパゴス化する前は洋楽の要素が多くて、海外レコーディングも多かったんですよ。和田アキ子さんの「あの鐘を鳴らすのはあなた」とかも結構モータウンだし、ジャズとかサンバとかランバダみたいなのが流行っていたりして。僕の音楽も洋楽の要素というか、昔の歌謡曲の感じの要素が多いんで、レコーディングもすごくナチュラルにできましたね。自分の音楽の原点に返ったみたいな。素直に、肩に力を入れずに思った通りにいけた感じでした。半年くらいで作ったアルバムなんで、考える時間もなかったですし。ミュージシャンたちとアレンジを詰めて、2テイク録ってどっちかいいほうを選ぶとか、そういうふうにやってたので、それゆえにその瞬間瞬間をパッケージできたのも良かったです。ポップスでありながらジャズの緊張感もある、自分が今一番やりたいこと、好きなことがやれたものができたなぁって思いますね。

-最初からそういうものを目指して、すべて海外でレコーディングすると考えていたのですか?

その前作の『Yu Are Something』(2019年リリースの5thオリジナル・アルバム)が半分海外で録ったものなんですけど、その経験もあって現実的に全部海外でもできるってなったからやった感じですね。ただ、いろんな裏技も使いました。自分で、直接メールで連絡とかもしましたし。

-海外だからこそできたことみたいなものはありましたか?

あんまりないんすよね。日本にも素晴らしいミュージシャンはいるし。ただ、単純にサンバをやるならサンバのミュージシャンとやろうとか、ロンドンのアシッド・ジャズっぽい曲をやるんだったら、せっかくだったらINCOGNITOとJAMIROQUAIとやろうとか、そういう感じなんですよ。これ、口で言うと豪華ですけど、実際に"INCOGNITO"と"JAMIROQUAI"とやったわけじゃない。いわゆるポップス・シンガー同士がコラボレーションするとしたら、会社が立ち会っていろんなブランディングがあって、と時間がかかると思うけど、あくまでもお互いがミュージシャンとして一緒にやったんで。でもそれは、自分がミュージシャンであり、アーティストでありながら、プロデューサーだったから、こういう機会が回ってきたんですよね。これが10年前のデビューした当時だったらこういうこともやらせてもらえてないだろうし。運だけでも実力だけでもなく、いろんな力が作用した結果というか。僕ひとりでやってたらこういうことにはなってないと思うんですよね。事務所とかレコード会社、スタッフとの巡りがあってこそだなって。

-いろんなものが積み重なって、できたアルバムだったんですね。

そうですね。これで海外進出して世界ツアーしようとか、そういうのは全然ないですよ。もちろんできたらいいなとは思うけど、そういう目論見みたいなのはないです。

-本当に、純粋にいい音楽が詰まった作品だなと思います。その『Touch The World』にも収録されている「Soul Rain」の、アコースティック・バージョンが今回シングルとしてリリースされます。なぜ、新たにアコースティック・バージョンを発表することになったのでしょうか?

「Soul Rain」はアルバムの中でもすごく大事な曲だなと思っているんです。歌詞的にも、死生観を表したようなものだったりするので。まぁ、意図っていうのはいろいろありますね。今回、アルバムを出す前にシングルを出さなかったんですけど、1個機会があるとこうやって改めて「Soul Rain」のことをもう1回話せたりしますし。でも、曲のためだけを考えた感じですかね。弾き語りで出すことで歌詞とメロディにフォーカスしてもう1回楽しめるし、そこからまたアルバムに戻って楽しむことができるというか。

-アルバム・バージョンも素晴らしいですが、弾き語りだからこそ、より言葉が入ってくる印象もありました。今回は編集なしの一発録りなんですよね。レコーディングと同時にMVも撮影されていて。

別に一発録りが大好きなわけじゃないんですけど、そういうのもたまにはいいかなって思って。本当の"一発録り"をする人って、実はあんまりいないんですよ。だいたい世に出てる一発録りは一発録りじゃないことが多いんですよね。プロが聴いたら音程修正したり、貼りつけたりしてるのがわかる。本当の一発録りって、すごく危ういんですよ。だけど、そこも含めて気持ちいいじゃないですか。しかも今回は同時に動画も撮ってるから逃げられないし(笑)。だから、僕の中の本気ですかね。ただそれはそういうアピールじゃなくて、自分にだけわかればいいもので。

-なるほど。

でも、何回歌ってもちゃんと歌えなかったっすけどね(笑)。家でも50回くらい練習したし。レコーディングも2回くらいで終わるだろうと思ってたけど、しつこく俺が"もう1回やらせてくれ"って(笑)。例えば、昔のアナログのレコードの弾き語りとかだったら、粗が取れて雰囲気良く聴こえると思うんですけど、デジタルで一発録り、特にピアノってなると、ヴォーカルの粗も目立っちゃうんですよね。ギターの場合は、そもそもギター自体が音程とか完成されてない危うい楽器だから、弾き語りの雰囲気がいい人たちもたくさんいるんですけど、ピアノの弾き語りする人はあんまりいないですよ。"それが自分の実力か"とか思ったりして。本当は作品として出しちゃいけないかもしれないですけど(笑)。でも、それも全部含めて必要だと思ったし、ネイキッドな、自分の日記を綴ったようなものになったんじゃないかなって思いますね。

-ちなみに今回のレコーディングでは、何テイクくらい録られたのでしょうか?

どうだったかな。練習とか、全部合わせたら8回くらい歌ったんじゃないですかね。

-それでも8回で終えられるのはすごいですよ。

みんなはそれでいいって言うんですけど、自分の中ではもっといい音が聴こえているから、それがずっと終わらずにっていう感じで。もっと歌が弾き語り映えするとか、あるいはもっと上手い人だったら、1回とかで終わるんだろうけど。それか、ライヴだったら1回キリのものだから諦めるけど、弾き語りってひとりで何回もできちゃうし、でもレコーディングが進めば進むほど失うところとかもあるので、なかなか難しかったですね。

-メイキング映像も拝見したのですが、セッティングの時点から現場の緊張感が窺えました。レコーディングはいかがでしたか?

ピリピリでしたね。でも、"緊張感"っていうのはこの曲には合ってると思うんで。リラックスして聴くよりは、"よし聴くぞ"って思って聴くのがいいんじゃないかな。もちろん、どう使ってもらっても全然いいんですけどね。