Skream! | 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト

MENU

LIVE REPORT

Japanese

ユビキタス

Skream! マガジン 2017年04月号掲載

2017.03.12 @渋谷WWW

Writer 沖 さやこ

『孤独な夜とシンフォニー』『ジレンマとカタルシス』という対になる2枚のミニ・アルバムをリリースしたユビキタス。彼らの5ヶ月にわたる全30本の全国ツアーのファイナル公演となる渋谷WWWは、ドラムのヒロキが急な体調不良で欠席というまさかの事態に見舞われてしまったが、その逆境を力に変えた渾身のステージだった。
 
ヤスキ(Vo/Gt)もニケ(Ba)も1曲目「ジレンマ」、続いて「君の居場所」と丁寧に音を奏で、1音1音で芯のある音を聴かせる。特にヤスキは3ピース・バンドのギター・ヴォーカルとして、歌うたいの面もギタリストの面もマックスに出た堂々たるパフォーマンスだ。「R」では笑顔で観客ひとりひとりの顔を見つめながら歌詞を伝えていく姿が印象的だった。前半戦のサポート・ドラマーはユビキタスのレーベルの先輩でもあるreading note平郡智章。3日前に急遽決まったそうだが、ふたりも彼のドラムを信頼しているのか、しっかりとしたグルーヴができていた。「アマノジャク」から「ヒーローのつくり方」へと鮮やかに繋ぎ、ヤスキのかき鳴らすギターからは熱い想いが弾け飛ぶ。3人の作り出すアンサンブルに、ふたりの"ヒロキのぶんまでやってやるぞ!"という意気込みが加わり、小手先ではない頼もしいステージが作られていった。
 
"ワンマンならではの曲をやります。僕もすごく好きな曲です。受け取ってください"とヤスキが言い披露したのは「再生」。彼らにとって初の全国流通盤『リアクタンスの法則』のラストを飾る楽曲だ。ふたりの奏でる音もヤスキの歌も、あのときよりも確実に"届けたい"という想いが強くなっている。この3年の間に育った気持ちが、この曲をさらに輝かせていた。そこからヤスキが"始まりの歌を"と言い、同アルバムに収録されている「僕の証明」へ。ニケの柔らかいベース・ラインがヤスキの歌声に寄り添い、バンド全体で会場を包み込んでいく。
サポート・ドラマーが平郡からex-Applicat Spectraナルハシタイチへバトンタッチ。その間にヤスキとニケはツアーを振り返る。ヒロキのエピソードが止まらないところからも、"仲のいい3人でバンドを始めた"という結成の背景が見えてきた。"ツアーを思い返していたら泣きそうになってきた"と言うニケは"楽しんで回ったツアーで成長させてもらっている。ほんま今日頑張るからな、ありがとう!"と感謝を告げた。
 
ドラムが整い後半戦へ。ヤスキが"笑顔になる曲をやります"と言った数え歌の要素を盛り込んだ「10」は、彼らが煽らずとも観客が歌詞に合わせて指で数字を作る。アーティストのワンマン・ライヴに来ている観客のひとりひとりにとって、そのアーティストの音楽が何かしらの意味を持っているのはもちろんだが、このユビキタスのワンマンは、彼らの音を大切に受け取ってこれからのエネルギーにしていこうとする想いや、バンドへの真摯な愛情を、観客の背中からとても強く感じた。その後もバンドは、その空気を味方につけたライヴを続ける。「イナズマ」、「感情性理論」と駆け抜け、「パラレルワード」でフロアから自然とクラップが起こる様子を見たヤスキはとびきりの笑顔を浮かべた。だが彼はセットリストが進むごとに、終わりに近づくことに対して寂しさを感じているような表情を見せる。そんな自分に喝を入れるように"過去には行けません、俺たちは前を向いて一生懸命生きていきましょう"と語るヤスキ。ギターを爪弾いてゆっくりとファルセットで歌い始めた「透明人間」は、楽しい気持ちと寂しい気持ちがない交ぜになった歌がエモーショナルに響いた。
 
最後にヤスキは再びヒロキの話を始めた。"当然のように音楽できてるけど、今回のヒロキみたいに、生きてたら何があるかわからへん"や"自分も負けそうになるときがあります。でもこうやって出会えて、ユビキタスの音楽好きやって言うてくれて、こんなに観に来てくれて、少しでも何かをあげたいよ。中途半端に終わるの嫌やん"など、思ったことを率直に言葉にしていくうちに、彼の目には涙が浮かんでいた。"毎日をまっとうして生きていても後悔はしてしまう。でも後悔したくないし、後悔してほしくないから、最後に演奏する曲を書きました"、"次会うときはヒロキも絶対に連れてきます。その日までお互い一生懸命生きていきましょう"と告げると「カタルシス」へ。彼らのまっすぐな気持ちが、一点の曇りもなく飛び込んでくる演奏はとても美しかった。
 
アンコールはサポート・ドラムでの編成ということもあり1曲。"俺らはほんま恵まれてるよ! 絶対負けません。またライヴハウスで一緒に音楽しましょう!"とヤスキが叫び「空の距離、消えた声」を届ける。すべてのエネルギーを出し切ると言わんばかりの、この日一番パワフルな音像――それは自分たちの未来へバトンを手渡すようでもあった。青空を突き抜けるような輝かしい音色は、最後まで会場を、そして観客の心を照らし続けた。

 
[Setlist]
1. ジレンマ
2. 君の居場所
3. リフレイン
4. サカナ
5. R
6. アマノジャク
7. ヒーローのつくり方
8. 再生
9. 僕の証明
10. ユニバース
11. ハッピーエンド
12. 10
13. イナズマ
14. 感情性理論
15. パラレルワード
16. S.O.S
17. チャンネル
18. 透明人間
19. カタルシス
en1. 空の距離、消えた声

  • 1