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INTERVIEW

Japanese

ANON

2025年07月号掲載

ANON

Interviewer:サイトウ マサヒロ

2024年7月に本格的な活動を開始した、"この世界に当てはまらないどこか特別な居場所"を追求するシンガー・ソングライター、ANON。音と言葉だけでなく3DCGを駆使した映像までも自身の手で紡ぐ彼の表現は、しかし不思議とベッドルームでうずくまるような閉塞感がなく、果てしなく孤独な旅路を並走するような優しさと壮大さを併せ持っている。貴重な初インタビューで、その脳内にある世界と創作へのこだわり、そしてニュー・シングル「エマタリア」について迫った。

-音楽体験の原点にはピアノがあるそうですね。

物心が付く前の3歳頃に、いとこの家にあったピアノを弾き始めたのがきっかけで始めました。弾くというよりもただピアノで遊んでいるような感覚のまま歳を重ねて、中学に入る前くらいからようやくちゃんと習い始めて。で、DTMも小4くらいからやってましたね。とにかく何かを作るのが好きな子どもでした。ただ、絵はそこまで達者じゃなくて、なかなか表現したいものを描けないので、それなら音楽で表現しようと。

-幼少期の遊びの延長のまま、創作を続けてきたんですね。

はい。周りに馴染めず、1人で孤独な世界を持っているようなタイプでした。現実にはない心の中の景色を、今も探求し続けてます。

-リスナーとしてはどんな音楽に影響を受けましたか?

実は、高校生までロックが大嫌いだったんですよ。やっぱり1人ではできないジャンルだから、周りに馴染めない自分にとっては抵抗があって。だから、1人でも楽しめるエレクトリックなジャンルから入りました。中学生のときに聴いてたのは、THE CHAINSMOKERS、MARSHMELLO、Martin Garrixとか。

-じゃあ、最初にDTMで作っていたのもそういったサウンドの楽曲?

そうです。ただ高校卒業後、ピアノ教室の繋がりで初めてバンドを組むことになって、嫌いだったロックに立ち向かってみたら、そこからだんだん好きになって。音楽で語り合う精神に触れたというか。僕にとって音楽は言語のようなものなんですけど、自分の伝えたい気持ちを音に変換する作業を繰り返している内に、少しずつ言葉が話せるようになった。

-言葉を聞いてくれる人や対話してくれる仲間が生まれたことで、共通言語としてのロックの力に気付いた?

はい。それまではたった1人、無人島で過ごしてたけど、船に乗って別の島に行ってみたら、同じ言葉を使ってる人がいた。そういう感覚でした。ロックって、人が何千年という歴史をかけて音楽を発展させていくなかで自然に生まれた、人間に一番合った音楽だと思うんですよ。ギターやベースも、竿に瓢箪みたいなものがくっついた、歪に見える形をしてるけど、実は人に一番合った楽器で。生物的な熱を体現しやすいジャンルだからこそ、大きな進化をしないまま続いているんだと思います。

-ちなみに取材前、激ロック(6月号)の表紙に掲載されているSLEEP TOKENの話題で盛り上がっていましたよね。

最近話題ですからね。世界観を重視しているという点でANONと通ずるものを感じていて、注目しています。

-メタルもお好きなんですか?

どちらかというとオルタナが好きで。特に90年代の、NIRVANAとかRAGE AGAINST THE MACHINEとか。

-現在は、"「この世界に当てはまらないどこか特別な居場所」を追求するシンガーソングライター"として活動するANONさんですが、このコンセプトにはどのように辿り着いたのでしょうか?

コロナが流行って、急にみんなが1人の世界に閉じ込められて。僕にとっては、それが自分と向き合う時間だったんです。それまでずっと、どこにも自分の居場所がないような気がしていて、理解者がどこかにいるっていう実感もなかった。だけどコロナ禍で1人、楽曲制作をするなかで、自分の音楽が居場所だなって気付けたんですよ。音楽はいつでも帰って来られる場所で、本当の自分でいられる場所。だから、自分の本当の居場所が分からないっていう人たちに対して、1つの正解を届けたいなと思ったんです。

-これまで作ってきた楽曲の中で、ターニング・ポイントになったものはありますか?

「STAR LIGHT (Extended)」(2025年2月リリースのシングル表題曲)は、自分らしさを見つけられた曲かなと思います。初めてCGでMVを作ったんですけど、頭のどこかにあった世界観と作品を一体化させることができました。

-音でも、映像でも。

ええ。僕の目標は、音楽や映像......音や光といったあらゆる波をすべて統括して1つの世界を作ることなので。その第一歩の作品になりました。

-曲作りも、まず理想とする世界についての映像的イメージがあって、それを音に起こしていくような作業なのでしょうか?

まさにそうですね。無数のストーリーや映画が流れている頭脳版Netflixからインスピレーションを得て、それがふとしたときに現実に現れるような感覚に近いです。

-メロディや歌詞、アレンジのいずれかから組み立てるというよりは、ぼんやりとした全体のイメージを鮮明にしていくような?

はい。一つ一つの原子が合わさって、徐々に形状のあるものができてくる。

-楽曲のジャンルも多岐にわたっていますね。

あんまりジャンルっていうものを意識したことがなくて。脳内の映画の中には、サスペンス・ホラーもあれば恋愛モノもあるし。その劇伴を作るとしたらどんな曲になるかを想像して作るんです。僕は役者ではなくて監督の役割ですね。

-ピアノやギター等マルチプレイヤーとしての一面もANONさんの魅力です。

映画のワンシーンに添える曲を作るとしたら、やっぱりオーケストラの演奏が必要じゃないですか。ヴァイオリンもチェロもチューバもある。それを表現するには、やっぱり自分でもその楽器を語れないといけないなっていう意識がどこかにあるんです。ピアノが弾けるからピアノを使うんじゃなくて、頭の中でピアノが鳴ってるから、じゃあピアノを練習するかっていう感じで、少しずつ身に付けていきました。