Japanese
バンドごっこ
2016年07月号掲載
Member:ヒロ(Vo/Gt) ゲッチ(Ba/Vo) アッキー(Dr)
Interviewer:秦 理絵
-今みんな笑って話してるけど、それで苦労してきたわけですよね?
ヒロ:でも、"涙の数だけ強くなる"って言いますからね。
ゲッチ:こんだけ借金抱えてるけど、今年の3月に郵便局の正社員を辞めましたから。
ヒロ:嘆いてもしゃあないですね。
-さっき言ってた"失うものは何もない"の意味がわかった気がします。そうなると、今作『1/∞』(読み:無限大分の一)は"もうあとには引けない"という覚悟のうえで作った作品?
アッキー:そうですね。前作『うたそらごと』(2015年リリースのミニ・アルバム)はいろんな人に知ってもらうために、"とりあえず全国流通させました"という感覚が大きかったんですけど、今回は勝負をかけにいく感じですね。今の自分たちを全部詰め込んだ作品になったと思います。
ヒロ:周りのバンドがみんな本気でやってるから、それに対抗しようと思ったら出し惜しみしてられへんところはありましたからね。
ゲッチ:今作のジャケット写真には鳥が飛んでるんですけど、これは2013年に出したミニ・アルバム『おもちゃ箱』の中に「飛ばない鳥」という曲があって。その鳥が飛んでいくっていうイメージなんです。今持ってる曲を全部を詰め込めこんで、僕らの中で終わらせることで、ここからまた新しい曲を作っていこうというスタンスですね。
-タイトルの"1/∞"にはどういう意味を込めたんですか?
ゲッチ:アルバムに「1/300000000」(Track.3)という曲があるんですけど、これは精子の曲なんですね。俺らが生まれてくる確率は1回の行為で3億分の1なんです。だから、それまでに不発もあれば、親父の自慰行為も含めたら(笑)、生まれてくる時点でとんでもない確率なんです。そんな3人が出会って音楽をやれること、お客さんがライヴに来てくれること、CDを手に取ってくれることって、それはもう"1/∞"の確率だと思ったんです。
-今作は「1/300000000」だけじゃなくて、他にも生きること、自分の居場所を見つけることに価値を見いだすような曲が多いですね。
ゲッチ:最近の歌詞の傾向は......そうですね。僕の中で心変わりがあったからだと思います。実は、自殺しかけたんですよ。でも失敗に終わって。そのときに、すごく生きてる実感があったんです。仕事を辞めたのもそうなんですけど、結局大金持ちになっても、人生を失敗しても、死んだら一緒のところに行くじゃないですか。だったらやりたいように生きたらいいんじゃない?っていう考えに行き着いたんです。
-そうやって前向きになれたのは、曲を書くうちに気持ちが変わっていったんですか?
ゲッチ:いや、自分の中で気持ちが切り替わってから曲を書きました。
-なるほど。それで「僕はここにいる」(Track.1)とか「数秒先」(Track.6)みたいな、"今ここにいること"とか"明日"を強く意識する曲が多くなったのもうなずけます。
ゲッチ:もしかしたら明日、交通事故で死ぬかもしれんし、心筋梗塞で倒れるかもしれんし。人間なんていつ死ぬかわからへんのやったら、やりたいことをやる人生の方がええと思ったんですよね。世間体を気にして、夢があるのに諦めてる子とか自殺願望がある子とかも、うちのお客さんにはすごく多くて。そういう子たちを見てたら、"生きることはもっといいことなんじゃないか"って言いたかったんです。
-バンドごっこの歌詞はゲッチさんとアッキーさんのふたりが担当してますけど、最初はどなたかひとりで全部歌詞を書いてると思ったんですよ。
ヒロ:僕がヴォーカルなので、僕が共感できる部分がないと歌う意味がないんですよ。だから、最近は曲を作るときに限らず、普段から考えてることを共有してるんです。だから、ひとりが書いたように感じるんだと思います。そういうことを始めてからの歌詞は結構好きですね。昔は"何言うてんねやろ?"みたいなところも正直あったんですけど(笑)。
ゲッチ:作曲はほぼ100%ヒロなんですけど、歌詞に関しては僕とアッキーが書いてて、それをヒロが選ぶスタイルになってますね。
-アッキーさんの作詞曲にもTrack.4「生きる」という同じようなテーマの曲がありますね。
アッキー:僕は基本的にポジティヴなんですよ。メンバーはネガティヴですけど(苦笑)。世の中もネガティヴが溢れている。それで、僕もネガティヴな人の気持ちになって詞を書いてみようと思ったんです。本当は人と会いたくないけど生きるために会うとか、自分を殺さなきゃいけないとか。そういう嫌なこともあるからこそ、生きる実感もあるんですよね。マイナスを知ることでプラスも大きくなることを考えた曲ですね。
-たしかに歌詞には作り手のネガティヴを感じる歌詞もあるけれど、バンドごっこの曲は湿っぽくないというか、最終的にキャッチーなところに落とし込まれてますよね。
アッキー:語感がいい言葉を並べてるからですかね。
-「おにさんこちら」(Track.2)の歌詞はシニカルだけど、ライヴでは絶対に盛り上がりそう。
ゲッチ:さっき"普通は嫌い"っていう話をしましたが、この曲はドラムとベースは普通なんですよ(笑)。ひたすら縦ノリを出すだけやし。
アッキー:細かいところを言うと、いろんなことをしてるんやけど、ドラムとベースに関してはたぶんコピーしやすいと思います。
ゲッチ:この曲は最初にスタジオで聴いたときに、今"おにさんこちら"って歌ってるところの"タタタタタタタ"の7文字のフレーズが、僕の脳内では"おにさんこちら"にしか聞こえなかったんですよ。そこから他の部分も作っていきました。人間って"人間のことを恐れてるな"と思うことがあって。だから強がったりもするじゃないですか。それが鬼みたいな怖い感じやけど、本当は他の人間の心が見えへんから、結局、みんな目隠しをして怯えてるみたいな感じだなと思ったんです。それを書いた歌詞ですね。
-さっき"ネガティヴか、ポジティヴか"という話もあったけど、『1/∞』という作品を通じて感じるのは、その両方を行き来する答えのない感覚なんですよね。
ゲッチ:あぁ、そうだと思います。ポジティヴとネガティヴは裏返しだから、作品を通してそこに気づいてほしいなという気持ちもありますね。ちょっと自分の考え方を変えただけで世界の見え方は全然変わるので。そのためのヒントになったらいいなと思います。
アッキー:だから僕らの歌は単純な応援ソングではないんです。かと言って、僕らの中だけの話でもない。ちょっと考えさせられますよね。
-最初にバンドごっこは"面白いバンド"とも言いましたが、曲を聴けばめちゃくちゃ真面目でカッコいい。バンドとして、なんて言われるのが嬉しいですか?
ゲッチ:"面白くてカッコいいバンド"、ですね(笑)。今までは、このバンド名でこの見た目だから、それだけで聴いてもらえへんことも多かったんです。でも、最近はTwitterとかでも、やっと良い反応が増えてきたので。
ヒロ:革命を起こしたいです!
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