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LIVE REPORT

Japanese

ザ・クロマニヨンズ

Skream! マガジン 2025年12月号掲載

2025.11.20 @神奈川 CLUB CITTA'

Writer : 石角 友香 Photographer:柴田恵理

ザ・クロマニヨンズが18thアルバム『JAMBO JAPAN』を携えた全56公演に及ぶ全国ツアー"ザ・クロマニヨンズ ツアー JAMBO JAPAN 2025-2026"を11月13日の鹿児島からスタート。関東公演の初っ端を11月20日の神奈川 CLUB CITTA'で行った。ニュー・アルバム『JAMBO JAPAN』は先行シングル「キャブレターにひとしずく」や、甲本ヒロト(Vo)の親友 松重 豊の監督作品"劇映画 孤独のグルメ"主題歌として書き下ろした「空腹と俺」、"パルコ・プロデュース2025 東京サンシャインボーイズ 復活公演 蒙古が襲来 Mongolia is coming"のテーマ・ソングとして提供した楽曲を新たにザ・クロマニヨンズで収録した「どんちゃんの歌」、そしてザ・クロマニヨンズとしては初となる真島昌利(Gt)のヴォーカル・ナンバーが2曲収録されたことも話題の一枚。だからといって、いい意味で現在のザ・クロマニヨンズのアルバムであること以外の意味は何もないところが最高である。

下手をすると3世代にわたりそうな様々な世代のファンが詰めかけたCLUB CITTA'は超満員。おなじみのスタッフによる前説を素直に聞くフロアのムードは異様な熱気と温かさが同居している。ザ・クロマニヨンズのライヴはアルバム楽曲のA面B面を、前後半で展開していくスタイル。曲順はこの先のその都度のライヴのお楽しみだが、ヒロトが何度も今作の出来栄えに非常に満足している旨の発言をしていた事実だけは伝えておきたい。アルバム同様のアートワークが背景に掲げられ、ブルース以前のアフリカ民族音楽が流れる開演前。そこからの想像だが、"JAMBO JAPAN"というタイトルはスワヒリ語なんじゃないか? これが"こんにちは日本"という意味だとすれば、怒涛のツアーで日本中を回る彼等の挨拶にも思えるし、ちょっと元気がなく沈みがちな今の日本のムードも、音楽で、ロックンロールで爆発燃焼させれば、せめて自分自身は前を向けるんじゃないか? そう勝手に受け止めた。もちろん筆者の想像でしかないが。

ニュー・アルバムはなじみのスタジオから飛び出して、ヘッドホンでメンバーの演奏を聴きながら録音したそうだ。一発録りの手法は変わらないが、少し新鮮なムードが漂っている。平易な生命賛歌より、聴き手の解釈に委ねる独特な語り口が多い印象の聴き応えがあるアルバムだが、はっきり言ってライヴで鳴らされた新曲は"ああ、やっぱりザ・クロマニヨンズの曲はツアーで鳴らされるために存在してるんだな"と一気に体中の血流が速くなる凄まじさだった。

空気を切り裂くヒロトのハーモニカに突き動かされる「キャブレターにひとしずく」の鮮烈さ。ツアー序盤と思えない引き締まったバンド・アンサンブルはシンプルなロックンロールという言葉から想像されるものの何倍も豊かで、どんなダンス・ミュージックやオーケストラにも匹敵する感情の情報量を持っている。さらにフロア全体が生き物のようにうごめいて生まれた熱量がステージに還元されていくことで、この日にしかないライヴはむくむく育ってくのだ。

ヒロトはたびたび"サイコー!"と最高の笑顔で言葉を発し、さらに"最高のアルバムができたので「TOKIO」や「カサブランカ・ダンディ」はやりません"と、彼と同世代には特に笑えるMCを何度か挟んだ。そしてやはり今回の見どころはマーシーがヴォーカルをとるナンバー。ヒロトの"マーシーが歌います!"の一言へのドデカいリアクションを受け、腹の底から発されるまっすぐなダミ声。ちょっと語義矛盾ぽいが、それが今のマーシーのリアルな声だ。
意味以上に繰り返すことで楽しくなってしまう"チャンチャンバラバラ"のリフレインは、フロントのコーラスも力が湧く。野球の応援のリズムをホイッスルがさらに増長させる「フルスイング」はユニークなアイディアの曲でありつつ、縦にざっくり振り落とされるようなリフとビートがメタル並の重さで痛快。こんなアイディア、世界中見回してもほかのバンドにはないだろう。

ファンがヒロトとマーシーの名前を愛の限りを込めて叫ぶ、その状態も込みでザ・クロマニヨンズのライヴは最高だが、あるファンがマーシーの名前を繰り返し叫んだときのヒロトの"マーシーここにおるよ。40何年隣にずっとおる"という一言は、単に事実ながら最高に泣けた。と思ったらわりと楽しげなナンバーの後にTシャツを脱ぎ捨てたヒロトが、このタイミングじゃなかった気もすると笑わせる。敵わねえなぁという憧れの気持ちも40年近く変わらない。

ニュー・アルバム以外の選曲はライヴの流れをギアアップするような「生きる」であったり、熱狂を加速させる「エルビス(仮)」であったりして、ザ・クロマニヨンズのライヴに来て心底良かったと思える、自分の命や感情を燃やしてくれるものだった。単に名曲というより、このツアーのテンションと完成度で鳴っているからこそ、体験しなければ分からないものでもある。

10代のヒロトを想起させる部分もありながら、ライヴで聴くととてつもなく爆発力がある「空腹と俺」、ヘヴィでねちっこさもありつつ、重戦車が爆走するような醍醐味もある「顔ネズミ」もやはりライヴだととんでもない体験として上書きされた。60年代のロックンロール・バンドがシングルを録音してリリースするのは録音芸術としてのレコードと言うよりライヴを行うためだったと思うが、クロマニヨンズの新曲もその後にライヴがあるからこそ生み出され続けている節もきっとあると思う。そして自信のある楽曲のみで構成されたアルバム新曲はライヴでもアレンジを崩さない。マーシーの精緻なカッティング、愚直なまでに正確なルートを刻む小林 勝(Ba)、タフな車のエンジンのようにびくともしない桐田勝治(Dr)の集中力が今のザ・クロマニヨンズの音を作っていた。

アンコール含めて約90分のライヴは、生きている人間の細胞が入れ替わっていくように、その日一番新しいザ・クロマニヨンズがそこにいることを証明していた。来年5月まで続くツアーのどこかで、今のザ・クロマニヨンズにぜひ遭遇してほしい。

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