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RED HOT CHILI PEPPERS

2022年10月号掲載

RED HOT CHILI PEPPERS

Writer 鈴木 美穂

メロディの魅力はそのままに、 ファンキーなグルーヴとリズムとサイケな雰囲気を全面に出したアルバム


"このバンドは、個々人のストーリーじゃないんだ。俺は、Chad(Chad Smith/Dr)、Flea(Ba)、John(John Frusciante/Gt)を心の底から愛している。全員が素晴らしい才能の持ち主で、Fleaは唯一無二のベーシストで、Johnは俺が人生で一番好きなギタリストで、Chad Smithはこの国で最も優れたドラマーだ。そして俺たちがひとつになると、素晴らしい何かが起こる。俺たちひとりひとりよりも、遥かに偉大な何かがね。俺たちは大好きなことを発見できて、全世界の人たちとコミュニケーションを取れるようになった。この通りの界隈の場末のバーでショーをやって、少数の人々を踊らせることからキャリアを開始して、夢を現実にした。そして長い歳月が経過しても、俺たちはバンドとして、チームとして結束し続けて、今ではあらゆる人たちを踊らせ、喜びを感じてもらうことが可能になった。俺たちはこの人生と、この体験とずっと繋がってきたんだ"。

3月31日、バンド結成から来年40年を迎えるRED HOT CHILI PEPPERS(以下:RHCP)の4人は、映画界から音楽界まで、伝説的な偉人たちの名前が並ぶハリウッド通りの"ウォーク・オブ・フェイム"に新しく加わった彼らの星型プレートをお披露目するイベントに登場した。そこでヴォーカリストのAnthony Kiedisが語ったのが、冒頭のスピーチだ。彼らの星が設置された場所はAmoeba Musicという有名レコード店の近くで、集まった大勢のファンが祝福するなか、ギタリストのJohn Fruscianteは、"1987年に17歳で初めてハリウッドに引っ越したんだけど、偶然にも、ここから1区画離れたところに俺のアパートがあった"と、笑顔を見せた。

その翌日の4月1日、RHCPは、Johnが復帰してこの編成でレコーディングした作品としては2006年の『Stadium Arcadium』以来となる『Unlimited Love』をリリース。同作は全米アルバム・チャートで1位を達成したのみならず、世界10ヶ国以上のチャートで1位を記録し、RHCPが現代最強のロック・バンドであることを改めて証明した。さらに彼らは、同作のレコーディング中に約50曲もの新曲を録音していたことを明らかにし、今年中にもう1枚アルバムを出すと発表したのだ。それが、今回リリースされた通算13作目の『Return Of The Dream Canteen』である。本作はAnthonyの言葉通り、RHCPがひとつになることによって、他のバンドでは決して見られないマジックを生み出している18曲を収録した傑作である。そして彼らはこのマジックを取り戻すために、10年以上前に2度目の脱退をしたJohnを、バンドに連れ戻したのだった。Johnが抜けたあとは、Johnの友人でRHCPのツアー・メンバーでもあったJosh Klinghofferが新ギタリストとして加入し、新しいケミストリーを手にすることに成功していたのだけれど、結局のところ、RHCPにはどうしてもJohnが必要だったのだ。

"俺たちはバンドとして、これまでの俺たちを捜す旅に出た。それを楽しむために、俺たちはジャムをして、昔の曲の数々の演奏を学んだ。間もなく、俺たちは新しい曲を作りあげる神秘的なプロセスを開始した。音と映像のスリップストリームを一度見つけると、そこをどんどん掘り下げていった。大きすぎる下着のウエストのゴムのように時間は引き延ばされ、俺たちに曲を作ったり、ロックすることを止める理由なんてなかった。まるで夢のようだったよ"

本作の発表前に、彼らがオンラインで公開したメッセージだ。RHCPは半年以上かけて50年代のブルース曲や、昔のRHCPの曲を演奏し続け、改めてイチからバンドのケミストリーを築きあげていった。それから1991年発表の大ブレイク作『Blood Sugar Sex Magik』以降のRHCPの名作の数々を手掛けてきた重鎮、Rick Rubinを再びプロデューサーに迎え、マリブにあるRickのシャングリラ・スタジオでレコーディングに入った。Flea、Chad、Johnがジャムをしながら新曲を作曲、レコーディングしたあとに、Anthonyはハワイにある島の一軒家に籠って大量の曲の歌詞を書き上げ、そこにRickが訪れてヴォーカルのレコーディングを行った。こうした非常に特別なプロセスを経て、『Return Of The Dream Canteen』は完成を迎えた。

本作からのリード・シングルとして8月に発表された「Tippa My Tongue」は、Fleaの超絶にファンキーなベースに絡むJohnの鮮やかなギターとChadの強靭なドラムの上に、"Ya, ya-ya-ya"という一度聴いたら脳から離れないAnthonyのキャッチーなヴォーカルが踊る、風変わりでダンサブルな最高の曲だ。これまでの曲になかった新鮮さもありながら、非常にRHCPらしいサウンドになっている。ミュージック・ビデオはAnthonyがバンド・ロゴの形をしたLSDを舌先に置いて飲み込む場面から始まり、サイケデリックでグルーヴィなサウンドに合わせ、幻覚剤のトリップを想起させるカラフルでトリッピーな映像になっている。このサイケデリック色は『Return Of The Dream Canteen』のアートワークにも反映されているので、アルバム全体が不可思議で奇妙でユニークな世界観で統一されているのではないかという期待を抱かせてくれる。

特に歌詞で注目してほしいのは、"俺たちはまだ始まったばかり/ファンキー・モンクス(バンドのメンバーのこと)が逃走中(和訳)"という1節で、『Blood Sugar Sex Magik』に収録された「Funky Monks」を引用している。現在の4人が改めて新鮮な気持ちでパフォーマンスをすることを楽しんでいるのが伝わってきて、胸が熱くなる。

続いて9月23日に、アルバムからの2ndシングル「Eddie」がリリースされた。タイトルから想像できる通り、彼らだけでなくほぼすべての後続バンドたちが多大な影響を受けたVAN HALENの伝説のギタリスト、故Eddie Van Halen(2020年10月6日に他界)に捧げられた曲だ。Fleaは同曲の発表日の前日、"俺が一番好きな曲のひとつだ。聴くたびに俺の心の奥に響く"とInstagramの投稿でコメントした。

「Californication」や「By The Way」を彷彿とさせるイントロで始まる同曲は、本当に名曲と呼ぶのが相応しい曲で、私自身にとってもRHCPの曲の中で最も好きな曲のひとつとなった。Fleaの優しいタッチで流れるベースとChadの強靭なドラムにJohnの秀逸なギターの旋律が絡み、そこに歳を重ねるに連れて艶と深みが増しているAnthonyのエモいヴォーカルがサーフィンの波乗りのように乗っている5分41秒に及ぶ大作で、クライマックスで神がかった哀愁たっぷりのギター・ソロが堪能できることも含めて、ライヴで相当盛り上がる曲になるだろう。

彼らのInstagramのアカウントに投稿されたAnthonyのメッセージによると、Eddieが亡くなった翌日のリハーサルで、Fleaがこのエモーショナルなベース・ラインをみんなに聴かせたという。彼とJohnとChadはそれに合わせてプレイし始め、"すぐに、俺たち全員の心を込めた、Eddieに敬意を払う曲が苦もなく姿を表した。俺たちに本当にたくさんのものを与えてくれた人の死を悲しみ、その人を大事に思うことで、とてもいい気分になれた。歌詞にEddieの名は出てこないが、バンドの初期に彼がサンセット大通りで過ごした日々のこと、そしてVAN HALENが俺たちの意識に描いたロックンロール・タペストリーについて語っている。結局のところ俺たちの曲は、Eddieの死ではなく、彼が最高にワイルドな夢を生きたことを君たちに覚えていてほしいと伝えるものになった"。Anthonyが"唯一無二の存在だった"と語るEddieが、天国でこの曲を聴いてあの素敵な笑顔で喜んでいる姿が目に浮かぶ。すべてのロック・ファンの涙腺が緩む究極的に素晴らしい曲に仕上がっていると思う。

他の曲はまだ未聴だが、この2曲だけで『Return Of The Dream Canteen』が最高に素晴らしいアルバムになっていると断言できる。『Unlimited Love』が『Californication』のように哀愁のあるメロディを核に据えた作品であったのに対し、今作はメロディの魅力はそのままに、ファンキーなグルーヴとリズムとサイケな雰囲気を全面に出したアルバムになりそうだ。 去る7月31日には、地元ロサンゼルスのSoFiスタジアムで大観衆を前に、この4人が生み出すマジックを全身全霊で披露した彼ら。全米公演は10月にテキサス州で終わりを迎えるが、来年の1月末からニュージーランドとオーストラリアのスタジアムを回る予定になっている。そのあたりで来日公演が決定することを祈りつつ、『Return Of The Dream Canteen』のまるで夢のような音楽体験を存分に楽しんでほしい。


▼リリース情報
RED HOT CHILI PEPPERS
ニュー・アルバム
『Return Of The Dream Canteen』
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[WARNER MUSIC JAPAN]

1. Tippa My Tongue
2. Peace And Love
3. Reach Out
4. Eddie
5. Fake As Fu@k
6. Bella
7. Roulette
8. My Cigarette
9. Afterlife
10. Shoot Me A Smile
11. Handful
12. The Drummer
13. Bag Of Grins
14. La La La La La La La La
15. Copperbelly
16. Carry Me Home
17. In The Snow
18. The Shape I'm Takin ※国内盤ボーナス・トラック

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