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Japanese

SHAKALABBITS

2017年05月号掲載

SHAKALABBITS

Writer 永堀アツオ

昨年末に"2017年内をもって、無期限の活動休止に入る"ことを発表したSHAKALABBITSの、バンドとしてはラストとなる通算8枚目のアルバム『Her』をリリースしたのだが、これが、バンド史上最高傑作と称賛せずにいられない作品となっている。演奏はパワフルでアグレッシヴな勢いがあり、音圧もかなり突っ込んでいるのだけれども、楽曲の世界観を立体的に浮かび上がらせる目標地点まで持っていくためのクールな視点と長い年月をかけて培ってきたスキルがあり、その奥底にはどうしようもないやるせなさやホロリときちゃう切なさもある。その渾然一体となった音の塊、ヴォーカルのUKIが見せてくれるロマンチックで不可思議なストーリーに惹きつけられて、何度も何度も繰り返し聴いてしまう。これほど、音楽に対する情熱とクオリティを共存共栄させられるバンドがどうして活動を休止してしまうのか。なかなか事態を呑み込めないで困っていた。

SHAKALABBITSはUKI(Vo)、TAKE-C(Gt)、YOSUKE(Ba)、MAH(Dr)の4人からなるロック・バンドだ。日本の音楽シーンにメロコア/スカコア/パンク・ロックのブームが巻き起こった90年代末に次世代のライヴハウス・シーンを牽引するバンドとして登場し、インディーズ活動を経て、2002年にシングル『ROLLIE』でメジャー・デビューを果たした。同年に初代ギターのMASSYが健康上の理由で脱退し、それまでサポート・ギタリストとしてライヴに参加していたTAKE-Cが加入。2003年には"ミュージックステーション"に出演し、2005年には初の日本武道館公演を成功させた。その後も全国のライヴハウスでモッシュとサークルと熱狂の渦を起こし、オーディエンスのかけがえのない"今"を音楽で輝かせ続けてきたが、2011年12月に初代のベーシストのKINGが脱退。同月末の"COUNTDOWN JAPAN 11/12"からTAKE-Cの実弟であるYOSUKEが加わり、現体制となった。2013年9月には結成15周年を記念したベスト・アルバムを2枚発表し、翌年の2014年5月には、彼らのホームだったSHIBUYA-AXで単独公演を実施。同年6月にはメンバー4人でレーベル/マネージメント・オフィス"Hallelujah Circus Inc."を立ち上げ、2015年には、かつて彼らのアルバムのアートワークを手掛けた宇野亜喜良が構成と美術を務めた寺山修司作の舞台"新宿版 千一夜物語"にバンドとして出演し、カバーも含めたアコースティック・ライヴ"Hallelujah Circus Acoustic Show!"を開催。メンバーの脱退、メジャー・レーベルやマネージメントの移籍、自主レーベルの設立など、様々な経験をしながらも時代に流されることなく、常に未来志向で新たなチャレンジを続け、自由な発想でフィールドを広げていた最中で届いた、活動休止のニュースだった。


今の4人ではこれ以上のものはできないっていうところまでできた。
初めて満足できたアルバムです(MAH)


そして、衝撃的な発表後の今年2月に鶯谷・東京キネマ倶楽部で開催された通算3回目となるアコースティック・ライヴ"Hallelujah Circus Acoustic SHOWⅢ"のMCで、UKIはこう語っていた。少し長いが引用したい。

"幸せだと思っていたのにすごく不幸せと感じてしまう瞬間があったときに、絶望的な気持ちになってしまったことがあって。でも、それを救ってくれたのは音楽でした。やっぱりまた音楽に救われてしまった。まだまだこれからも音楽に恩返しをしていかないと気持ちが収まらないというくらい、私は小さいころから音に救われて生きてきました。こうやって友達と出会って、また新しい音を生み出して、演奏してる。ここにいるみんなもそうやって音でバランスが取れているんだと思うんだ。私は、ちょっと塞いでるときに、みんなが出てきちゃうんだよね。私が想像するみんなはすごく楽しそうだからさ。でもそれは、普段、悲しいことがあるから笑えるのかなって思うの。みんながライヴで身体中で表してくれるものを見て、感じて、前に進みたいなって思えた。SHAKALABBITSの音楽をずっとずっと作っていきたいなと思えたから、すごく感謝しています"

この"ずっとずっと作っていきたいなと思えた"という言葉にはどんな真意が込められているのか。終演後に挨拶に行くと、まず、MAHが"今度のアルバム、初めて満足できたアルバムなんですよ。自分の中で、今の4人ではこれ以上のものはできないっていうところまでできた。俺の中では、今までのアルバムとはまったく違うと思います"と嬉しそうに語ってくれた。"じゃあ、どうして......"という問いかけに対しては、UKIが"ロマンチックじゃないし、うまく言えないんですけど、すっごくすごく簡単に言うと、バンドや音楽に対する考え方や生きていきたい道が違ってしまったっていうことですね"と真摯に答えてくれた。さらに"でも、私にとって音楽というものは、子供のときから夢としてずっとやってきたことだし、それを手放すっていう考えはまったくない。だから、私はやめないんですよ。やめられないんですよ"と語り、MAHも"どんな形になるかはわからないですけどね。僕は今でも、普通に思い立ったらUKIさんのために曲を書いていて。もうそれはライフワークみたいなもので。活休するのに、これはいつ歌われるんだろうとは思いながらも作ってますから"と続けた。バンドの内情はきっとメンバー同士にしかわからないだろう。だが、ライヴに行くたびに、"やっぱりシャカのライヴが好きだし、いつも泣けてしまう"と感じているいちファンとしては、その言葉だけで十分ではないかと思えた。

そういう意味では、ニュー・アルバム『Her』は、結成から18年が経ったバンドに終止符を打つ作品であると同時に、それぞれのメンバーの新たな旅立ちを記した作品でもあるだろう。 表題曲のポップ・ロック・ナンバー「Her」は、2001年にインディーズからリリースした1stアルバム『EXPLORING OF THE SPACE』の制作時からあった曲だそう。当時は"MOM"というタイトルで、アレンジや構成は変わってなく、MASSYやKINGも弾いていたという。ずっと眠っていた楽曲にTAKE-CとYOSUKEがギターとベースを入れ、UKIが歌詞を本作の制作の最後に仕上げた。この曲で彼女は"あなたの手は離さないから/この世界とまだまだ遊んで"と歌っており、その言葉には嘘はないだろう。そして、"Her"とは、聴き手はUKIをイメージしてもいいかと思うが、作者であるUKIにとっては、自分の母親や心の中にいる女神、もうひとりの自分や、音楽の神様のようなものではないかと想像している。


"ありがとう"っていう気持ちもずっとずっと歌えたらいいなと思ってます(UKI)


続く、スタジアム・ロック「Color」でUKIは、珍しく"今のまま歌えそうにない"や"どんな色になれば/振り向いてくれるの"と不安を吐露している。これまで、"どんな色にだってなれる"と歌ってきた彼女の絶望は、やはり活動休止における苦悩を感じさせるが、"振り向いてくれるの"という言葉のあとに、オリジナルとしては5年前にリリースされた前作『Condenser Baby』に収録されていた「I'm a Dreamer」の"ひっくり返せドリーマー"っていうフレーズを密かに歌っている。心の中の自分、過去の自分が書いた言葉に奮起を促された彼女は、ラスト・ナンバー「Stars」で目一杯の感謝の気持ちを込めて"いつの日かまた逢おう"、"ありがとう"と手を振って幕を引いているが、できれば、そのままリピートして聴いてほしい。1曲目「Longyearbyen」では色を失ってしまった"あたし"が、(音楽の)神様が塗った色に染められて、息を吹き返している。終わりの始まり。喪失からの再生。これが本来のラスト・ナンバーであり、そこにはすでに微かな希望の灯火が宿っている。

"私の中でもこれ以上のものは、今のSHAKALABBITSではないかなっていうくらい。本当にいろんなものを込められましたね。みんなの前で歌うことは一時的には減るのかもしれないですけど、絶対にやめたくないな。だって、「歌うように生きるんだ」って自分で言ってて。その歌がないっていう選択肢は私の中にない。すごくすごく救われてきたものだから。だから、この「ありがとう」っていう気持ちもずっとずっと歌えたらいいなと思ってます"と語るUKIが見せてくれる未来の景色はどんなものだろうか。1年後がどうなっているかはわからないが、歌い続けるという彼女/彼らの夢は、ライヴハウスを愛する私たちリスナーと重なって見えた。




▼リリース情報
SHAKALABBITS
8thフル・アルバム
『Her』
her.jpg
NOW ON SALE
HCID-009/¥2,800(税別)
[Hallelujah Circus Inc.]
amazon TOWER RECORDS HMV

1. Longyearbyen
2. 至福のトランジスタ
3. サイ
4. 神ノ街シアター
5. Laundry Blues
6. COFFEE FLOAT
7. 三日月のような目をして
8. Catcher In The Rye -Her Ver.-
9. Her
10. Color
11. Climax
12. Stars

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