Overseas
FLYING LOTUS
2014年10月号掲載
-もしもつらかったら、無理に話してくれなくてもいいんですが。
......(しばしカプチーノのカップを見つめている)Austinの死が悲劇的なものだったのは......とにかくあいつがまだすごく若かった、そこがものすごくつらかったんだよね。だから、あいつは逝ってしまうには余りに若過ぎたんだよ。で......誰かが、その人間の持っているポテンシャル/可能性を充分に発揮しないまま死んでしまう、それっていつだって、何よりも悲しいことだろ? だから、その人間はそれまでにいろんなことをやってきたけど、彼らにはまだやるべきことがいくらでもあって、でもそれらを実現できないまま世を去ってしまった、っていう。で......あの時点までの俺の人生の中で俺が見送った、看取ってきた人たちというのは、ある意味......(死を迎えるのも)理解できたっていうのか、仕方ないと思うことができたわけ。だから、気持ちが落ち着いたところでよく考えてみれば"彼女はもう高齢だったしな"みたいな。だから、悲しいことに彼女は死んでしまったけれども、きっと天寿を全うしたんだろう、そのタイミングだった、と。彼女は人生のあらゆる側面を見聞きしてきたし、人生を全うしていった、と。ところが......Austinについて言えば"クソ! なんで死んじゃったんだよ"みたいな。そう感じるくらい、彼はとても若かったし、死ぬ前まで本当に元気いっぱいな奴で......まだまだ、これからの生命力、来るべきライフの活気に満ちていたわけ。だからほんとに......こいつがこの世を去ることなんてなさそうだな、そういう男だと俺は感じていたんだよ。でも――彼が亡くなったと知って、こっちはもう"オー! マ〜〜ン......マジかよ? なんてこった!"みたいな(とつらそうな表情を浮かべる)......それと同時に、俺にはピンと来たんだけどね。"それもそうだよ、そうだよな"みたいな......っていうのも、彼はすさまじいパーティー男だったからね。俺の友人たちの多くはめちゃパーティーが好き、みたいな連中だし、昔のミュージシャンたちみたいにハードにパーティーするってタイプなんだよ。ただ、彼(Austin)は華奢な奴だったし......(声が小さくなる)たぶん、あいつはそういうライフスタイルをあれ以上続けることができなかったんだと思う。
-あなたはあのとき、ショウのために日本に来ていて、ステージで彼に追悼を捧げ、その後すぐにLAに戻りましたね。彼の死は今回のテーマにも影響を与えているのでしょうか。
もちろん。もちろん影響を受けているよ。そんなの当然じゃないか、影響は受けたよ......だから、実際、彼について書いた曲も入っているからね。うん......だから、彼の死には間違いなく影響された。
-『You're Dead!』というタイトルに込めたアイディアを教えてください。"死は終わりではなく、新たなスタート"という肯定的な意味で使われているようですね。
うん。
-と同時に、やや人騒がせなタイトルでもありますよね。知り合いにこのアルバム•タイトルを話したら、向こうは"何だ?"みたいな感じで、やや不快に感じていたくらいで。
(笑)ああ、だから、あれは挑発的なタイトルだよね。でも、俺としてはそれが今回のタイトルやアート•ワークを押し進める理由の一部でもあって......で、本当に正直に言わせてもらうと、いまだにこのタイトルに関しては自分でもものすごくナーヴァスになっているんだよ。うん、どう受け止められるか?ととても過敏になっている。だけど、自分の意志を貫いていこうと思ったし、はらわたで感じた"これだ"っていう直観、とにかくそれを信じていきたかったし......自分でも分かっていたからね、今の自分にだったら自分が語りたいと思ったこと、これが一体どういうものなのか?をより大きなスケールでコミュニケートできる、今の自分がそういう状況にいるってのは分かっていたし。でも、うん、そうは言ってもこのタイトル、アルバムを『You're Dead!』と呼ぶのは若干ためらわれたけどね。ほんと、今、この場でさえ"S***t! ほんとにこのタイトルでいいのかな?"なんて思うくらいだし(笑)。それこそ"っていうか、全部スクラップして改めて別のタイトルをつけた方がいいかも?"なんて迷いも感じる。ただ、この作品がこういうものだって点に揺るぎはないんだし......だから、タイトルだけで驚くのではなくて、人々が実際に作品を聴いてくれたらもっと意味が通じるんじゃないか、そう思うけど。だけど......(苦笑)分かるよね? だから、俺としてはこの作品をできる限り大胆なステートメント作にしたかったわけだし、(タイトルをより衝撃度の薄いものにすることで)その"声明"の意図を損ねるようなことはしたくなかった。だから俺としては、(ひそひそ声で)"このままうまくやりすごせたらいいな!"みたいな(笑)。
-さて、『You're Dead!』には過去のどのアルバムよりも多くのゲスト・アーティストが参加していますが、これは最初から考えていたことだったのでしょうか。それとも、自然発生的に広がっていったものだったのでしょうか。
俺には......最初の時点で分かっていたんだよね、今回のアルバムを作るにはそれこそ村ひとつ分くらいの数の人間が必要になってくるだろう、と。で、そうやって多くの人間が関わることに自分としても尻込みしたくなかったし、かつ、それを妙でしっくりこないアイディアだなって風に感じたくもなかった。だから......自分が見るためには必要だって分かっていた、みたいな。作品の全体のヴィジョンを見通すためには、他のミュージシャンたちの才能も自分には必要だ、と分かっていたんだよ。それに......そう、俺がアルバムに取り組んでいた時に、LAですごくクールなことが起きていたんだよね。とあるミュージシャンのグループ――彼らはなんというか、ゆるく『The Unit』と名乗っているんだけども、そこにはLAのジャズ•マンたちが数多く参加していてね。たとえば俺の好きな奴ら、Kamasi Washington、Ronald BrunerやTHUNDERCATに......Brendan Colemanといった連中が加わった集団で。今は、彼ら以外にも名の知れた連中が幾人か混じっているんだけどさ。で、とにかく彼らはみんなでスタジオに入って、約1ヶ月間にわたってお互いのアルバムでプレイし合ったっていう。それぞれのアルバムで、参加者全員が一緒に、ひとつのスタジオで1日中、毎日作業したというわけ。
-すごいですね。ビッグで長いジャム、みたいな。
うん。あれはすごかった......だから、俺は連中のスタジオに遊びに行って、彼らのやってることを聴いたり見たりしながら......"こりゃヤバい、すごくドープ!"みたいに思ったっていう。だけど、彼らはプロデューサーを必要としてたんだよね。うん、あそこには全体を仕切るプロデューサーが求められていたよ。で、俺は"そうだなぁ、もしも俺がこういうことをやるとしたら、これこれこういう風にやるんだけど"みたいに考え始めて......そこで閃いたわけ、"自分でやるべきだろ!"と。自分も彼らのやっているようなことをやるべきだ、そう思った。だから、友人たちのやっていることにインスパイアされたって面は間違いなくあったね。だけど、分かっていたんだ――。
<※取材場所だったホテルのカフェ/ダイニング•エリアでランチ向けの準備が始まり、テーブル&椅子の移動やカチャカチャとフォーク類を置く音等々、周辺の騒音がひどくなってきた状況。ウェイトレスのひとりが皿を落として割ったのに痺れを切らし、Stevenは閉口気味な表情でしばし黙り込んでしまう>
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