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INTERVIEW

Japanese

入江 陽

2024年03月号掲載

入江 陽

Interviewer:石角 友香

シンガー・ソングライターであり、近年は"街の上で""東京の雪男"など映画やドラマの劇伴も手掛け、また配信コンテンツ・フリークとして文筆活動も行う入江 陽。彼が7年ぶりとなるアルバムのテーマに冠したのはタイトル通り"恋愛"。BEASTIE BOYSやJack Johnsonのプロデューサーとしても知られるMario Caldato Jr.や、ラブリーサマーちゃん、sugar meら多彩なゲストを迎えた本作は従来の現行ネオ・ソウルのフレーバーも保ちつつ、彼のオルタナティヴな感性を前提にJ-POP的なわかりやすさも飲み込んだことで、誰しもが感じる恋愛のある瞬間や状態をヴィヴィッドに作品化することに成功している。


本当に個性があったらカテゴリーがしっかりあっても消されない。それで今回はラヴ・ソング集的な見え方を提示する意識がありました


-前作『FISH』(2017年リリースの4thアルバム)から7年の時間が経過した理由はどういうところなんでしょうか。

一番影響するのは時間が苦手というか、近しい人たちからよく"時間を大きく捉えすぎてる"って言われてまして。例えば3日後のことってなると2週間ぐらい、明日ってなったら2~3日あるように、時間の持ってるレゴ・ブロックみたいなものがデカめっていうんですかね。それで締め切りに遅れてしまったり、制作に時間がかかってしまったり。直接の原因としては裏方仕事で結構忙しくなって――スマホ・ゲームとか映画音楽の仕事をやっていたら、気づけば7年経っていて(笑)。ちょっと自分でも驚いてしまいました。あとは単純に時間が経ってしまったので、知らない方も多いと思いますし、1stアルバム的な気持ちもあったりしております。

-若いリスナーにとって、入江さんの音楽を自然と耳にしてるのは映画だったりドラマだったりするのかなと。今泉力哉監督の"街の上で"とか、出演されたドラマ"First Love 初恋"とか。

"First Love 初恋"は実は9秒しか出演してないんですけど(笑)、もともとは荒木飛羽さんっていう俳優さんが音楽を作る役で、そのレッスンをするっていう仕事で入ったんですよね。音楽繋がりで入って、"出してください"ってたくさん言ったら、音楽で手伝っていると意外とあちらも断りづらいみたいで(笑)。

-作品のテーマや監督の嗜好もあると思うんですけど、入江さんの音楽がハマるタイミングだったのかなとも思います。

たしかにそうですね。"街の上で"のときは、今泉さんが懐広くすごい自由に作らせてくださったというか、それまでの映画音楽よりもかなり自分を出せたっていうか。演技に関しても、俳優さんの思うようにまずやってもらって、そこから作っていかれる印象があるんですけど、今泉さんのおかげで"映画音楽はこういうふうに作るのか"っていうのがちょっとわかったようなところもあって。あと下北沢を舞台にした恋愛の話なので、アルバムの内容にも合うかなと思ったりして、今回映画のために作った「interlude」をアルバムに収録させていただきました。

-身近な情景を描いた作品ですよね。

何も起きないと言えば何も起きないみたいな、そういう感じはたしかに好きかもしれないですね。あらすじが説明できない映画、良さが説明できない音楽とか、言語化しづらい、分解しづらいものをいいなと思ったりします。

-この間、単曲のリリースはすごく多かったじゃないですか。アルバム収録曲以外で16曲もありました。

あんまりライヴも歌モノの活動もしなくなってしまってたことにたぶん焦りもあって、それでシングルを山のように(笑)。シングルだと"時間のサイズが間違ってる人"でも作りやすいっていうか、計画性がそんなになくても、むしろ1曲にその視野の狭さを使えるというか。

-むしろ非常に濃厚な曲ができると?

そうですね。なので、アルバムは本当に久しぶりだったから"どうやって作るんだっけな"って。あと久しぶりなので絶対に自分が満足いくというか、後悔しないようにしたいという気持ちも強くて、ちょっと時間がかかってしまったり。でも本当に今までで一番内容的に気に入っています。過去のアルバムも好きなんですけど、7年経ったのも無駄じゃなかったとちょっと思いつつ、まぁ4年ぐらいで良かったような気もしますが(笑)。

-なので今回はすごくアルバムらしいっていいますか、入江さんがアルバム・タイトルに"恋愛"って付けたら"究極じゃないですか"という印象がありました。

"恋愛"って、自分の自己イメージだと付けなそうっていうか、まっすぐなタイトルなのでちょっと勇気は必要だったんですよね。でもわかりやすくまとめたい気持ちもあって、テーマに沿って聴けるというか、映画のジャンルの入り口みたいな。恋愛映画だと思って観始めてサスペンスだとか、ホラーだと思って観始めてコメディみたいなことってあると思うんですけど、ジャンルがない映画ってちょっと入りづらいじゃないですか。シュール系っていうんですかね、ずっとそうだと聴いていただく人も広がりにくいのかなって、7年間の裏方仕事で感じて。カテゴライズをあまりにも嫌う方を見かけると、わかりにくいっていうか、本当に個性があったらカテゴリーがしっかりあっても消されないとも思ったりして、それで今回はラヴ・ソング集的な見え方を自分でも提示する意識がありましたね。

-むしろジャンルを明示してることで、作ってる人のそれなりの勇気や覚悟を感じますが。

たしかに。あとはそのときの気分に合ったものが本当に再生される安心感がある。入り口がそうでも違っても面白ければ観続けてくれると思うんですけど、ジャンル不明って書いてあると(笑)、ちょっと観るのにハードルが上がるというか、監督とか主演の人がすごい好きとかじゃないと観ない気がして。そういう傾向が(笑)、過去の自分の音楽にはあったのかなと思って、いい悪いじゃないんですけど、歳を重ねてそこがちょっと丸くなったというか。

-入江さんの過去の作品もいわゆるハッピー・エンドとかバッド・エンドみたいなことではない、恋愛の"状態"を表現されていたので、今回のタイトルもまとめ方もすごく腑に落ちました。

嬉しいですね。"状態"とか、"状態"がちょっと変わる瞬間みたいなものがすごい好きで。そこはそう感じてくださったのは嬉しいです。

-アルバム『SF』(2016年リリースの3rdアルバム)のインタビューを拝見したんですが、入江さんがラップの押韻の部分でPUNPEEさん、5lackさん兄弟への憧れが強いと言われていて。PUNPEEさんのXのプロフィールに"わかりやすいものが好きです"って書いてある姿勢とリンクしたんですよね。"わかりやすい"って簡単ではないというか。

あぁ、言ってましたか? それ思ってたんですよね、ずっと。"カレーが好き"とか、普通のものを普通にいいよねって言えるような強さに以前から憧れてて。本当はそうなのに、照れなのか、ちょっと変な音楽で煙に巻くっていうんですかね。やっぱ7年経って聴き返すとちょっとひねくれすぎてるなって思ったり、あとアルバムの流れとかも唐突すぎるっていうか(笑)、脈絡がないなってちょっと思ったりして。それも好きなんですけどね。でも、"状態"っていうのは本当におっしゃる通り、まさに思ってることで。ちょっと記事にしづらいかもしれないですが――僕は本当にやってないんですけど、いろんな状態を好む人、ドラッグだったり、あとは不倫とか、"状態ラヴァー"みたいな人たち(笑)がいると思うんですよ。

-ある種の依存?

そうです、そうです。論理的な"こうなりたいからこうしてる"とかじゃなくて"状態"を好む人たちに音楽がウケるっていうか、好んでいただくことが多くて。で、自分も"状態ラヴァー"なんだなってちょっと思ったんですよね。イリーガルなものをやってる人に"絶対やってるでしょ"って言われたことがあって、"いや、やってないです"と(笑)。

-別にイリーガルなことをやってなくても、人間ちょっとダークになるときとか、普段の自分と違うことはありますよね。

それこそ"今日はちょっとラーメンの気分だな"みたいなものも十分"状態"だし、あとは変なことしなくても、脳内麻薬だけでもいろんな"状態"になれるというか(笑)。そういうことも考えていたので逆に嬉しかったですね、その極端な"状態ラヴァー"の人に"絶対にやってる"って確信を持った目で言われたのは(笑)。

-(笑)今回のアルバムは、聴感としては心地よかったりメロウだったりすることがむしろ余計に危ういなと思ったんです。

あー、なるほど。聴きやすいぶんっていうことですよね。

-聴きやすいぶん、開けちゃいけないところが開いちゃったというか。

それは実はすごく意識してて。そこも汲み取ってくださって嬉しいですね。気づいたら変な状態になっている曲っていうか(笑)、スルスル聴いてたのに"あれ?"って。コース料理とかをおいしいおいしいって食べてたのに、気づいたらすっごい変な味で"何これ?"ってなるのはちょっと意識したというか、なるべく味わったことがないものもちょっと提供できたら嬉しいなぁって思っていて。それは慎重に慎重にちりばめられたと思います。

-ところで、そろそろアルバムができそうだなっていうきっかけになった出来事や曲はありますか?

ちょっと前の話になるんですけど、アルバムには入っていない「HoneyBeeBaby」(2023年リリース)って曲を作ったときに、久しぶりに歌詞が書けるようになった印象があって、そこから"アルバムが作れるかもしれない"とだんだん乗ってきて、それでアルバムの曲だとTrack.1の「とまどい」とかTrack.3の「ときめき」あたりからちょっと自信が湧いてきて。意外とシンプルめなラヴ・ソングでも自分で満足できるっていうか。しかもそれが外からの圧で、「とまどい」だったらドラマの仕事("東京の雪男")とか、「ときめき」だったらMarioさんからありがたいことにご連絡をいただいて、それでコラボが実現したんですけど、そういう外からの力で自然と出てくるものがだんだん一致してくる感じというか。そのあたりは自信になったかもしれないですね。「ごめんね」もNONA REEVESの奥田(健介/Gt)さんのソロ・プロジェクト(ZEUS)に歌詞提供した曲なんですけど、自分が出すものがだんだん恋愛やロマンチックものにまとまってきた印象で。

-面白いのは、入江さんはシンガー・ソングライターではあるけれど、すべてご自分で作るわけではないところで。

そうなんです。コライティングというか、海外では日本以上に広まっていますし、日本でもメジャーのポップスは何人かで作ってることが多いと思うんですけど、例えばカバーとかでも、誰が作ったかよりも共鳴できるかのほうが大事っていう印象が昔以上に強まってきていて。最初は久しぶりのアルバムってこともあって、全部自分で作詞作曲しようと考えてたんですけど、そこは意外とこだわりが希薄だったというか、しっくり歌える曲であればいいと思ったんですね。例えば「道がたくさん」っていう最後の曲は、石上(嵩大)君っていうフレスプというユニットをやってる友達の曲なんですけど、この曲の歌詞は絶対自分が書かないような言葉がいっぱい入ってて。

-例えばどんな言葉ですか?

これは6~7年前に収録してそのままお蔵入りになってた曲で、当時は"メジロが鳴く"なんて自分では絶対言わないなって思ったんですけど、今だったらみんなで歌う感じというか、ちょっとスピってる感じなんですが、もう亡くなっている人たちも含めてみんなで歌うみたいな気持ちが強まっていて。むしろ逆に自分が書いてない言葉が混ざってるほうが自然っていうか。大きな怪獣が来たら、たぶん人種を越えてどんな年齢の人でも怖いじゃないですか。いい匂いがしたら"この花はいい匂いだ"って知らなくてもきっといい気持ちになったりする、その共通の感覚、記憶みたいなものがあるほうが惹かれるようになってきて。本当に抵抗がなくなってしまって、自分が歌わなそうなことをほかの人に書いてもらって強制されたほうがむしろ楽しいっていうか(笑)、押しつけられたほうが逆に個性が出るかもなと考えています。

-入江さんの場合、この曲に関しては歌うことが大事なんだなとか、トラックを突き詰めることが大事だとかあるんでしょうね。

たしかに、曲によって出したいところが違ったりもするのかもしれないですね。でも歌は今回本当に、昔のアルバムよりも聴かせたいと思って、アルバムを通して心掛けたのが歌をとにかくデカくっていうことと、歌以外の音を減らすっていうことで。エンジニアが林田(涼太)さんって方で、Shing02の作品とかミックスされているんですけど、林田さんにめちゃめちゃしつこく"いらなそうな音ありませんか"って何回も聞いて、すっごい減らしたあとも"これもいらないんじゃないですか?"とか言って(笑)。で、減らしすぎて"これ以上減らすとちょっと曲変わっちゃいますね"って言われて戻したり。減らす作業はすごい心掛けましたね。それでもまだ凝ってる印象が残ってると思うんですよ。なので今後はもっと減らしたいなって考えてるんですが。

-これ以上減らしたらアンビエント歌謡になりそうです。

(笑)どんな環境で聴いても印象が変わらないように作ろうとすると、減らしていく方向にする以外ない。以前はたくさんの音がどんなバランスで聴こえるかってことに執着してたんですけど、それっていい環境で聴いてる人しか味わえない体験っていうか、そのことに関心が薄れてきたのかもしれないですね。味がボケないようにというか。

-なるほど。

あとは恋愛がテーマだと結構なんでも入れられるなと。存在する歌モノ曲の歌詞のテーマの割合をなんかの番組で見たことがあって、"ほとんどラヴ・ソングじゃん"みたいな。たまに友情ソングと応援ソングみたいなのもあるんですけど、少ないんですよ(笑)。ラヴ・ソングの形を模した違うテーマの曲って多いと思うんですけど、そういう意味でいろいろやりたい自分に合ってるかなと。崇高な恋愛じゃなくて、本当にしょうもない、箸にも棒にもかからないような全然うまくいかない片思いとか、ひょんなことであっさりダメになったりとか(笑)、そういうなんの教訓にもならない与太話みたいなものに惹かれるっていうことがわかってきて。恋愛リアリティ・ショーとか観てるときに、"バチェラー"とかあまり品のないものも含めてなんですけど、もともと崇高なものに惹かれているとはまったく思ってなかったんですが、よりそういう自分の傾向がわかってきたというか(笑)、どうでもいい無駄なものにこそ、人間の愛おしさを感じたりするなと思っていたので、今後は恋愛でちょっとやっていけたらいいなと(笑)。