Overseas
DINOSAUR JR
2012年09月号掲載
Writer 石角 友香
再結成から7年、前作から3年ぶりとなるDINOSAUR JR.のニュー・アルバム『I Bet On Sky』についての原稿なのだが、個人的な興味は、どうしてもJ Mascisその人に向いてしまう。若いリスナーにとっては大きなカリスマを放ったNIRVANAのKurt Cobainと同時代に時代を牽引したグランジ/オルタナ・シーンの両翼バンドの風変わりなフロントマン、もしくは10年代のUSオルタナ・シーンに現れた鬼才SSW、Kurt Vileも参加した昨年のソロ・アルバム『Several Shades Of Why』の作品性から、同シーンの始祖的存在と捉えている人もいるだろう。どちらも事実だ。しかし約30年に渡り、ひとつのジャンルに拘泥することなく太文字で“USオルタナそのもの”な存在感を放つというのは並大抵のことではない。Jはこんなことを言っている。“よくNeil Youngの影響を指摘されるけど、むしろTHE ROLLING STONESの影響を受けている。そしてBLACK SABBATHもね“65年生まれの彼にとって初期パンクは青春時代のBGMだったに過ぎないのかもしれない。しかも趣味はゴルフとスケートボードときた。彼の世代にとっては対照的な背景を持ったスポーツ/カルチャーに違いないのだが、どうやら好きなものは好き、なのだろう。物事に付随する先入観より本質を重視する人、とも言える。
Jについての考察が長くなってしまったが、彼の時代に流されない存在感と鳴らす音そのものがオルタナティヴであることに、ファンは惹かれ続けてきたに違いない。そして、今の自分にとって、そしてバンドにとってベストなサウンドという思想が新作『I Bet On Sky』には時に濃厚に時にラウドに時にひそやかに結晶している。アルバムはJの極めてノン・エフェクトかつ正確なカッティングと相変わらず哀愁と茫洋を湛えたヴォーカル、シュアなLou BarlowとMurphのリズムの“これぞ3ピース”な「Don’t Pretend You Don’t」でスタートする。後半でJの弾くシンプルなピアノが聴こえるが一切のセンチメントを拒否するようなドライさだ。琴線に触れるメロディとコード展開を持つ「Watch The Corners」もやりすぎると妙にドラマティックになりそうなところをノイジーかつ隙間の多いプロダクションでモダンに着地する。それにしても全曲、アウトロのJのギター・ソロの長いこと!歌の素朴さに比べると饒舌だが、彼の人生とセンスという名のフィルターを通して残ってきたブルースやフォーク・フィール溢れる1音1音に一切の凡庸はない。これまた美メロにピアノという組み合わせが心を震わせる「Stick A Toe In」も質感はどこまでもドライだ。Louのベースもよく唄うが湿っぽさはない。ワウ・ギターが印象的なスワンプ・ロック風の「I Know It Oh So Well」、パンキッシュな「Pierce The Morning Rain」、インスト・バンド的なユニークなフレーズとバリバリにブルージィなソロが、端正なリズムの上で行き来する「Recognition」、実質的なラスト「See It On Your Side」のノイジーでラウド、だがシャ―プになったリズムやソロの音選びは、アップデートされたグランジとでも言おうか。
Jのソロ・プロジェクトでの内省とも、SWEET APPLEのタガの外れっぷりとも、また、恐らく14年ぶりに新作をリリースするLou Barlowが在籍するSEBADOHとも違って当然なのだが、同時にそれらすべてのフィードバックの飲み込んだような作品、それが今回の『I Bet On Sky』なのではないだろうか。キャリア30年余の“アラフィフ”バンドは音に贅肉を付けることなく、細分化したUSオルタナの個々ではなく、土壌そのものを体現している。
11月に開催される“Hostess Club Weekender”でも、大げさな身振りなく“どこのステージでもライヴはライヴさ”、というアティチュードに期待している。
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