Japanese
たむらぱん
2012年05月号掲載
Writer 伊藤 洋輔
その小柄で愛くるしい風貌から、なんだか音楽シーンに舞い降りた純真無垢な妖精を想像したりするが、何かとんでもないモノを秘めた怪物のようなオーラを感じたりも……とにかく、イマジネーションをくすぐる存在感に間違いない。それは無限に拡がるポップ・フィールドを自由奔放に探究するSSW、たむらぱん。彼女を象徴するキャッチ・コピーには、和製Brian Enoと呼びたい。は?……と首を傾げる人が多いかもしれないが、根っからのロック・リスナーだろうと激ロッカーだろうと、どのような音楽ファンであれ彼女が作り上げた音楽は耳にしたことがあるからだ。アンビエント・ミュージックの先駆者、Brian Enoは世界中で最も多くの人が耳にした音楽を作った人とも言われる。その答えは、今日のパソコンの礎となる“Windows 95”の起動音の作曲者だからだ。そしてタイアップ・クイーンとも評されるたむらぱんの音楽もまた、映画やCMや番組のテーマ・ソング、または作詞者や作曲者としても、幅広くピック・アップされている。だから意識していなくても、きっと彼女の音楽を間接的に触れているだろう。人を一瞬で惹きつける天才的なポップ・センスはシーンやジャンル、そして世代までも越境し心を揺さ振る。では、ここで一部彼女の公式サイトから引用しながらプロフィールを振り返ろう。
本名、田村歩美。たむらぱんとは彼女のソロ・プロジェクトだ。作詞、作曲、アレンジはもちろん、アートワークまでも手掛けるマルチ・アーティストである。高校、大学時代にはバンド活動をしていたが、02年にインディーズでソロ活動を始める。07年からは当時認知度を拡めていたMySpaceで楽曲プロモーションを開始し、4ヶ月で1万人のファンを獲得、18万ページ・ビュー、24万回のストリーミングを達成する。それが大きなきっかけとなり日本初のMySpace発メジャー・デビュー・アーティストとなった。08年3月には50万ページ・ビューを達成、そして同年4月にはデビュー・アルバムとなる『ブタベスト』をリリースする。その後7枚のシングルと3枚のアルバムをリリースするなか、大型夏フェスの出演やワンマン・ライヴ・ツアーの成功でその存在感とパフォーマンスを高く評価される。またアーティスト活動と並行し、幼少期は漫画家を目指していたこともあり独自のセンスが光るクリエイター/イラストレーター田村歩美として様々なジャンルやフィールドでの活動もめざましく、2ndシングル『ゼロ』のミュージック・ビデオではSTUDIO4℃とコラボレーション、映像制作に参加している。その他にも、世界を舞台に活躍するバイリンガル・ラッパーshing02のアルバム『歪曲』にヴォーカル参加しラップを披露したことや、“かむんとふにゃんふにゃん♪”でお馴染み佐藤健と佐々木希出演で話題となったロッテ“Fit's”のCM曲、松平健の最新シングル「マツケンカレー」の作詞(!)、アイドル・グループbump.yや私立恵比寿中学の作詞作曲など、多岐に渡る活動で多才ぶりを発揮している。今年に入っては4thアルバム『mitaina(ミタイナ)』をリリース。イギリスのパンク・バンドSNUFFに椎名林檎ワークスで著名な斎藤ネコやHALFBYなどジャンルを越えてあらゆるアーティストとのコラボレーションし、冒険と野心に彩られたアルバムで新境地を開拓したが、次なる一歩はそんな現状をストレートに象徴しているようだ。
“new world”――今年でメジャー活動5周年を迎える記念すべきニュー・シングルは、明日を信じて新世界へ飛び込めと勇気を後押しする。伸びやかな歌声はポジティヴなパワーが満ち、軽快な曲調にストリングス・メロディが活かされた爽快なナンバーだ。カップリングの「ヘニョリータ」は言葉遊びのリズム感でよりハッピー度を高め、カントリーもスカもパブ・ロックもすべてミックスしてしまった曲調でおもしろい。どちらも元気の出るたむらぱん印が付いた素晴らしい楽曲! さらに初回限定盤にはファンへの感謝を込めた地元凱旋ライヴとデビュー前の軌跡を綴ったドキュメント映像が収録されたDVD特典が。これは彼女の天才的ポップ・センスの根幹を知る意味でも貴重なものだろう。コンスタントなリリースとライヴを続けているが、記念すべき年もたむらぱんは想いのままに駆け抜けるようだ。さぁ、あなたもこのnew worldに飛び込んでみては?
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