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Japanese

Helloes

2012年10月号掲載

Helloes

Writer 天野 史彬

ひとつの見方からすると、ロック・バンドの1stアルバムは大きくわけて2種類にわけることができる。まずひとつめは、サウンド、歌詞、ファッション、アティチュード、そのすべてが時代と完璧にリンクし、そのバンドの名が歴史に刻まれることがあらかじめ決められていたかのように完成度の高い1stアルバム。たとえばTHE STONE ROSES、THE STROKES、ARCTIC MONKEYSの1stアルバムは、間違いなくこの部類に入る。そしてもうひとつは、バンドの真価が発揮されるのは後年になってからのことで、その時点ではまだまだバンドの評価が定まらない1stアルバム。たとえばTHE CLASHやRADIOHEADの1stアルバムはその部類だ。前者のような完成度の高い1stアルバムは、瞬間最大風力でもってその時代に突き刺さるわけだが、後者の1stアルバムは、前者ほどの時代に対する影響力というものを持たない。しかし、そのバンドが次第に成熟し影響力を増していくにつれて、熱狂的なリスナーを得るようになる。その1stアルバムは“最高傑作”と呼ばれることは稀だが、そこに刻まれた不完全さや若さに対して、ファンの間からは“もっとも愛おしい作品”という位置づけを与えられ、愛されることとなる。

その点でいくと、ここに紹介するHelloesの1stアルバム『Helloes』は後者タイプの1stアルバムだ。Helloesというバンドの詳細に関しては、レーベルの紙資料にもメンバーの名前が載っているのみで、どういう経緯で結成されたのか、平均年齢はどのくらいなのか、などの細かな情報はわからない。都内をベースに活動する4ピース・バンド、というところのみが現在の筆者の知るところである。だが、この1stアルバム『Helloes』を聴けば、まだ若く、スタートを切ったばかりのバンドということがわかる。主体となるのは、ノイジーにバーストするギターとポップなメロディが溶け合ったギター・ロックと、BLOC PARTYや初期ARCTIC MONKEYSのような性急でダンサブルなビートで聴かせるダンス・ロック。だが1stアルバムということもあってか、やはりまだまだ楽曲の完成度は高いとは言えない。髭を思わせるポップ・グランジ・ナンバー「BIRTHDAY」で幕開けを飾り、続く「モラトリアム」ではよりキャッチーなメロディを鳴らし、かと思えばTrack.3「PARARELL PORT」ではARCTIC MONKEYS風ダークなダンス・ロックを展開、そして、The Mirrazを思わせるリリカルで開放的なメロディに字余り気味の歌詞が印象的なナンバー「声」へ繋ぐ――と、アルバム冒頭の数曲を取ってみても、そこから明確な影響元が見えてくるが、まだ、自分たちの確固としたアイデンティティを構築するまでには至っていない。自分たちのやりたいことやイメージに実際の技術が追いついていけていない部分があるのだ。そして歌詞においては、精神的なモラトリアムを彷徨う人の心象風景や、他者との直接的な触れ合いを求める孤独感が主に描かれている。だが、アルバム全体をそういった内面的でシリアスなトーンで描きながらも、Track.6「11」で野球をモチーフにしたユーモラスな歌詞を入れることで、内省的な世界観に浸ることにも距離を置こうとしている点は面白い。そこに人を食ったような感性も見え隠れするが、しかし、全体的な表現力にはまだ蒼さが残るのも確かで、サウンド同様、自分たちの描きたいものに対して、まだ頭でっかちになっているきらいもある。

と、少しばかり意地悪な書き方をしたが、本作『Helloes』におけるそういった若々しさや拙さが悪いことかといえば、そうではない。最初に書いたように、1stアルバムには2種類あるのだ。この『Helloes』というアルバムには、THE CLASHの『The Clash』やRADIOHEADの『Pablo Honey』のように、今後深く愛されることになるであろう予感も確実にある。特に、Track.7「YOU」以降のアルバム後半楽曲。ここには、前述したような“~からの影響”というものを脱ぎ去って、ただあるがままに零れ落ちたかのようなピュアなメロディと言葉、そしてささくれ立った痛みや愛おしさが宿った楽曲が並んでいるのだ。もちろん演奏力や楽曲の完成度は高いとは言えないし、言葉にも蒼さは残っているが、このバンドが描こうとする想いが結晶化したような純然とした輝きがここにはある。特にTrack.10「BLACK SEA」。多くのバンドには、初期にしか作り得なかった永遠の名曲というものがあるが、この印象的なメロディとその名のごとく海のように深くざわめくようなスケール感を持った1曲は、今後、Helloesにとってのクラシックになる曲だろう。この原石にマジックが宿り、宝石となることを期待したい。

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