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Japanese

奮酉

2018年08月号掲載

奮酉

Writer 石角 友香

ジャンル感の見えないバンド・ネームを持った、ギターとドラムだけの女性のツイン・ヴォーカル・2ピース・バンド――プロフィールからすでに"新鮮なバンドの登場"というイメージを持つのは久々。2ピースといえば、ふたり体制になった直後の生身とアイディアで勝負していたころから、打ち込みと生音を融合したラスト・アルバム『誕生』まで、もはや形態よりも"チャットモンチー"という表現の高みに到達した先人がいる。そして、男性だと自在にループ・エフェクターを駆使し、邦楽ロックの文脈になかったコード感やメロディを持ちつつ、しっかりキャッチーな部分もあるドミコも、2ピースに馴染みが薄かったオーディエンスに、自由なアンサンブルの楽しさを浸透させ始めている。

高校の同級生である高田 蒔(Gt/Vo)と河西愛紗(Dr/Vo)からなる奮酉(読み:ふるとり)は、インタビューでもチャットモンチーからの影響を公言しているが、その影響は"ちゃんとしたバンドをやりたい"というスタンスの部分こそ共通しているものの、音楽的なリファレンスはさほど感じない。すでに2016年の"RO69JACK"で入賞し、2017年の"出れんの!?サマソニ!?"ファイナリストとなり"SUMMER SONIC 2017"に出演。メディアでは、tvk"次世代ロック研究所"やJ-WAVE"SONAR MUSIC"で楽曲がオンエアされるなど、従来型ではないニューカマーが登場する番組でピックアップされている。

若干の活動休止期間も経つつ結成6年目を迎え、この夏1st EP『はじめのセンセーション』をリリースする。なるべく先入観を拭い去って再生すると、心音のようなキックが生々しい音像で聴こえ、ノン・エフェクトなギターが鳴り、部分的にボサノヴァ的な気の利いたコード進行も交え、ソロではワイルドなギターも聴ける「TOKYO」。このスタジオ・ライヴのような近さと"ふたりだけ"の潔さはなんだ? 思わずひとつひとつのアレンジや歌詞に耳をそばだててしまう。一転してオート・チューンのヴォーカルから始まる「シグナル」も、聴き進めていくと、基本的にオーガニックなヒップホップ的なグルーヴで、ふたりの演奏が心地よい。ほんの少し挟まれるラップの部分に女子の本音が垣間見えるのもいい。ゆるいラップとふたりの声が瑞々しく響き合うコーラスが交互に登場する「ccc」は、ふたりが向き合って、まるでしりとりのようにラップしている情景が浮かぶよう。

シンセ・ベース的に鳴るフレーズやスローなテンポが浮遊感たっぷりで洗練された印象の「5:40」は、センシュアルでありつつ音の美しさが洗練されたイメージを広げていく。ポスト・ロックやシューゲイザーから音圧を抜いたようなサウンド、ジャズやフュージョンにも通じるコード感など、このEPの中でも奮酉のクリエイティヴィティを最も感じられる曲だろう。打って変わってアンプの歪みで鳴らすようなエレキ・ギターとタイトなビートの「Bon-no!」、これぞオルタナなギター・サウンドが堂々とした印象の「XYZ...?」、ほぼ2コードで進行する「ベイベー」は、夜に世界が止まってしまったような、自分の中の真実がどんどん迫ってくるような突き抜けた楽曲だ。リフレインされる"ベイベー"に込めれられた想いの強さ。8分近い曲だが、スケールが大きいというより淡々と紡がれていく1音1音が必然の積み重ね、それゆえの尺なのだろう。

ふたりのセッションを近くで見ているような心持ちになる録音とエンジニアリングが、ジャンルに縛られない奮酉の音楽性を際立たせているし、必要最低限の音しか入っていないことで、ふたりのスキルとセンスもまっすぐに飛び込んでくる。

一人称的なメッセージより、情景や情動を時にユーモアも交えたリリックに落とし込み、共感へと安易に流されないあたりにも、彼女たちが何をもって"ちゃんとしたバンド"を標榜しているかが明確だ。奮酉、筋が通っている。



▼リリース情報
奮酉
1st EP
『はじめのセンセーション』
furutori_jkt.jpg
2018.08.15 ON SALE
[さきどりレコーズ]
FRTR-0001/¥1,944(税込)
amazon TOWER RECORDS HMV
 
1. TOKYO
2. シグナル
3. ccc
4. 5:40
5. Bon-no!
6. XYZ...?
7. ベイベー

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