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INTERVIEW

Japanese

入江 陽

2024年03月号掲載

入江 陽

Interviewer:石角 友香

-崇高な恋愛って実際あるんですかね? 国の命運がかかった結婚とかは恋愛とは違うでしょうし。

崇高なとかってないのかもしれないですね、本当は。

-一瞬はあるかもしれないですが。

たしかにそうですね。一瞬見える真実みたいなものには惹かれる自分もいるんですけど。でもやっぱりダメさとかだらしなさ、優柔不断なところとかを打ち出していきたいというか。なんでなのかわからないですけど。

-入江さんの恋愛の曲が好きな人はそこが聴きたいんだと思います。

そうなんだと思います。弱さを自覚してる人が断罪されるような曲はまったく作りたくなくて(笑)。あるじゃないですか? "もっとちゃんとしよう"みたいな曲。そもそも生活が大変なのに、生きてるだけでも結構だるいこと多いじゃないですか。僕もだるいことが多いんですけど、そんななかでせっかく音楽聴いてたのに説教なんかされたらもうかわいそうでかわいそうで。お金も払って聴いているので、やっぱり基本許す方向っていうか、"全然ダメじゃないですね"とか"最高です"みたいな、"許す"って言うと偉そうですけど、許された気分になるものを作りたい気持ちは強いですね。

-具体的には"状態"の描写がすごすぎて、「海に来たのに feat.ラブリーサマーちゃん」を筆頭に泣けるんですよね。

嬉しいです。

-ふたりともある1日を忘れてもいいって歌ってるのがめちゃくちゃリアルに感じられて。もちろん音像などが相まってなんですが。

たしかに。そうなんですよね。忘れてもいいし、忘れまいとしてても忘れちゃうかもしれないし。なんでもない日っていうか、どうでもいい日だけど"あの日ちょっと特別な印象もあったな"みたいな1日とかに惹かれますね。

-同じ経験じゃなくても、こんなような記憶があるなぁと。

海が好きで行ったのに意外と寒かったり、薄着で来ちゃったり、砂がウザかったり、夏に花火を見ても虫がすごいとかトイレが不快とか(笑)、別のことのストレスって強烈ですよね(笑)。昔、『仕事』(2015年リリース)ってアルバムの「やけど」って曲の歌詞をそのアルバムのプロデューサーの大谷能生さんに聴いていただいたときに、"認知症のお年寄りが錯乱した状態で書いたような印象"って感想をおっしゃって(笑)。でもそれに憧れてるのかもしれないというか、夢みたいな状態になっていろいろ思い出したり忘れたり、見えたもののことを言っちゃったり、全部ゆるんでる状態っていうんですかね。その究極のリラックス状態みたいなのに憧れている感じがあって。なので"忘れる"とか、そういうモチーフが好きなんですよね。

-究極の無意識を目指す?

そうですね。介護施設で働いている友人が言ってたのが、認知症の方と話の疎通はできなくても、雰囲気での会話で感情の疎通は十分できるって言ってたのがすごい印象的で。でもそれってありますよね。海外の方と言葉が通じなくても、笑顔とか雰囲気で上機嫌にしてるとふたりとも楽しい時間が過ごせそうですし。根つめて論理的に"それってなんで?"とか言い始めたら途端に疎通レベルが下がるっていうか。そういう、いろいろ解放されたい気持ちが強いのかもしれないですね。

-ところで、ラブリーサマーちゃんは今の若い女性アーティストとしてほぼ唯一UKロックをやってる存在と言っていいと思うんですが......。

たしかに。ストイックですよね、あの音像とか。本格って言ったら逆に失礼ですけど、本物のロック・サウンドをガチで作ってる感じしますよね。

-でも今回「海に来たのに」はソウルフルに歌っていて意外でした。

それも嬉しいですね。なるべくラブサマ(ラブリーサマーちゃん)さんに対してもさっきのコース料理の話じゃないですけど、"気づいたらこうなってた"みたいな状態を目指して、誘導するわけじゃないんですけど、ちょっと開放的になってもらうというか(笑)。それはラブサマさんだけでなく、参加していただく人全員に思ってることなんですけど、なるべく普段と違う気分を味わってもらって楽しく帰ってほしいみたいな。"よくわかんないけど面白かった"、"なぜか楽しかったな"ってことは結構重視してて。ラブサマさんにはギターもガンガン弾いていただいて嬉しかったですね。

-このアルバムの中でだけじゃなくて入江さんのキャリア史上、最もJ-POPに接近しているように思えたのは「気のせい」で、意外でした。

そうですよね。LINEの返事に時間をかけるだの、大切なことは単純なままでいいのかもしれないだのってことは、ひねくれた自分には歌詞にするのが難しいんですけど、この曲はもともと京都精華大学のレコーディング講座みたいなもので、受講生たちが作曲した曲を入江が歌ってみようって、気軽な気持ちで作った曲なんです。今Set Freeってバンドをやってる清田(尚吾/Vo)さんが当時その講座の生徒だったんですけど、清田さん含め学生のみなさんが作った曲なので、短時間でざっとラヴ・ソングらしさみたいなものを意識して、唯一のひねくれ要素として"気のせい"っていう言葉をちょっと入れた感じで。でも急いで書いてたら逆に普通のものができて(笑)、それで自分でも"あっ、こういう普通のきれいなラヴ・ソングっていいな"と思って。それでできたので、そういう外圧がかかるとちょっと楽しいんですよね。

-今回の曲ができる経緯には、外圧がいい意味でひとつのファクターであるのがわかります。「続・充電器」はもともと、2019年のシングル「充電器(201902)」があるじゃないですか。加筆された部分がなかなかなかビターでしたね。

あー、でも嬉しいです。そうなんです、加筆したんですよね、後半部分を。そんなに病んでるわけじゃないんですけど、病まない予防として――海外ドラマミーハーなんですけど、海外ドラマって結構カウンセリングの場面が出てくるじゃないですか。それでミーハーな気持ちで始めようと思って、今、週一でZoomでカウンセリングを受けてまして。実際に(歌詞に出てくる)スズキさんって方に受けています。スズキだから特定されにくいなと思って。これが"イワコジマ"みたいな名前だったら絶対そのまま歌詞にはしないんですけど、そういう実生活もちょっと入れつつというか。

-もとの「充電器」の甘やかな時間の後日譚のようなニュアンスがありますね。

7年経ってる意味をアルバムの中にもちょっと作りたいなと思ったりしていて。

-そして4月にはインストア・イベント"入江陽『恋愛』 リリース記念 ミニライブ&サイン会"も決まっています。1曲ごとにプロダクションが違ってたりするので、ライヴはまた全然違う考え方でやられるのでしょうか。

そうですね。ライヴは「ごめんね」のアレンジをしてくれてる小金丸(慧)君にディレクションしてもらおうと思っています。バンド・シーンだとthe chef cooks meのサポートをしたりしてるギタリストの方なんですけど。アルバムのデータと小金丸君のギター演奏と僕の歌で再構築というか、ちゃんとライヴし慣れてる小金丸君にだいぶ任せる感じです。ライヴが久しぶりなので、リハビリ感覚でというか、初心者のつもりで真剣に歌の練習をして臨もうという気持ちでいます。

EVENT INFORMATION

"入江陽『恋愛』 リリース記念 ミニライブ&サイン会"
4月6日(土)TOWER VINYL SHIBUYA 15:00~
4月13日(土)TOWER RECORDS梅田NU茶屋町店 14:00~
出演:入江 陽(Vo/Key) / 小金丸 慧(Gt)
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LIVE INFORMATION


"入江陽 New Album「恋愛」Release Event in 愛知"
4月14日(日)金山ブラジルコーヒー
OPEN 18:00 / START 18:30
出演:入江陽(れんあいset) / 森脇ひとみ(その他の短編ズ) / The Kota Oe Band

[チケット]
予約 ¥2,500 / 当日 ¥3,000(D代別)
予約窓口はこちら