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LIVE REPORT

Japanese

門脇更紗

Skream! マガジン 2022年09月号掲載

2022.08.19 @Spotify O-nest

Writer 石角 友香 Photo by タケシタ トモヒロ

東京でのバンド編成のワンマン・ライヴが2018年12月ぶりという、待望感とも渇望感とも言えるエネルギーを一曲一曲に丹念に込めた新たな1歩だった。そして何より門脇更紗というアーティストはステージ上でこそ雄弁で、パーソナリティを全開にできるのだということを、アンコールを含め19曲という渾身のセットリストで証明してみせた。

Lisa Loebや"ラ・ラ・ランド"キャストの楽曲などが開場BGMで流れ、彼女のフェイヴァリットも味わえて、アナウンスも自ら行うなど、ライヴ前から楽しみをいくつも盛り込むスタイル。いよいよ定刻になるとバンド・メンバーの登場に続いて勢い良く飛び出し、エレキ・ギターのハウリングとともにメジャー・デビュー曲「トリハダ」でスタートした。着席スタイルにもかかわらず、クラップやアクションで早くも盛り上がる。続く「and I」では"Ah Ah Ah"など、歌メロに加え、スキャットの上手さも際立った。まっすぐに届けるヴォーカル・スタイルと、洋楽育ちで身についたスキルがごく自然に共存している印象だ。続いて本人がアルバム『ファウンテンブルーに染まって』の中でもお気に入りだとインタビュー(※2022年8月号掲載)で話してくれた「真夏のサイダー」。エレピの80s風なイントロやローファイ・ヒップホップを、生音で立体化したような音像がまさに旬だ。最初はSpotify O-nestというキャパに対して、いい意味でオーバースペック気味に感じたバンド編成だが、実に巧い。それもそのはずでメンバーはAimerや米津玄師、ずっと真夜中でいいのに。など大活躍のギタリスト 佐々木"コジロー"貴之、Spice rhythmとして、藤井 風やKan Sanoらのレコーディングなどに参加するリズム隊ユニット 森光奏太(Ba)と上原俊亮(Dr)、そしてSixTonesやLittle Glee Monsterら数多くのアーティストの楽曲制作を始め、キーボーディストとしても活躍する吹野クワガタという錚々たる顔ぶれ。ロック、R&B、ヒップホップなどあらゆるジャンルに精通し、門脇のヴォーカル表現を最大限に生かせるバンドだと理解した。フロントの門脇更紗が集中できるのも納得。

さらっと謝辞を述べ、立ちヴォーカルでシティ・ポップのニュアンスがある「scroll」へ。ここでも彼女の繊細な歌唱が生きる演奏が心地良かった。吹野のピアノと佐々木のアコギが交互に鳴らされ、生音でコラージュするようなアレンジがユニークな「ばいばい」は、淡々と紡がれるヴォーカルが手に取れるような繊細さのまま聴こえたのが素晴らしい。さらにドキドキするような皮膚感や温度感が伝わるような「えのぐ」が、赤と青のライトで演出され、混ざったことを意味するようにパープルに変化する様も、素直に曲へ感情移入させる。シンプルだけど細部に妥協がない演奏と演出が一曲一曲をともに届けていた。曲を聴き込んだコア・ファンが集まっていたからか、高い集中力でステージにヴァイブスが送られているように感じたが、これほど繊細な演出なら初見のオーディエンスにもきっと届くんじゃないか? とも思えた。

MCではこの日を生きがいにしてきたと門脇。メンバーとのリラックスした関係も見せ、どんどん演奏していく。吉祥寺や井の頭恩賜公園界隈が思い浮かぶ瑞々しい「スワンボート」、柔らかいファルセットも盛り込んだ「わすれものをしないように」は、「スワンボート」から"公園繋がり"の側面もあったりして楽しいし、続く「タイムリミット」は、大きなグルーヴを少しシューゲイズ・サウンド風であり展開を見せる構造で聴かせるのだが、「わすれものをしないように」で感じた、今を精いっぱい生きることと、いつか自分が誰かにとって懐かしい存在になることが矛盾せずに飲み込める。結果として思い出になるとしても、今は今の衝動や感情を伝えるしかない。青春の渦中にいながら、少しずつ成長していくドキュメントを見ているようなリアルな感覚が伝わった。

長めのMCではアルバムにちなんで青い色の服の人が多いことや、観客が発声できないので、他県からの参加を列挙して挙手してもらうスタイルを導入。近い距離のライヴならではの温かさが溢れた。リラックス・モードになったところで、思い切り自分を甘やかす曲「いいやん」へ。自然と起こるクラップと、チルなムードを保つバンドの温度感がどこまでも心地よい。16ビート繋がりで「白」に移り、洋楽的なメロディに日本語の歌詞を乗せるセンスの良さにも浸れる。さらに時計のカウントの同期が一気に曲の世界観に引き入れる「私にして」。少しかすれた地声で淡々と情景を綴るAメロから、サビで感情が飛翔する。強い歌唱とか、高いスキルというよりも、心情に没入できるヴォーカルと言えばいいだろうか。エレクトロな質感のこの曲から、グッとマイ・テーマ・ソングにしたい日常感を湛えた「わたしが好き」。働く女性だけでなく、"私は"わたしが好き""とシラフじゃ思えなくても、ほろ酔いでなら思えるかもしれない。ライヴで他人と楽しむことに意味がある曲だと思う。

再び長めのMCで、"自分はあのとき最適な選択をしたんだろうか"と思うことがあると話す。クラシック・バレエを続ける途中でアコギに出会いバレエはやめた、高校で周りと合わないと思いつつも所属し続けた美術部で部長になっていた、今は音楽を選択し、夢だったデビューも果たしたけれど、これまでのどの選択も間違ってはいなかったという主旨から、過去に友人が"頑張れ"以上の言葉を見つけるまで、簡単な言葉は掛けなかったという実話から発展した「きれいだ」が披露された。努力や成長を一抹の寂しさも込めて、"きれいだ"と表現する彼女の感覚はきっとその友人とも通じているのだろう。安易な言葉で嘘にしたくない、そんな気持ちに目が覚めるようだ。「私にして」、「わたしが好き」、「きれいだ」の没入感がこの日の白眉でもあった。

終盤は切なさを含みつつ疾走する「Diamond」、高低差のあるメロディを乗りこなす「さよならトワイライト」ではメンバーのソロ回しでも盛り上げ、それを見る彼女の笑顔も爆発する。バンド・アンサンブルも熱を帯び、5人のバンドのムードが高まるなか、ストレートにバンドが駆動する「スコール」で、門脇もエレキを思い切りストロークして、多彩な演奏を歌の求心力で見事にまとめあげ、約90分の本編を終了した。

アンコールには門脇ひとりで登場し、アコギを構え、「東京は」を今の実感を込めて歌う。東京は平等だという感覚が清々しい。きっと何年かごとに聴きたくなるだろうなとも思う。そして最後に話してくれたのは"ファン"という呼称が苦手で、あくまでもリスナーとは友達のようでありたいということ。その気持ちにハマる「ねぇバディ」で賑々しくラストを飾り、"また絶対どこかで会いましょう。ねぇバディ!"と言い残して、ステージを去った。ひとつ、門脇更紗のスタイルが確立したバンド・スタイルのライヴになったのではないだろうか。

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