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INTERVIEW

Japanese

さめざめ

2014年10月号掲載

さめざめ

Member:笛田 さおり

Interviewer:沖 さやこ

ベスト・アルバム『さめざめ問題集』から約1年4ヶ月ぶりとなるさめざめの音源は、10曲入りのフル・アルバムだった。その名も『さめざめ白書』。"これまでとは敢えて制作方法を変えなかった"と、さめざめの首謀者である笛田さおりは言う。そして、彼女が吐き出すように描いた楽曲とその物語の主人公の女子たちは"成長"した。赤裸々に綴られる性と、ジャンルにとらわれない色鮮やかな極上ポップス。描かれているのは日常生活のはずなのに、なぜこんなにも夢に溢れているのだろうか――だがそれこそ恋愛がもたらすパワーなのだ。

-公式サイトに"2009年に「愛とか夢とか恋とかSEXとか」の誕生をきっかけに、笛田さおりのプロジェクトとしてさめざめの活動を開始"とありましたが、まずはそれまでの経緯を教えていただけますか?

高校3年生のころから作詞作曲をして、バンドをしたり、ひとりでやったり、いろいろなパターンで音楽活動していたんですけど、真剣に"これから将来どうしていこうかな?"と思ったときに――"人にこう思われたらどうしよう"という気持ちがどこかにあって、自分の歌詞に歯止めをきかせていたこともあったので、そうではなく人のことを気にせずに自分のやりたいことを表現してみようと思い立って。そのときに「愛とか夢とか恋とかSEXとか」という、メジャーのデビュー曲にもなった曲を作ったことがきっかけで、女子の普段言えないような気持ちを赤裸々に表現することをコンセプトとしたソロ・プロジェクトを作りたいと思って。自分の表現でどこまで特化したものを作ってたくさんの人に聴いてもらえるか、自分なりに勝負をかけてみました。

-「愛とか夢とか恋とかSEXとか」ができあがったとき、笛田さんはどのような状況だったのでしょう?

ごく普通のそこらへんにいるようなフリーターの生活をしていて......それこそ彼氏もいなくて、友達はみんな少しずつ結婚したり。自分よりも他人のほうが幸せに見えて(笑)。わたしの人生はこのままでいいのか!?と思った帰りの電車でできた曲でした。音楽が人生の大きな一部だったので、そこでやりたいことをやらなかったら後悔するだろうなと思って。何か表現をしたうえで、人からいろんなことを言われたとしても、それがもっと大きなものになったときにさめざめを好きになってくれる人が増えるんじゃないのかな......というのをどこかで信じて始めました。

-今作『さめざめ白書』は2013年5月にリリースされたベスト・アルバム『さめざめ問題集』以来となる音源ですが、このアルバムの楽曲制作はいつごろから行っていたのでしょうか。

ストックで昔からある曲があったので、レコーディングは2年弱前から少しずつやっていて。その間にできた曲も入っています。それと同時進行で本(※『誰にも言えない恋ばっか~さめざめ白書~』笛田が書き下ろした55編の恋愛の言葉と写真でつづられた恋の本)も作っていました。

-表現の幅が音楽以外にも広がるのはクリエイティヴですね。

もともと言葉だけの表現でいろんな人から見てもらいたいという気持ちは昔からすごく強くて、本を出せたことはすごく嬉しいですし、それをさめざめを知らない人にも読んでもらえたらいいですね。この本も切ない恋をしている人ならきっと胸にくると思うので。

-そちらも楽しみです。『さめざめ白書』は"こういうアルバムが作りたい"というよりは、こつこつお作りになった楽曲を収録なさったということでしょうか。

そうですね。もともとはシングルを出したいなと思っていたので、ある程度自分の中で"A面になりうる曲"をたくさん集中的に作っていたら、いつの間にかそんな曲が10曲集まってしまって(笑)。個人的に完成度がとんでもないものになったなと思うんですよね。なのでそれだけの楽曲を揃えてフル・アルバムで出して、ここでたくさんの人にさめざめを聴いてもらいたいと。

-昨年はご病気もありましたが(※笛田は2013年3月に子宮頸がんの手術を行っている)......滅入ってしまったりは?

手術の直前は浮き沈みが激しかったんですけど、本当に初期も初期、0期だったので、お医者さんも"再発することはすっごく少ないんだよね"と軽い感じで言っていただいて(笑)。入院していた期間もすごく短かったので、休養も1ヶ月くらいで大丈夫だったんです。その間にライヴをお休みしたりなどがあって、この汚名返上をしなければ!と思って、その間に楽曲をすごくいっぱい作って(笑)。そういう意味ではバネになりました。そういう逆境をすべて力に変えていけたらいいなといつも思っています。苦しいことやつらいことがあったほうが、そのあとの幸せにありがたみを感じますし。日々幸せと不幸の繰り返しだろうな......と思ってるので。楽曲の物語も"今は切ないけど、じきに幸せになれるかもしれない""今は幸せだけど、あとで悲しくなるかもしれない"みたいな。その途中途中のシーンをアルバムでは描けたかなと思います。

-Track.4「それでも生きなくちゃ」は映画"幻肢"の主題歌ということで。映画のあらすじを読みましたが、事故で記憶を失くした主人公がその事故で恋人を失うというとても切ないお話ですよね。メロディもヴォーカルも優しくて。楽曲もその世界観と重なります。

そうですね。去年の秋ごろに主題歌のお話を頂いて、そのあとに脚本を読ませていただいて。本当に純愛というか、恋というよりはピュアな愛を描いている映画で......だから、ああ、ちょっとうらやましいな、私自身がこんなに人を愛せたらいいな、自分以外にこれだけ守れる人がいたらいいな......という憧れが強かったです(笑)。その主人公である恋人たちの人生と、自分の人生をリンクさせて書きました。もし自分が恋人を失ってしまったとき、自分の記憶もなくなってしまったら......と考えると、主人公の男の子がうつ状態になってしまう気持ちもわかりますし。大切な人を失うと、めぐりめぐって"自分もいなくなってしまえばいい"という葛藤も、どうしてもあると思うんです。でも、それでも生きていかなくちゃいけないという気持ちが入った歌が作れたらいいなと思って。もともとエンディングで流れるというお話を頂いていたので、映画のエンディングに邪魔にならないように、だけど耳に残るようなメロディにして。そこにうまくリンクできるように作りました。