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BASTILLE

2013年07月号掲載

BASTILLE

Writer 山口 智男

約1ヵ月後にはSUMMER SONICに出演するため、早くも初来日を実現させるBASTILLE。今年3月にリリースされ、いきなり全英No.1ヒットになったその彼らのデビュー・アルバム『Bad Blood』がついに日本でもリリースされることになった。昨年の秋頃からイギリスで急速に注目を集めてきたBASTILLEの存在は、今回のリリースとSUMMER SONIC出演をきっかけに、ここ日本でも多くの人々に知られることになるだろう。
ホラー映画、あるいはサスペンス映画のオリジナル・サウンドトラックを思わせる――と言うか、元ネタは明らかにDavid Lynchの『Lost Highway』だと思うんだけれど、見る者の想像力を喚起する『Bad Blood』のジャケットを、店頭あるいはネットで偶然見つけ“何だか(誰だか)わからないけど、気になる!”と興味を抱いたという読者もきっと少なくないはずだ。
“耳が聞こえなくなるくらいのバズが起きている”(The Sun)
“彼らが世界を征服する準備はできている”(The Daily Mail)
マスコミによる数々の称賛の言葉とともに将来を大いに嘱望されているBASTILLEはDan Smith(Vo/Key/他)のソロ・プロジェクトとしてスタートした。
幼い頃から映画監督、あるいは作家になることに憧れていたというから、Danは夢見がち、あるいは空想好きの少年だったにちがいない。イタリアン・ホラーの巨匠、Dario Argentoや前述したDavid Lynchといった強い作家性を持った個性派監督の作品から影響を受けたという彼はいつしか、物語を作るという夢を映画や小説ではなく、音楽を通して実現させ始めた。
宅録した楽曲をBASTILLE名義でネットにアップしていたプロジェクトはやがてKyle Simmons(Key)、William Farquarson(Ba)、Chris Woody Wood(Dr)を迎え、4人編成のバンドに発展。彼らはロンドンを拠点にライヴ活動を開始した。因みにBASTILLEというプロジェクト/バンド名は、Danがバスティーユ・デイ(フランス革命記念日)である7月14日に生まれたことに由来するそうだ。
2011年7月、ロンドンのインディー・レーベル、Young & Lost Clubからシングル「Flaws / Icarus」をリリース。その後、リリースしたEP「Laura Palmer」(タイトルはご存知、Sheryl Leeが演じたDavid Lynchの『Twin Peeks』のヒロインの役名)ともに大歓迎され、メジャー・レーベルとの契約を手に入れた。Dan自ら作った「Flaws」のビデオが『Thin Red Line』『Tree Of Life』などで知られるTerrence Malick監督の『地獄の逃避行(Badlands)』の映像を無断で使っていたため、YouTubeから削除されてしまったのは、この頃だろうか。いわゆる“スタークウェザー=フューゲート事件”――1958年にネブラスカで起きたカップルによる連続殺人を、夢見がちな少女の視点からファンタジックに描き、カルトな支持を集めるこの映画にオマージュを捧げるなんて、なかなかに心憎いではないか(そう言えば、「Pompeii」のビデオにはStanley Kubrickの『Shining』を連想させるシーンが挿入されていたっけ)。それだけでBASTILLEに対する興味はがぜん高まるわけだが、昨年、立て続けにリリースしたシングル「Bad Blood」「Flaws」を経て、今年2月にリリースしたメジャー第3弾シングル「Pompeii」が全英シングル・チャートの2位に食い込む大ヒットになった頃にはBASTILLEは、その人気を確かなものにしつつあった。
それがデビュー・アルバムのNo.1ヒットに結実した。聖歌隊を思わせるコーラスが印象的な「Pompeii」以下、(日本盤ボーナス・トラックも含む)全19曲を聴けば、それも頷ける。
“『Bad Blood』はBASTILLEがどういう存在なのか完璧に表している。壮大さと美しさを持った多彩な楽曲が1つになっているんだ”とDanが語る『Bad Blood』のサウンドを一言で表現すれば、エレポップあるいはシンセ・ポップということになるのかもしれない。しかし、昨今の流行りのEDMのようなダンス・オリエンテッドな作品ではなく、あくまでも一度聴いただけで耳に残るどこかメランコリックなメロディを軸にしたポップ・ソング集になっているところがおもしろい。逆に言えば、そういう曲を多分に80年代的なシンセ・ポップとして表現したところにBASTILLEの魅力があると言えるわけだが、偏執的とも言えるこだわりが窺えるコーラスや華麗なストリングスも使い、アンセミックあるいはユーフォリックに盛り上げるアレンジも多くの人々の気持ちを鷲掴みにした理由の1つだったに違いない。
レゲエを連想させる裏打ちのビートを隠し味に使った「Bad Blood」や「Flaws」、いかにもデジタルなサウンドにノスタルジックなドーワップ・コーラスを組み合わせた「Weight Of Living PT.II」、ソウル・ミュージックの影響が窺えるピアノ・バラードの「Oblivion」、打ち鳴らすドラムが聴く者の気持ちを駆り立てる「Icarus」――『Bad Blood』には曲ごとに趣向を凝らしたさまざまなタイプの曲が収録されているが、どの曲を聴いても最後にはちゃんとカタルシスが味わえるところがいい。
Dan Smithがマニアックとも言える感性や嗜好の持ち主であることは明らかだが、BASTILLEに関しては、そのアウトプットはサウンドのみならずヴィジュアル・イメージも含め、独自の美学をアピールしながらあくまでもポップというところに、その類稀なる才能を感じずにいられない。
アルバム・リリース後、イギリスで行ったヘッドライン・ツアーは軒並みソールド・アウトだったそうだ。デビュー・アルバムを引っ提げ、参加した世界最大規模の音楽見本市、SXSWでも大歓迎された。この夏はGlastonbury Festivals、Lollapalooza、Reading and Leeds Festival他、数々のフェスティバルにも出演が決まっている。デビュー・アルバムをリリースしてからずっと精力的にツアーを続けているBASTILLEは万全のコンディションで日本に来てくれるに違いない。
スタジアムで鳴り響いても全然、不思議ではないスケールがすでに感じられる『Bad Blood』の曲がSUMMER SONICでどんなふうに受け止められるかが今から楽しみだ。それまでは2013年のUKシーンを代表する1枚と言っても過言ではない『Bad Blood』で作り上げたその世界観を堪能したい。

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