Japanese
プラグラムハッチ
2024年10月号掲載
Member:相澤 瞬(Vo/Gt)
Interviewer:山口 哲生
『CITY WAVE』に詰め込まれた極上の"無駄"とは
-その次の「ジオラマ都市」は、14~5年前にあった曲とのことでしたが、アルバムの中でもかなり異質ですよね。空虚というか、メランコリックな感じがありますけど、当時はどんなことを考えて作ったんですか?
全く覚えてないです(笑)。でもまぁ、若かりし頃の感じというか。今だったら絶対に作らないような感じがいいなと思って。あと、今回仕上げられるなと思ったのが、曲の雰囲気やテンション感が、ヴェイパーウェーヴと近しいなと思ったんですよ。ローファイな感じがあって。そういうテイストで仕上げたらかっこ良くなるかなと思ったんです。
-歌詞についてもなぜ書いたのかあまり覚えてないですか?
いやぁ、昔すぎちゃって(笑)。この曲を作ったのって20代前半とかだと思うんですよ。その当時は必死だったというか、世の中のことをよく分かってないじゃないですか。だから、それこそおっしゃったようなメランコリックで、空虚感みたいなものはあったんじゃないかなぁと思います。でもまぁ、そこは多くの方に当てはまるのかなっていう気もしますし。特に東京にいる人には。皆さん疲れていらっしゃるじゃないですか(苦笑)。
-そうですねぇ(苦笑)。
心の奥底に、こういう気持ちみたいなものはあるんじゃないかなって、今客観的に聴いても思いますね。
-それこそヴェイパーウェーヴが持つ虚無感みたいなものとシンクロしているというか。
そうですね。都会の虚無感みたいな。今の僕が書くと"頑張ろうよ!"とか"自分でやるしかないじゃん!"とかって感じになっちゃうんで、あえてそのままにしました。
-その次はカップリング曲だった「この町」。この曲は今の音楽性を目指していくなかで作られたのもあって、いろいろなバランスを考えながらの制作だったのではないかと思うんですが。
僕、TALKING HEADSが好きなんですけど、この曲もちょっとパロディみたいな感じではありますね。TALKING HEADSってポストパンクで、ニュー・ウェーヴの走りというか。なので、J-POPなんだけど、ポストパンク/ニュー・ウェーヴ感のサウンドが似合うものにしたいなと思って作ってました。メロディは大きくて分かりやすいけど、サウンドは洋楽志向みたいな。聴いた人がニヤっとするみたいな感じにしようと思ってましたね。この次の曲の「道なき道」も近しいようなイメージで作ってました。リズム音楽だけど、曲は覚えやすいみたいな。
-歌詞はとてもストレートですね。
「ジオラマ都市」が難解だったみたいに、昔はストレートな歌詞を書くタイプではなかったんですよ。でも、ストレートなほうがいい場面ってたくさんあるじゃないですか。もちろん、"これは何が言いたいんだろう"みたいなものがいいときもあるので、そこは曲によってではあるんですけけど。でも、今は昔よりもストレートというか、何が言いたいのか分かるようにはしたいと思うようになったかもしれないですね。この頃はもうそういうモードだったかもしれないです。
-アルバムを通して聴くと、「ジオラマ都市」で街の生活に疲れた人が、「この町」と「道なき道(CITY WAVE Mix)」でそこから抜け出すような印象も受けたんですが、そういった並びって考えたりされました?
その並びはたまたまそうなった感じではありますね。ただ、そこは今のモードというか。暗く終わらせたくないと思ってたんですよ。それで前向きな形にしたかもしれないです。
-なぜまた明るく終わりたかったんです?
ライヴが結構アゲポヨ系なんですよ。楽しんでもらえるのってすごく嬉しいなと思って。だから音源に関してもそういうものにしたかったし、そんなメッセージで終わらせたかった感じですかね。自分の気質的にそうだからっていう。
-そして、CDのみに収録されている「Taxi Meter」。ニュー・ウェーヴ的で今っぽさはあるけど、シンセ・ウェーヴとはまたちょっと違うパワー感があって、面白いバランスだなと思いました。
そもそも自分は作家として、いろんな曲を打ち込みで作っていて。自分のことを"わくわくソングクリエイター"と言っているんですけど、結構アゲアゲなものというか、楽しげなものが多いんですよ。でも、ここにわくわくなものが入ったらおかしい気もしたので、この世界観を崩さないようなものにしたいなって思いながら作ってました。
-タクシー・メーターというテーマはどんなところから出てきたんです?
あんまり深く考えずに作ってました。タクシーにしようかな、都会だから、みたいな(笑)。言ってもタクシーの値段が上がらないといいなって言っているだけの曲なので。
-たしかに(笑)。相澤さんはもともとシティ・ポップやニュー・ウェーヴが好きで、昔から聴いていたと思うんですが、その当時聴いていたときと、いろんな活動を経て聴いたときとで、また違うものを感じたりされますか?
シティ・ポップの定義ってこの数年ですごく広がりましたよね。20代前半の頃は特にシティ・ポップという言葉を気にせずに、シティ感というか、都市のごちゃっとしている感じとか、虚無感みたいなものがいいなと思っていたのかもしれないです。そこから時を経て、シティ・ポップというものに思うのが......僕は結構音像フェチというか、グルーヴフェチみたいな感じなんですけど、角松敏生さんの作品とかがエグいなと思うようになって。めちゃめちゃグッと来るんですよ。こんなに作り込んでるんだ! とか、これは何で録ってるんだろう? とか。だから、昔いいなと思っていたシティ感と、今僕が思うシティ・ポップのいいなと思う音像は違うものかもしれないけど、同じシティ感という単語があるから地続きとしてあるのかなって感じですね。
-でも、なぜそういったシティ感に惹かれてしまうんでしょうね。
なんでしょうね? 音像ってあまり皆さんが共感できない部分だから説明するのが難しいんですけど......派手だけど虚無な感じがいいのかもしれないです。あの時代の音楽って、音は派手だったりするじゃないですか。素晴らしいミュージシャンが揃って演奏していて、すごく大好きなんです。でも、膨らんでいるけど中身がスカスカしているというか。そういったものがこの時期の作品に詰まっている感じが好きなのかもしれないです。都会っぽくて、ごちゃっとしていて、いろんなものがあるけど、中身はスカっとしている人の心というか。
-商業的って、いい意味でも悪い意味でもあると思うんですけど、それが持っている虚無感みたいなものに、哀愁のようなものを感じたりするんでしょうか。
あぁ。そうかもしれないですね。ただ、結局今評価されているものって、結局中身が良かったからだと思うんですよ。そこにもすごくグッと来るというか。派手でスカっとしてる風だけど、実はちゃんと中身は詰まっていたっていうオチも込みで好きなのかもしれないですね(笑)。
-洗練されている印象はあるんだけど、奥のほうにはすごく熱いものがあったという。
すごいものがあったからこそ、みんなこれだけ参考にしたり、海外のなんのバイアスも掛かっていない人たちが聴いて、かっこいいと思ったりしたのかもしれないですし。グルーヴの構築とかも、今のK-POPはすごく参考にしているんじゃないかなって僕は思っていて。だから結局、中身がしっかりしていたから評価されたんだろうなと考えています。
-再始動後、初の音源を完成させてみてどんな感覚がありますか?
メンバーと周りのスタッフさんのおかげで、想像以上のものができたなって思いますね。演奏にしてもエンジニアさんにしてもアートワークのスタッフさんにしても、みんなが集まったからこそできたかなって感じます。
-特にご自身の中で一番想像を超えた形になったと思う曲を挙げるとすると?
全部いいんですけど、みんなの個性から考えるとこうなるだろうなって想定をして組んではいるんですよ。ただ、正直、人力でやることによってコストも時間もかかるじゃないですか。そこを実力があるメンバーでやれたからこそ、人力でやった意味がすごく出たのが良かったところだと思いますね。
-人力でやるというのは、こだわりたかったところでもあるんでしょうか。
そこはもう意地みたいな感じですよね(笑)。極論、全部打ち込みでも作れてしまうんですよ。だけど、人とやるエモさみたいなものってすごく大事だと思っていて。効率はいくらでも上げられるけれど、僕としては無駄を大切にしたいっていう感じなんですよね、今は。もしかしたら誰かと一緒にやることって無駄だと思われることもあるし、誰かのライヴを観に行く時間やお金も無駄だと取られてしまうこともあるじゃないですか。家の中で楽しめるものもいっぱいあるし。だけど、コロナ禍を越えて、無駄が大事っていうことをいろんな方が分かったんじゃないかなと思うんです。こうやって人とお話をしたりすることもそうですけど、それが僕は一番大事なんじゃないかなと思っているので、今回のアルバムは"無駄"をすごく詰め込んだのかもしれないですね(笑)。
-本当は削いでしまうこともできるんだけど。
うん。いくらでも削げるところをこの人たちとやりたいから、みんなとやりたいからっていう情熱前提で作っているかもしれないです。
-実際に、例えば「Goodbye Rainy Bay」のような穏やかな曲にも、奥のほうにフツフツと沸いているものを感じました。そこは聴いている人にも伝わるんじゃないかなと思いますよ。そういった、人間のエモーショナルな部分というのが。
ありがとうございます。シティ・ポップって、一見シュっとしてるじゃないですか。シュっとしがちだけど、やっぱりあれだけエグい作り込みって、相当な情熱がないとできないと思うんですよ。だから、シュっとしてるけど中身はグツグツみたいな感じにしたかったもしれないですね。蓋を開けたら、聴いたら分かるみたいな感じにはしたかったかもしれないです。
-今の相澤さんが思う、シティ・ポップのいい部分をしっかりと表現できたと。
そうですね。それこそ角松敏生さんの作品をすごく聴かせてもらっていて、直接お話しさせていただいたこともあるんですけど、やっぱり言葉の端々からとてつもないこだわりを感じるんですよ。そうでありたいなって思いますね。シュっと見えて、ササっとやってるような感じなのに、実は地道な努力の塊というか。表向きは、"いい曲だね"と思ってもらえれば嬉しいし、音楽ファンの方には、"結構エグいことやってんね"みたいな感じで伝わったら嬉しいなって思いますね。
-いわゆる職人的というか。
そうですね。たぶんほとんどの人が分からないところかもしれないんですけど。
-でも、そのこだわりがあるからこそ、そう聴こえるところはありますからね。この1枚を持って、ここから先はどんな活動をしていこうと考えていますか?
もちろん昔から応援してくれている方にも楽しんでもらいたいですが、最初に目標とした、日本のポップスとして海外に届けていきたいなっていう気持ちがすごくデカいですね。
-実際に予定も立てているんですか?
今組んでいる途中なんですけど、海外関係から少しずつお話をいただくようになっていて。なので海外だったら日本を紹介する場所だったり、日本だったら海外の人が興味を持つような場所であったり、いろんなところでライヴがしたいなと思ってます。
-いろんな場所で、いろんな人に届けていこうと。
休止していたので、当時ライヴに来てくれていた方たちとかは、家庭を持ったりライヴハウスに行くのがなかなか難しかったりすると思うんですよね。だから、ゼロからの気持ちで新しいところにどんどんお届けしていきたいなと思っていますし、どこから知ってもらってもいいと考えていて。ライヴハウスだけじゃなくて、ネットでもメディアでも、インストア・イベントでたまたま観て知っていただいてもいいと思いますし、そこから広がっていったらいいなと。
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