Japanese
GOOD ON THE REEL
Skream! マガジン 2025年01月号掲載
2024.12.01 @Spotify O-Crest
Writer : 石角 友香
初っ端から千野隆尋(Vo)の笑顔にこの日のライヴを迎えた想いが全て凝縮されているようで、おこがましいがもう最高の夜になる気しかしなかった。ファンはご存知のようにこの秋、3人体制初のアルバム『ふれてみたいと思った。』をリリース。これまで以上に3人で楽曲について会話を交わし、曲作りに関与したアルバムを完成させ、まずアコースティック編成でツアーを回り、改めてGOOD ON THE REELの"らしさ"に向き合った上でのバンド編成のツアーである。満員のオーディエンスも全身でライヴを楽しむ用意ができているわけだ。
1曲目はアルバム同様「プロローグ」で、2024年のGOOD(GOOD ON THE REEL)の所信表明を明らかにしていく印象。恐らく、嬉しい以上の感情が溢れているメンバーの表情にこちらも揺さぶられる。"転んだ分だけ 傷ついたんだ/めでたしめでたしでは終われない"という歌詞が沁みると同時に力をくれる。この日は主にニュー・アルバムの曲とお馴染みの人気曲を交互に演奏していくセットリストだ。岡﨑広平(Gt)の透明なサウンドのリフがイントロを奏でると大きな歓声が上がる。宇佐美友啓(Ba)の歌うようなグルーヴを持つフレージングも極めて端的で、無駄のないライヴ・アレンジが千野の歌を際立たせる。大人のアンサンブルというのともちょっと違うけれど、ミュージシャンとしての成熟を随所に感じずにいられない。
最初のMCで千野が今回のニュー・アルバムは久しぶりにCDという触れられるパッケージでリリースしたことにもこだわりがあることを語り、アルバムやツアーの内容とも関係していることを実感する。リアルで見て聴いて、この空気に触れることを大切にしているのだ。
バンド形態のライヴの手応えを全身で表現している宇佐美が改めて謝辞を述べ"今回はアルバムの世界をじっくり聴いてもらうっていうツアーで。今年の頭に僕等には結構厳しいことが起こって"と話し始めたものの、"ウルッときちゃった"という千野を慮ったのか"ごめん、序盤からこんな感じになっちゃって。後にすれば良かった"と、今年のバンドの経緯の話はそこで終わる。多くを語らなくてもファンは受け止めているはずで、その空気があるからか、千野は次の曲を"日常という手触りのあることを書いた曲です。お付き合いください"と話し「手袋」へ。透明なギター・サウンドもテンポ感も一気にこの場に冬を連れてくる。ちょっと強気な彼女の口調とか、冬の日向の暖かさとかが際立つアンサンブルだ。千野のフォーク・シンガーのような言葉一つ一つを大事に届ける歌唱が沁みる。新曲については曲紹介を行う千野。「腕の中」は恋人や友達、家族等近すぎてむしろ伝わらない、伝えない謎のルールのようなものについての曲だと話す。フロアの反応を見ると、ニュー・アルバムの中でも好きな曲が各々育ってきている様子だ。外の世界でいろいろなことを我慢している人の感情の蓋が開くのが分かる。さらにバンドの意思表明である「HOPE」は思わず泣けてきそうな彼等の決意をストイックなアンサンブルが引き締める。バンド・サイドには感動を押し付けるつもりは微塵もない。諦めることを諦めるのは言葉遊びではない。
グッとお腹に力が入るような体感を得た後は作者である岡﨑の遊び心が活きるラテン・フレーバーの「ZigZagZombies」では千野の三連フロウっぽいバースに少しサザンオールスターズ的なしたたかさも感じたりして、ライヴは痛快に転がっていく。
終盤は岡﨑作の大人になったからこそ書ける友情が共に年齢を重ねてきたファンにも恐らく沁みているであろう「余白」を披露。ドライブに関する歌詞があるだけでなく、サウンドからも空が見えてきそうな演奏だ。高い熱量で演奏し、歌うフロントの3人がステージの最前まで歩み、オーディエンスも可能な限り手を伸ばす。新作と代表曲が同じ時空で鳴らされたことによるある種の安堵感と感銘が会場を埋め尽くしたところで、話された千野の言葉は"終わりっていうのは始まりでもあって、またここから何度でも踏み出せばいい。そうやってこれからも一緒に歩いて行って、その先でまた会いに来てほしい。ありがとうございました、GOOD ON THE REELでした"と。本編ラストは岡﨑のモールス信号のようなリフが誘う「球体」。人間が立っているところに中央も端もないと歌うと同時に、呼吸が楽になる内容でもある。こうしてオープナーから最後の曲まで、既発曲との関係も見事なセットリストでツアー初日はフィニッシュ。ファンにとって馴染みの既発曲はこれからライヴを見る人は楽しみにしていてほしい。
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