Japanese
斉藤壮馬
2018年06月号掲載
Interviewer:杉江 由紀
-世代的に、壮馬さんのファンの方々だと、そのあたりのことがわからない方もいらっしゃるかもしれませんね。ところで、3ヶ月間集中的にいろいろな音楽を聴いたなかで、壮馬さんが得た解析結果とはどんなものだったのかもぜひ教えてください。
その昔、高校生になって曲を書いていたころの僕はありがちな曲とか妙にキャッチーな曲はやりたくなかったし、とにかく"高尚にオリジナリティを追求しなければならない"という謎の思いにとらわれていたんですよね。でも、実際にはいろいろなところからのアイディアを貰ってきて、それらを自分の中で再構築しながらキャッチーな楽曲を作り出すことの方が得意だったんです(笑)。要はそこのジレンマで悩んだり葛藤したりすることが多かったんですが、もう今は時代的な流れからいってもサンプリングすることだって当たり前ですし、いわゆる参照元ありきでそこから新しい音楽を作っていく、という手法がもはや普通のことになったじゃないですか。
-そうですね。Bruno Marsなどもそうですが、昨今のアーティストにおいてはその傾向が多く見られるのは事実かと。
そこはここ10年くらいで、アーティスト側だけでなく、世間そのものの受け取り方もだいぶ変わったと思うんですよ。アルバム単位というよりは、ネット配信で曲単位で音楽を聴くことも多くなりましたしね。そういう世の中の流れからいくと、いかにキャッチーな曲を作るかということがますます重要になってきているのも事実で、声優アーティストである今の斉藤壮馬にとって必要なものも、昔の自分が無理に追求していたような"特別なオリジナリティや小難しい曲"ではないだろうし、本来の自分が最も得意なキャッチーさのある楽曲をそのまま表に出してしまえばいいんじゃないか、というところで、いい意味で今回は開き直ることができましたね。そして、なんだかんだでApple MusicとYouTubeには大変お世話になりました(笑)。
-では、先ほど「デート」においては合いの手などにもこだわったとのことでしたけれど、ことヴォーカリストとして歌っていく際に心掛けたのはどんなことでしたか。
サウンド的には1990年代の面影があるものにはなったんですけど、自分で歌っていくときには"今2018年に声優アーティスト 斉藤壮馬がアウトプットするものである"ということを特に心掛けました。あとは、歌詞に対する解釈の仕方も特別だったかな。昔は、隅から隅まで日本語としての美しさとか日本語として完成していることにこだわっていたんですけど、今回この「デート」なんかは特に日本語としてはちょっとくらい破綻しているとか、破格なものであったとしても、音楽に乗る歌詞としてハマりが良くて正解なのであればそれでOK、という価値観を今回は大事にしたんです。曲として聴いたときに心地よければなんでもいっか! というふうに(笑)。
-さて、この歌詞については"デート"というテーマがご自身の中でもとから決まっていたとのことですけれど、ここで具体的内容についても少し解説をいただけますと幸いです。
ベースとなっているのは、高田馬場で"終電に乗りたくないなぁ"と思いながら、駅のベンチで缶ビールを飲んでいる"ぼく"がいて、ふと横を見たら同じように終電に乗りたくなさそうな顔で、缶ビールを持っている女の子がいるという場面です。そこから、"じゃあ、ちょっと飲みますか"となって"少し散歩でもします?"からの、"いっそ海まで行っちゃいますか!"という展開ですね(笑)。
-高田馬場から海、というのが発想として大胆ですし斬新ですよ。そこからの海とは、いったいどこなのでしょう?
本当に学生時代に友達と高田馬場からお台場の海へは歩いて行ったことがあるんです。あのときは、5時間くらいかかったのかな。思いつきで歩き始めたはいいものの、飲みながらだったのもあって途中で飽きちゃって大変でした(笑)。
-青春ですねぇ。
だからこれは、真剣に"デートをしてください"という歌っていうよりは、真面目に不真面目なモードの歌ですね。"そうやっぱこれってデートだよ"とは歌っているものの、主人公からしたらデートでもデートじゃなくてもどっちでもいいわけです。デートという言葉が表しているのは、その行為のことではなく"なんか今、めっちゃ楽しいね!"という感情の方なんですよ。
-お互いの名前も知らないまま、"ここでばいばい"というのがまた面白いです。
あるところで"じゃあ、帰るね"って言われて"あっそうですかここでばいばい"ですからね。名前も連絡先も聞かないであっけなく、触れ合うこともなく一緒に歩いただけで終わっちゃうの(笑)。たぶん、このふたりの人生がこの先に交わることはもう二度とないけど、この一瞬だけ交差したときは"面白かったね"というそれだけ。
-でも、人生の中には時にそういった一期一会が唐突に起こり得ますものね。
そうそう。まるで映画みたいな出来事って、たまには起こりますから。この日はそうだったなぁ、という他愛のない出来事を軽快な音と遊び心で描いたものなんです。友人たちに言わせると、この曲は"明るいサイコパス"だとか"怖い"と言われたりもしています。それはどれも、壮馬っぽい"そまみ(※壮馬み)"に溢れているということらしいです(笑)。
-「C」で窺える物憂げな雰囲気や、「レミニセンス」での鬱っぽい空気感と対比すると、「デート」でのハジけっぷりはそう見えるのかもしれませんねぇ。
少なくともプライベートでの交流がある人たちからすると、「デート」の"そうやっぱこれってデートだよ"っていう執着を見せるところも本気だし、最後に"あっそうですかここでばいばい"って急に執着をなくすのも本気だと感じるから、その落差がリアルで怖いらしいです(笑)。"そまみ"はそういうものらしいですよ。
-壮馬さんは、猫タイプの性格なのでしょうか?
あくまで作品ですし、自分自身のことをそのまま書いたというわけではないんですけどね。まぁただ、書いた本人としてもこの歌詞の内容はあとから見て笑えるところがあるし、人間の思考って意外と論理的ではないところもあるから、僕なんかはその中でも結構感覚派なところがあるような気もします。そんな自分が完成の赴くままに曲と詞を作ると、"こうなる"っていうことなんでしょうね(笑)。
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