Japanese
門脇更紗
Skream! マガジン 2024年04月号掲載
2024.03.03 @渋谷WWW
Writer : 石角 友香 Photographer:等々力 菜里
門脇更紗が、メジャー・デビュー3周年を記念し、ワンマン・ライヴ[KADOWAKI SARASA 3rd Anniversary Live "いつかの為に今日があって"]を渋谷WWWで開催。デビュー以前の楽曲や初披露の新曲も含むセットリストは彼女のヴォーカリスト、ソングライターとしてのレンジの広さを実感させてくれるものだった。
アルバム・タイトルにもなったバースデー・カラーのファウンテンブルーを思わせるライティングが施された開演前のステージ。そこにレパートリーを断片的に繋いだSEが流れ、キャリアを一望するテーマを窺わせる。そこにサポート・メンバーの堀 仁一郎(Key)、神田雄一朗(Ba)、守 真人(Dr)、Ne-ze(Gt)が位置につき、少し遅れて門脇が登場。エレキ・ギターを携えた1曲目はコード・ストロークと歌だけで始まる「Diamond」で、バンドが入り8ビートが疾走し始めるとフロアのクラップも自然と大きくなる。冒頭、客席の笑顔がはっきりと見えたのか、表情が明るくなったのが印象的だった。さらにバンド・サウンドが心地よい「and I」と続け、アコースティック・ギターに持ち替えると、卒業シーズンの今にぴったりくる「わすれものをしないように」まで、序盤を一気に駆け抜けた。厚いバンド・サウンドの中にあっても明瞭に届く門脇のヴォーカル、一語一語が心に染みていく言葉のリアリティで早くもフロアの一体感が上がる。
最初のMCでは久々のバンド編成でのライヴの喜びを話し、メンバー紹介をしたあと、このバンドのグルーヴも伝わる「いいやん」、同じキーで繋ぐテクニカルな「さよならトワイライト」と、マイナー・チューンのカッコ良さを体感させてくれた。続く「ばいばい」と直近の「うすっぺらい」の両方に滲む自己矛盾の葛藤は、テーマが大人になる過程の逡巡や恋愛と同じものではないにしろ、彼女の内面を綴る表現力をヴィヴィッドに感じられる重要なセクションに感じられた。ライヴ・アレンジという意味では「うすっぺらい」のイントロで電話の呼び出し音が流れ、門脇がスマホで着信を受ける演出や、生音とエレクトロの融合がライヴに新たな音像を加えていた。R&Bやヒップホップ由来のフロウも、どっちつかずな恋愛のモヤモヤを歌うこの曲のムードを表していて、ヴォーカリストとして手札を増やした現在地を知ることができた。
7曲演奏したところでサポート・メンバーがいったん袖にはけ、ステージには門脇ひとりに。つらかったりうまくいかなかったりすることも必ずいつか笑える日のために繋がっているとライヴ・タイトルに込めた思いをきっかけに、10代の大阪以来秋から東京で始めた路上ライヴの話へ。地元の兵庫と東京を行ったり来たりした頃、山手線でギターと荷物で周りに嫌な顔をされながらこれが試練と思いながらライヴハウスに向かったり、ドクターマーチンの8ホール・ブーツを履いているのに短いソックスで靴擦れした自分にいらついた思い出。ダサいけど今よりキラキラしていた自分を路上ライヴの風景から思い出し、一生懸命になろうとあの頃の自分から教えられたと語る。
初心に還るつもりで「東京は」をオフマイクの弾き語りで届けるという。歌に集中するフロアの静けさがいい緊張感となり、聴く人各々の心に自分なりの東京だったり、生きていくことを決めた場所が思い浮かんだんじゃないだろうか。このセクションは3周年ライヴに欠かせないものだったと思う。メンバーが戻って、大事な人の成長を寂しさと嬉しさがないまぜになった感情で受け止める「きれいだ」に繋いだ。戦う必要もあるけれど、東京を"素敵だ"と歌う「東京は」と、「きれいだ」に見る彼女の感性を今一度再確認できたのだ。続く「真夏のサイダー」も、爽やかなだけじゃない切なさが際立って聴こえた。
これまでと今とこれからをぎゅっと詰め込んだセットリストはさらに新しい展開へ。リリース前の新曲で、門脇更紗と同い年のシンガー・ソングライター Sean Oshimaとコラボした「愛燃やして僕らはゆく - The Happiest Melody -」をSeanと共に初披露。モータウン・ポップを現代にアップデートした感じのチアフルな曲で、初めてとは思えない盛り上がりを見せた。その勢いで「スコール」を爽快に駆け抜け、MCを挟んで、ライヴでより盛り上がる「ねぇバディ」へ突入。メンバーのソロ回しも盛り込み、ラストの"ねぇ、バディ"の歌唱を客席に振り、お互いがバディであることを確認。本編の終盤はこの3年の軌跡を表現してきたライヴと日常を重ね合わせるように、飾らない自分を認める「わたしが好き」を披露。誰もが一歩外に出たら気を張らなければいけないけれど、毎日生きているだけでもエラい! と自分を褒めるこの曲は「いいやん」と並ぶ何気ないライフ・ソングだ。
そして、本編ラストは頑張ることができるモチベーションである"君"と高め合う気持ちを歌う「君がいるから」をオーディエンスにも投影するように歌う。ラララのシンガロングも、前回のワンマンではできなかったとあって、ステージ上もフロアも感慨深い様子だった。約90分の本編。曲調だけでなく、心情の変化にも即したセットリストは非常に練られたもので、一曲一曲の意味がより伝わる構成が素晴らしかった。
アンコールではグッとリラックスしたムードで、バンマスの堀と関西人ならではのノリでグッズ紹介。ちなみに今回のサポート・メンバーは堀が招集をかけたそうで、コミュニケーションも抜群なこのメンバーでまたライヴを観てみたい。"アンコールでは初心に戻るという意味で、サブスクにもない初めてのCDに収録した曲を"と、レア選曲のミドル・バラード「こんなに」を披露。そして充実した3周年ライヴの締めくくりはメジャー・デビュー曲「トリハダ」。いつも何かが始まるときには武者震いのような、引き締まる感覚があるなとこの曲を聴くと思うのだ。これまでを振り返りつつ、すでに次の一歩を踏み出してもいる門脇更紗というアーティストを丸ごと感じる約2時間だった。
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