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INTERVIEW

Japanese

さかいゆう

さかいゆう

Interviewer:三木 あゆみ

-たしかに、その生の雰囲気だからこそ、曲にぐわっと入り込める感じがしました。「Soul Rain」のコンセプトは"僕は雨、死んでも雨となって愛する貴方に降り注ぐと約束します"で、歌詞は作詞家の売野雅勇さんが手掛けたそうですね。

この曲のコンセプトとそのイメージは10年前から決まってたんですけど、なかなか言葉にできなくて、メロディと握手させることができなかったんですよね。それで、売野先生とのシンパシーが去年、一昨年くらいから続いてて、一緒にこの作品を作りたいなと思ってお願いしました。

-売野さんとは2時間の入念な打ち合わせがあって、「Soul Rain」が完成したとのことですが、どんなことを話されていたんですか?

まぁ雑談ですよ。ビタミンCを摂ると病気にならないよっていうので1時間40分くらい――

-えぇ(笑)。

でも、そんな話ばっかりしてます。ちょっと上のお兄ちゃんみたいな感じで話をしてくれるんで。すごく面白いですよ、あの方は。売野先生とは結構本質的な話をするんすよね。あと、たまに嘘みたいなこととか、言ってくれたりしますよ。

-例えばどんなことですか?

例えば、歌詞どうやって書いてるんですか? 今書いてって言ったら書けますか? って聞くと、まったく書けないって言うんですよ。依頼を受けて、部屋でぼーっとしながら本棚を見てると、その棚の本の1冊が浮き出てくるらしくて。それでその本を取って、パカッて開くとそこに歌詞が書いてあるって言うんですよ。

-それはすごいですね。

噓つけ! って(笑)。でも、ほんとだと思うんですよね。きっと気づいてないだけで、すでに歌詞はあるんですよ。それに気づかせてくれる文字がそこにあるというか。書こうと思っていることと全然関係ない言葉だったとしても、自分の中で繋がったりするらしくて。彼はそれがないと書けないって言うんですよ。スピリチュアルって言ったらそれまでなんですけど、そうじゃなくて、それが彼のルーティンなんでしょうね。

-この曲のライナーノーツに、人生は"死ぬまでの暇潰し"って書かれていたんですけど、これはどういうことなんですか?

それは、俺がいつも言ってることなんですよね。人生ってずっと楽しいと麻痺ってくるんすよ。花に水と栄養を与えすぎると腐るみたいに。あんまり苦しいと死んじゃいますけど、ちょうどいい苦しみを与えてくれているって、信じていて。そこでへこたれたらその暇つぶしは終わっちゃうけど、そこでへこたれなかったら次にプラスがあるのかなぁって思うようにしてますね。

Twitterでつぶやかれていた"僕の死ぬ日は僕が知らないだけで既に決まっています"という言葉も、興味深いなと思いました。

そうやって思うゲームですね。僕の場合は、日本人の自然崇拝というか、小さいときから神社とかお寺には行くけど、自分の父親と母親は特定の宗教じゃないから自分でそういうふうに考えてて。周りには信心深い仏教徒とかキリスト教徒とかいろんな人がいるけど、僕の場合は音楽が、僕にとってのそういうのを探す旅っていうことなんですよ。曲を書くっていうのは、そういう機会を与えられているなぁって。自分が曲を書きながら救われてますからね。人を救おうとは思ったことはないですよ。そんなに大それた人間じゃないから(笑)。でも、目の前に苦しんでる人がいたら、優先的にいかないと自分の音楽と反しちゃう。

-すごく納得しました。

結構、そういう話になったりするんですよね。例えば自分の目の前に死にそうなペンギンの赤ちゃんがいたら、本能的に助けたいと思わないか、とか。そういうものにタッチするというか、人間の優しさとかに気づかせてくれるところが音楽にはあると思うんですよね。きれいごとじゃなくて。だから僕は、僕を助けるために音楽やってますね。「Soul Rain」はそれの一環です。

-個人的に「Soul Rain」の歌詞は、雨が降って、蒸発して空に戻っていく地球における水の循環みたいなところと、命の巡りがリンクしているのかな? とも想像していました。

そうそう、"循環"って売野先生も言ってた。あなたもいつの間にか雨になるんですから。

-たしかに、雨になりますね。また、Instagramで更新されていた「Soul Rain (Acoustic Ver.)」のアナザー・テイクを使用したOvallとのリモート・セッションもすごく良かったです。できあがったものを観て、いかがでしたか?

ライヴみたいだなと思いましたね。Ovallがやっぱりすごいですよ、センスが抜群で。origami(※Ovallが所属するレーベル/マネジメント origami PRODUCTIONS)はみんな素晴らしいですからね。

-参加されているみなさんも、ライヴでやりたいというふうにSNSでおっしゃってましたね。ぜひ実現させてほしいです。

いつかぜひやりたいですね。

-そして、カップリングにはアメリカのシンガー・ソングライター、Neil Sedakaの「Laughter In The Rain」のカバーが収録されています。なぜ今回カバー曲の収録に至ったのでしょうか。

せっかくシングルにするから「Soul Rain」以外の曲も入れたいと思って、雨にまつわる曲を探して入れましたね。NEW EDITIONの「Can You Stand The Rain」とか、R&B系のバラードにするかも悩んだんですけど、Neil Sedakaもいいなって思って。

-CDに収録される"A Cappella Ver."は、原曲の明るく軽快な心地よさがアカペラで表現されているのがとても良かったです。これはすべてさかいさんの声なんですよね。

そうですよ。ひとりで黙々と録ってました。

-アカペラでのアレンジはどのようなイメージでできたのでしょうか?

日本の雨のベタベタしてる感じをサラッとしたいなぁって......今思いつきました(笑)。

-(笑)配信限定の"Urban Soul Ver."はいかがですか? 昼から夜になるくらいガラリと雰囲気が変わりますが。

こっちはバンド・バージョンで、ちょっとねっとりしてますね。夜の蒸し暑い感じ......って誰が聴きたくなるんだそれ(笑)。これの全部の楽器も自分ひとりで録りました。

-こちらもまた素敵です。冒頭の歌詞が"彼女と一緒に田舎道を歩く"なのに、大人な感じになっているのが面白いなと思いました。

やっぱ、アレンジで雰囲気ってすごく変わりますよね。こっちはマイナーにしたんで。「Laughter In The Rain」って結構いろんな人がカバーしてて、今回、Apple MusicとかSpotify、YouTubeでほとんどのカバー曲を聴いたんですよ。全部で40~50曲はあったかな。だいたい5タイプくらいのアレンジに分かれるんですけど、その中のどこにも属してないようなアレンジを試みましたね。だから面白いと思いますよ。「Laughter In The Rain」ファンの人からしたら、聴いたことがないタイプのカバーになったはずなので。そういう人に届いたらいいなと思いますね。たぶん届かないですけど。

-そういう方にも届いてほしいなと思いますね。

まぁでも、今は逆に届く世の中でもありますからね。"Laughter In The Rain"ってネットで検索したら僕の曲も出てくるわけじゃないですか。データ化の助かっている部分ではありますね。

-また、Disc 2には『Touch The World』のインスト・バージョンが収録されています。今回インスト収録に至った理由はなんだったのでしょうか。

僕の知り合いが、"お前のヴォーカルがうるせぇ"と。

-そんな......(笑)。

っていうのは半分ジョークで。インストで聴きたい、演奏を細かく聴きたいなぁって言う人が結構いたんですよ。それに、僕も欲しかったんです。歌の帯域って人の会話を邪魔したりするんですよ。だから、高級焼き鳥屋とか高級焼き肉屋とか、会話を邪魔したくないところはジャズを流したりするんですよね。賑やかな居酒屋とかだとJ-POPとか、ヴォーカルが大きい曲が流れてる。それと似たような感じで、僕読書とかするときにヒップホップのインストをかけてるんですけど、それがめっちゃいいんですよ。『Touch The World』はインストだけでも濃密なアルバムになったので、僕のヴォーカル以外も聴きたいなって。

-歌ありももちろん素晴らしいですけど、演奏にもいろんなものがぎゅっと詰まっていますもんね。

本当の音楽ファン、トラック・ファンが欲しいものはこれだと思いますね。僕もそうですもん。Stevie WonderとかDonny Hathawayとか、Marvin Gayeとかのインスト欲しいし。なかなかないんですよね。インストがあったら、ちょんぎってサンプリングとかもできるし、遊べるもん。それが意図っすね。逆に言ったらアカペラも欲しいですよ。どっちでも良かったけど、今回は演奏がすごくかっこいいものになったので、もう単純に僕が欲しいから出してますね。需要は考えてないです。ファンの方だったらアカペラのほうが欲しいんですかね?

-ファンの方だったらどちらも欲しいと思います。Twitterで"インスト嬉しい!"って喜ばれている方を見かけたりしましたよ。インストで聴くと、また新たな発見もありましたし。

インストは欲しくなる人と欲しくならない人がいると思いますけど、演奏がちゃんとしてて、それぞれ個性のあるようなトラックっていうのは、僕はすごく聴きたくなるんですよね。だから、これを聴きたいって思う人とはすごく仲良くなれるかもしれない。自分と同じ感覚というか、意図がわかるから。でも、聴かない人に対して"なんで聴かないんだよ"とはならないですよ(笑)。歌入ってないもん、そりゃそうか~って。ただ、需要は少ないかもしれないけど、僕がMarvin Gayeのインストを欲しているように、欲しい人のためだけにやっているって感じですかね。

-欲しい人には絶対に嬉しいものになっていると思います。

もうアルバム出てるのに、今回の「Soul Rain」の弾き語りシングルを買う人はよっぽど俺のこと好きな人ですよ。ちょっと変わってるなと思いますけど(笑)。でも俺は、Marvin Gayeの「Let's Get It On」を聴いたあとに、そのピアノ弾き語りバージョンが出たら買うし、そこにインストゥルメンタルが入ってたら、絶対欲しい。本当に好きな人に届けばいいなと思いますね。