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LIVE REPORT

Japanese

GOOD ON THE REEL

Skream! マガジン 2019年11月号掲載

2019.10.02 @新宿BLAZE

Writer 沖 さやこ

セルフ・カバー・アルバム『GOOD ON THE REEL』を引っ提げたワンマン・ツアー初日、2018年3月28日の大阪BIGCAT以来のワンマン・ライヴ。岡﨑広平(Gt)がMCで"553日ぶりのワンマン。自分で数えたんだけど、ちょっと重いよね!"と笑っていたが、5人ともそれだけ強くこの日を待ちわびていたということだ。そしてそれは会場に集まった観客たちも同様だった。

『GOOD ON THE REEL』でリアレンジした楽曲にはバンド外の音を用いたものも多く、ライヴでも曲によりPCを使用。1曲目の「素晴らしき今日の始まり」から、PC音源も使用した「YOU & I」に繋ぐタイミングが掴めず仕切り直しする場面もフレッシュで微笑ましい。だがそんな状況にも動じずマイペースに切り返せるのは、資質とキャリアがあってこそだ。その後「それは彼女の部屋で二人」では、バンドのグルーヴを大いに感じさせるエネルギッシュな演奏で魅了した。

GOTR(GOOD ON THE REEL)は5人それぞれが自分の役割に自覚的で、各々のパートに誇りを持って音楽を鳴らしているバンドだ。ひとりひとりが楽曲を届けようという意識を強く持ち、自分自身のプレイや歌を楽曲に捧げるように音を鳴らしていく。その美しい調和と純度の高さこそ、彼らの音楽が瑞々しくあり続ける理由ではないだろうか。「シャボン玉」や「向日葵とヒロインと僕」といったスケール感のあるミディアム・テンポの楽曲はそれが明確に表れており、痛みや切なさを孕んだ千野隆尋(Vo)の伸びやかなファルセットも、聴き手の胸の奥目掛けて煌びやかに響いた。

MCでは"1年半ぶりのワンマンだから2時間トイレ我慢できるかなぁ(岡﨑)"、"俺みたいに全部汗で流しちゃえばいいんじゃない?(千野)"、"(話の内容が)汚いよ~(伊丸岡亮太/Gt)"など男子高校生の休み時間のような会話をしつつも、演奏になるとしっかりとスイッチを入れるという緩急も、GOTRの魅力だろうか。あっという間に頭の中には楽曲の情景が広がり、その物語の世界に自分が生きているような、主人公の気持ちが自分の中に宿っていくような感覚だ。高橋 誠(Dr)の刻むビートから千野の台詞で幕を開けた「いらない」は、5人の発する音色が青空の下に吹き込む風のように、鮮やかで力強かった。

セルフ・カバーをすることで楽曲を制作した当時の生活や苦悩が蘇ってきたと言う千野は、"お前頑張ってんの? 本気出してんの? と昔の自分から言われているような気持ちになった"と吐露する。そこから「青い瓶」、「ホワイトライン」、「サーチライト」の3曲は苦悩から這い上がり、光を掴むようにドラマチックな展開を見せ、最後に千野がガッツポーズを掲げた様子も非常にシンボリックだった。

宇佐美友啓(Ba)はMCでこの1年半自分たち主導のライヴやリリースなどができなかったことを語ると、途中で感極まって言葉に詰まる。もどかしさや悔しさだけでなく、きっと目の前に自分たちの音楽を愛する人々が所狭しと集っているという現状に、大きく感動したのだろう。「うまくは言えないけれど」は歌詞の内容も相まって、メンバー全員のこの5人で音を鳴らせる喜びや、観客への感謝が嘘偽りなく伝わってきた。"挫けそうなときや無理! と思うときも、こうしてライヴをするとひとりひとりの顔が見えて、俺らは5人だけじゃないなと思えた。だから俺らはここまで歩いてこれたし、これからも歩いていけるんです。歌わせてくれて、音楽をやらせてくれてありがとう!"、"音楽はかたちがないけれど、あなたの心に今日という日が残ればいいなと思います"と千野が真摯に想いを伝え、本編ラストは「ハッピーエンド」。"私達はいつでも ハッピーエンドを待ってるの"という願いのシンガロングが、会場を晴れやかに包み込んだ。

アンコールでは10月放送開始のTVドラマ"左ききのエレン"エンディング・テーマを書き下ろしたことを発表し、「灯火」と「Marble」の2曲を演奏。時間に追われてアルバイトの休憩中に歌詞を書く生活をしていたときのタフネスやハングリー精神を取り戻し、胸を張って未来を見据える5人の姿は、まさしくインタビューでも語ってくれた"リスタート"という言葉を体現していた。彼らはこれからも芯の通った豊かな音楽で、聴き手の感性に彩りを与え続けるだろう。


[Setlist]
1. 素晴らしき今日の始まり
2. YOU & I
3. それは彼女の部屋で二人
4. シャボン玉
5. 向日葵とヒロインと僕
6. 24時間
7. さよならポラリス
8. いらない
9. 青い瓶
10. ホワイトライン
11. サーチライト
12. うまくは言えないけれど
13. ゴースト
14. ペトリコール
15. シャワー
16. ハッピーエンド
En1. 灯火
En2. Marble

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