Skream! | 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト

MENU

INTERVIEW

Japanese

She, in the haze

2016年10月号掲載

She, in the haze

Member:yu-ki(Vo/Gt)

Interviewer:山口 智男

-今回の作品は、今聴かせたい作品を集約した1枚とおっしゃいましたが、そういうテーマを具体化するために、どんなことを考えながら作っていったんでしょうか?

今までの代表曲を入れました。中には2、3年前に作った曲もあります。人間って年齢や環境が変わると考え方も生き方も変わると思うんですけど、同時にその年齢やその環境でしか作れない曲があるなと。つまり2、3年前に作った曲は、2016年を生きている今の自分に作れと言われても作れない。たった2、3年のことなんですけどね。そういうことも考えて、最初の作品は過去に作った代表曲も含めて、まず"She,in the hazeはこういうものです"っていうのを聴いてほしいという思いがあります。

-ひとつひとつが独立した曲として成立していると思うし、1曲だけ聴いても十二分に楽しめると思うんですけど、今作の全6曲ってどれも共通したテーマがあるというか、さっきおっしゃった架空の主人公がいて、どの曲もその主人公の視点から歌っているように感じたんですよ。そういう意味では、6曲でひとつの物語になっているコンセプト・アルバムなんじゃないかと想像しながら聴かせてもらいました。

そういうふうにも聞こえるかもしれないですね。伝えたいメッセージがないから、架空の物語を作って、小説のようなものを描きたかったんですけど、あとから確認してみると、どの曲にも自分のエッセンスが入っているんですよ。最初、メッセージはないと思っていたんですけど、結果的にメッセージがあったというか。どの曲も境遇は違う物語ですけど、共通している部分はあるのかなって自分でも感じるところはあります。

-yu-kiさん自身の思いなんですね。そうすると、次の質問は訊きづらくなっちゃうんですけど(苦笑)。

何を訊いていただいても全然かまわないですよ(笑)。


たぶん僕はヤバいと思うんですよ。サイコの素質がある(笑)


-今回の6曲を聴いて、僕が感じたのは強烈な"執着心"だったんですよ。

そうなんですよ。そこを聴いてほしいというか(笑)。わかりますわかります。そこも自分で気づいたところで、たぶん僕はヤバいと思うんですよ。サイコの素質があるというか(笑)。いろいろな捉え方があると思いますが、執着心というか、人間の身勝手さや利己的な部分を膨らませて表現しようと思いました。でも、それは僕だけじゃなくて、人間に備わったものだと思うんですよ。ある著書に"性欲を突き詰めると、殺人欲になる"と書いてあったんですけど、性欲って本能じゃないですか。なるほどと思いました。人間には凶暴さが絶対に備わっているし、こいつムカつくから殴ってやりたいって思うこともあるじゃないですか。もちろん、殴らないですけど、それは理性が止めているからであって。でも、誰にでもあることじゃないかなと。"ムカつくから殴りたい"、"邪魔だから消したい"、"自分が優位に立ちたい"。そういう本能はみんなにあるものだと思うので、架空の主人公ではあるんですけど、それは僕自身でもあるし、あなた自身でもあるんだよっていう。だからといって、お前らサイコだからなって伝えたいわけじゃなくて、そういう醜い部分を受け入れた方がいいんじゃないかと思うんです。無理にいい人間になろうとする必要もないし、優しい人になる必要もない。もともと醜い部分が備わっているってことを受け入れたうえで、うまくそれと付き合って生きていくことが大事なんじゃないかな。僕はそういう結論に至りました。

-そういう部分で共感するリスナーって多いと思うんですよ。最初に"誰かの救いになる音楽をやりたいわけじゃない"とおっしゃいましたけど、これを聴いて救われたと感じるリスナーもいるんじゃないですか?

いたらいいですね。それが目的じゃないですけど、結果として、そうなるなら嬉しいです。醜い部分を見ないふりなんてしない方がいいと思うんですよ。例えば、"どこそこでバラバラの遺体が見つかりました"ってニュースが伝えられても、たいていの人が"怖いね。あまり外をうろうろしない方がいいよ"って話しておしまいだと思うんですよ。それってあたり前の風景に見えるけど、実は自分とまったく接点がない人だから、どんな残虐な殺され方をしてもそんなに気にならない。もっと言えば、自分の家族にそれが起こらなくてよかったと思っているくらいかと。要するに他人に対しては心からの同情もない、さほど何にも感じていない。それがリアルなんじゃないかなって。でも、それがいけないというわけではなくて、そもそも人間というのはそういうものなんだと僕は思うんですよ。極端なことを言っちゃえば、知らない人が死のうがどうでもいいし、身の回りの大事な人だけが幸せであればいいと思っている生き物なんだって。そういう本来の姿を見ないふりをして、綺麗事で片づけない方が真実は見えてくるのかなと思うんですよ。もちろん、だからといって人を嫌いになれとか、絶望しろとかそういうことじゃなくて。そういう根底を受け入れたうえで、じゃあ本当の優しさとか愛ってなんなのかって思えたらいいかなと。

-アルバム・タイトルにもなっているTrack.2「Mama said」は実在のシリアル・キラーを題材にしているそうですね?

Henry Lee Lucasっていう実在した連続殺人鬼です。別に彼じゃなくてもよかったんですけど、サイコ・キラーとされる人を何人か調べてみたら、いろいろな共通点があったんですよ。そのひとつが幼少期の環境がとても酷かったこと。Henryも子供のころ母親から虐待されていたんです。サイコ・キラーって世に言う悪人じゃないですか。悪人って生まれながらにして悪人なのかなって考えたことがあったんですよ。だって、赤ちゃんの段階から悪人なんてあり得ない。じゃあ、どうやったら生まれるのか? それは人間が作ったからでしょって。それを証明できるストーリーだと思ったので、題材にしました。Henryも母親からの虐待によって、精神が殺されているからそういうふうになってしまったんだ、なりたくてなったわけじゃないんだってことを歌にしたんです。

-そういう世界観を美しい曲に乗せて、yu-kiさんのちょっと少年っぽい声で歌うというギャップが強烈なインパクトになっているところがある。今回の作品は、そこも聴きどころだと思いました。

すごくでかい声で怒鳴るより、優しい声で静かに怒られた方が強烈に怖いと僕は思うんですよ。それと同じインパクトが、自分の声質を考えたときに表現できるなと思って、そこは意識したところでした。

-他にももっといろいろな曲があるとおっしゃいましたが、曲によってはもっと違う――極端なことを言えば、もっと平和な世界を表現した曲もあるんですか?

今のところそういう曲はないです(笑)。でも何年か経って、自分の心境や感覚が変わっていたら作るかもしれない。曲は自分の気持ちに従って表現したいものを作っていくので、そういう曲は一切作らないという気持ちはないです。なので、そういう変化も含め、これからのShe,in the hazeを楽しんでもらえたらいいですね。

-ところで、Track.4「Behind」はギターのリフで聴かせるヘヴィなサウンドの曲ですが、序盤のドラムが軽めというところが印象的でした。

曲をアレンジするときは、どう外すかも考えていて、それでああいうドラムの音にしてみたんです。ストレートに考えると、もっとドカスカ叩くと思うんですけど、そこをあえて機械的に温度がないような音にすることによって、より一層、怖さや狂気が出るんじゃないかと考えました。

-Track.5「Claudia」は他の曲に比べ、ポップな魅力がズバ抜けていると思うのですが、She,in the hazeはそういう曲もレパートリーにあるわけですね?

自分では全曲ポップに感じるので、「Claudia」だけが聴きやすいとは思わないです。でも、たしかに聴きやすいと言ってくれる人は多いですね。そういうところが曲を作っていて面白いです。

-『Mama said』をリリースしたあとは、どんなふうに活動していこうと考えているんでしょうか?

楽曲をたくさん作って、来年またアルバムをリリースしたいです。でもその前に、できるだけ多くの場所に行ってライヴをしたいと思っています。今回、全国流通盤ということで各地のお店に置いていただけるので、これまで行ったことがないところにもたくさん行きたいですね。(She,in the hazeは)日本だけに留まらず、海外からもいい反応をもらっているので、そこでの反応も楽しみです。