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INTERVIEW

Japanese

ENTHRALLS

2016年02月号掲載

ENTHRALLS

Member:井上 佳子(Vo) 青木 康介(Key) 中井 傑(Ba) 吉田 充利(Dr)

Interviewer:山元 翔一

-話を伺って感じたんですけど、今作のスタート地点として"ねむれない夜"というテーマがあったわけではなくて作っているうちに立ち上がっていったんですね。

井上:そうですね。順番は逆になってしまったんですけど、完成した今はしっくりきていますね。最初に"夜"とか"眠れない"っていうイメージがあったのは、「きょうはうまく眠れない」だけで。この曲が1番最初にできたわけじゃないんですけど――「クローゼット」が前身バンド時代からあって、大幅にアレンジを変えて収録したんです。だから歌詞は1番悲惨な感じになっちゃったんですけど(笑)。次に「一色即発」ができて、その次くらいに「きょうはうまく眠れない」ができましたね。方向性が見えたのは全部曲が揃ってからだと思うんですけど、「きょうはうまく眠れない」が今までにない曲だったので、この曲をリードにしたいという思いがあって。それで"ねむれない夜"っていうテーマでうまくまとめました。

-「きょうはうまく眠れない」を作品の中心に据えていることからも、シンプルなサウンドを志向しているというのが今作の1番のポイントなのかなと思いました。

井上:歌詞はわかりやすく、そのうえで聴いた人にとって残るものにすることを意識して普段あまり使わない言葉も入れたりしました。

中井:サウンドとしては、必要か否かとか前に出るか否かとかをそれぞれが意識することによってシンプルになっていったと思います。それで耳に残る部分はより大きくなったのかなと。

青木:音数を減らすことによって、隙間ができてサウンドに広さが生まれたような気がしているんですね。『PASSAGE』はせせこましい感じがありましたし。聴いてて情報量が多いというよりは、今作は必要なところには必要な音があるっていうイメージですね。そういうところも変わったのかなと思いますね。

吉田:ワイドなイメージというところで言うと、最初は"フェス感"というか海外のフェスで広いステージに似合うような曲が欲しいなと思って作っていったんです。そのイメージで作っていったら、青木君が言ったように、隙間を空けることによってワイドな空気感を出す必要があるということでシンプルになっていったんですよね。そもそもの話で言うとシンプルに作ることを目指したわけではなく、最初のイメージを突き詰めていったことで結果的にシンプルになっていったということですね。

-たしかに海外のフェスでシンガロングが起こるような曲って隙間があって本当にシンプルですよね。誰もが口ずさめる簡単なメロディがあって、それこそCOLDPLAYの「Viva La Vida」(2008年リリースの4thアルバム『Viva La Vida Or Death And All His Friends』収録)だってそうですし。当初描いていた"劇場型ピアノロック"とは違うと思うんですけど、この曲が今後のENTHRALLSにとっての新しいスタンダードになるような気がしました。今作はすごくいい作品にもかかわらずリリース店舗はかなり絞っているんですよね。

井上:それは戦略もありつつなんです。私たちはどこにも所属していないので、思い入れのある作品を作っても店舗での展開期間が短くて。事務所とかのパワーがないので1週間も経てば埋もれてしまうんですよ、それがどうにかならないものかと考えて。あとは東京に出てきて活動しているので、東京での知名度を上げたいと思ったんです。そんなときにTOWER RECORDS新宿店の17周年記念の企画に入れてもらったら展開期間を長く設けていただけるという話をいただいたので、苦渋の決断でしたが店舗限定でリリースすることに決めました。それが去年の10月のことですね。大阪出身なので"なんでやねん!聴かせる気ないんかい!"って関西で応援してくれている人たちに言われたりもしたんですけど、大きく展開してもらいたかったので。

-自分たちの音楽を届ける先の密度を上げたかったんですね。

井上:そうですね。それで店舗のことも考えたんですよ。去年はいっぱいライヴをしたので、ライヴ前に営業ということで挨拶回りみたいなこともしたんですけど、知名度がないので届いていない地方には届いていなくて。それだったら東京で売れた方が早いんじゃないかなと思って、迷いもありましたけど決断しました。

-全国流通盤を2枚出しているにも関わらず、店舗限定リリースに踏み切ったのは勇気のあることだと思います。タワレコ新宿店で好評だったということで、今年の1月13日から梅田NU茶屋町店、名古屋パルコ店、広島店でも販売が開始されたんですよね。

井上:本当にちょっとずつですけど広げていっていますね。会場でも売ることができないので、それもめっちゃつっこまれるんですよ。それも自分たちで決めたこととはいえもどかしいですね。

青木:地方に行くたびに東京で買ってくれって言わないといけないので(笑)。

井上:もうちょっとでそのあたりは変わっていくと思うんですけどね。やっぱり会場には持って行きたいですね。

-ENTHRALLSは今、変化の真っ只中にあると思うのですが、活動の方向性として見えている部分はありますか?

井上:作品のこともそうなんですけど、活動の密度を上げたいですね。去年と一昨年はバンドを叩き上げたくて、どさまわり的にライヴをしたんですけど、みんなメンタル弱いんで本当に泣きながら(笑)。今年はそこまでライヴを増やさずに、そのぶんお客さんには大事なライヴに注目してもらいたくて。もう少し宣伝やライヴに関しても行き渡らせたいっていう意識はありますね、何が大事なのかみんなにわかりやすくしようと思っています。

青木:サウンドに関しては活動の区切りごとに影響を受けているアーティストがいて、今年も新たな出会いがあってこういう方向性でやってみようってなっていくと思うんですけど。今は逆に、誰かにとって目標となる、影響を与えるようなバンドになることを意識していますね。だから新たなジャンルを開拓する、いろんなところに触れていこうと思っています。またBEN FOLDS FIVEに影響を受けた曲を作ったとしても、引き算的な差し引きを学んだ今だからこそできることもあると思いますし、もっとCOLDPLAYに寄ってみて見えてくることもあるでしょうし。自分たちが1番かっこいいと思うところを見つけていきたいと思いますね。だから目標は"新ジャンル開拓"です。

吉田:自分たちにしかできないものをやるっていうことは4人とも共通して意識していると思うんですけど。『ねむれない夜に』に行き着いたときにライヴの見せ方も変わったんですよ。ピアノ・ロックとしてギター・ロックに負けないように、テンション上げて煽らないとお客さんは反応してくれないんじゃないかなって感覚もあったんですけど。でもこの作品に行き着いて、ギター・ロックと同じ土俵で勝負するのもアリやけど、バンドとして伝えたい部分を考えたら自分たちにできることがあるんじゃないかなって4人で話し合ったことがあったんですよ。自分たちが忘れていたものを取り戻すというか。次の方向性は一度フラットな状態になったうえでの自分たちらしさを追求していくということですね。

-では次は新たなスタート地点となるような作品を作っていくというモードなんですね。ということは、今作はひとつの節目になるような作品と言えそうですね。

井上:三部作を作りたいっていう気持ちが最初からあったんです。今作でミニ・アルバム三部作が完結したので次は総集編に向かって。

-『ねむれない夜に』は実質2015年10月リリースで、いろいろな変化を経て辿り着いた作品なので次回作やフル・アルバムも楽しみなのですが、現段階で話せることはありますか?

井上:そうですね。フル・アルバムをリリースする予定なんですけど、2~3月にレコーディングして夏ぐらいには出したいです。必死に作っていかないといけないですね。フル・アルバムなのでできれば新しい曲を詰め込みたいんですけど、『TAMAYURA』だけ会場限定リリースだったのでそこから1曲は入れられたらなと思っています。いろんな顔を見せていけたらいいなと思っています。