Skream! | 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト

MENU

INTERVIEW

Japanese

中ノ森文子

2014年06月号掲載

中ノ森文子

Interviewer:吉羽 さおり

-気分が落ちているときには、歌詞を書いたりとか、書くことで昇華するということも?

わたしはないですね。どんなに悲しい曲でも、自分が落ち込んでたりとか、例えば、失恋の曲を失恋しましたみたいな時に書いちゃうと、ストーカーチックというか感情だけの歌詞になるから、結局伝わらないんです(笑)。こういうことがあって、こんなことも幸せだった、っていうのは悲観的になっている時には思えなかったりもするので。落ち込んだり、失恋したっていうときには、そこに思いっきり浸るというか(笑)。また靴を履けるまで一生懸命泣いて、それでようやく靴を履いて出ようっていうときまで、落ちるまで落ちろみたいな(笑)。なので、基本的にはわたしが曲を書くのは、楽しいときだけなんです。

-自分の曲を書くときと、また別の誰かが歌うと想定して書くときとでは、違いはあるんですか。

例えばわたしが誰かに曲を提供したりするときは、客観視ができるというか。アイドルの曲を書くにしても、いろんなイメージが浮かびやすいんです。けれど歌ってる自分を客観視するって、わたしにはすごく難しくて。そういうことを考えず、自分でセルフ・プロデュースするとかも考えずに、ただただ、楽しいときに出てきたものを形にする、今の等身大の自分を形にするっていう方法じゃないと、なかなか難しくて。何かのインスパイアを受けてそれを自分のフィルターを通して形にすることもあるんですけど。今回の場合は"中ノ森さんが今思っているもの何でもいいよ"っていうことだったので、逆に難しかったですね。それを逆手にとって、ありのままの自分を「ROLL INTO YOU」で出せたらなとは思いました。

-難しいですね、今の自分って何だ?って立ち止まっちゃうと。

はい、でも今の自分から素直に出てきたメロディをそのまま捉えて、そこから詰めていくというか。「ROLL INTO YOU」はご機嫌なときにストックしておいたメロディから起こして、自分の中である程度アイディアも固まっていたので、結構早かったんです。人に曲提供するときは、この人が歌うとこうなるからこの曲をこう歌って欲しい、とか。あとは、自分ではなかなか歌わないだろうなっていうものだったりするので。プロデュース目線じゃないですけど、自分自身が歌いたい曲、自分は歌わないけどこの人が歌ったらすごくよくなりそうな曲、っていうのとではちょっと脳が違うかもしれないですね。

-作家の脳と、自分の表現の脳ですね。作家活動っていうのは楽しんでできるものですか。

そうですね。そういうことを他のアーティストからもよく聞きますが、みんなやっぱり、自分のものを生みだす方が苦しんでいますよね。結構、誰かに書く方が楽しいよねって。客観視できるからわかりやすいんですよね。だから楽しく組み立てていけるんですけど、自分の曲でドツボにはまったときには、もう(笑)。今回、どんな曲でもいいよって言われた時には、なるべくフラットに、何も考えずに、自分から出てくるものを出せたらなと思って。考えすぎると頭のなかに変な雲ができちゃいますからね(笑)。

-他者に曲を書くことと、自分の曲とでセパレートできたのは近年だったりするんですか?

そうですね、わたし一時期"曲も書きたくない"っていうような心境になっていて、バンド辞めて、もう曲とか書きたくないし、一生曲なんか書けないかもっていうのがずっと続いていたんです。少しずつ、自分でリハビリしながら、やっとというか。そのリハビリがいい感じになったなっていうところで、今回お話をいただけたので。そういう意味でも、細かい傷がついて擦りガラスになっていた自分の魂みたいなものを、少しずつキュッキュッ、キュッキュッて磨いてリハビリしていたところだったので。逆にこれを作品にできたことは自分の自信に繋がるし、これを聴いてこの曲が好きだとかこの曲に励まされたという声をもらったらまたさらに自信に繋がっていくと思うので。これを形にさせてもらえたのはほんとにありがたい機会をいただいたなと思いました。

-音楽もういやだなっていう時もあったんですか。

たぶん、みんなあると思うんですけど。ありましたね。

-やりたいけどできないというよりは、1回突き放したいという思い?

うーん......たぶんミュージシャンってあっけらかんと普通に取材に応えたりする人もいると思うんですけど、結構神経が細やかな人が多いと思うんですよね(笑)。人より感受性が豊かなかたも多いと思うので、実は1つの言葉がグサッと、ハハハって笑いながらも刺さっていたりとか。そういうことが積み重なって。やっぱり、音楽を最初に始めたときは"楽しい"っていう気持ちが1番強いと思うんです。それが、仕事になることが嬉しい反面、仕事になればなるほど楽しさを忘れていっちゃったりとか、置かれている環境にもよると思うんですが、音楽が楽しくなくなる瞬間ってあると思うんですね。だからこそ、今回ストレスなくきちんとみんなで楽しく、同じ方向を向いて制作できたのはわたしにとっては財産なので。10年後も20年後も、このCDを聴いて欲しいというか。結果論ではなくて、わたしの作品として、自分が生みだした最高のものができたよって渡せる1枚になったんじゃないかなと思います。そう言えるもの以外は作っちゃダメだと思うし、作るべきではないし、それをプロモーションするべきではない、と私は思います。