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INTERVIEW

Japanese

kittone

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Member:ヤマザキ ユウキ(Ba/Composer)

Interviewer:吉羽 さおり

書くたびに自分を嫌いになって――でも書かずにはいられないっていう......もう呪いですよね


-音楽性も自由にできますしね。と言っても、アルバムを聴くとすでに自由にやっているように思いますけど。

そうですね。好きなようにやっていますね、誰も何も言ってこないので。というより言っても無駄だって思われてるのかもしれない(笑)。人の意見を本当に聞かないんですよね。そういうところはあると思います。

-その強いこだわりで作品が作られているんですね。今回のアルバムでは既発のシングル曲も多く収録されていますが、その中で新曲となるのが「視えないふたり」です。打ち込みや疾走感のあるサウンドが多いなかで、「視えないふたり」はミニマムな音響で、抑えた表現の曲になりました。

アコースティックに寄った曲になりましたね。この曲は、実在する人と接していくなかでの自分の気持ちみたいなものを初めて書いてみようと思って作ったんです。特定の、すごく狭い中での話なんですけど。今まで歌詞を書くうえでは、言葉の美しさを詞で追求しようとやってきたんですが、言葉にしなくても、目に見えなくても、人と接していると受け取るものってあるなって思った出来事があって。それがすごく嬉しかったんですよね。それを曲にして、自分から切り離して永遠のものにしたかったんです。

-それで繊細な手触りの音や言葉になった。

そういうところから楽器を選んでいったら、必然的にアコースティック・ギターとピアノと、となっていって。

-この曲ではヴォーカルのディレクションにもこだわった感じですか。

参考音源みたいなものを送ったりもしましたし、あとはこういうときの気持ちなんだっていう説明もちょっとだけしましたね。すごくこだわったし、何回も歌ってもらったりもしていて。

-それだけ自分にとって、その出来事が大事な瞬間だったということですね。

そうですね。昨年の11月くらいに書いた曲だったんですけど、曲になるのが速かったんです。歌詞も1日で書いたもので。やっぱり書きたいものがあると曲も歌詞も速いんですよね。最初のデモも、今と同じくらいの形でアレンジャーに渡している気がします。

-アレンジャーの安田そうしさんとも何曲も作ってきて、ヤマザキさんの思い描くものが通じ合ったり、お互いの共通言語ができてきた感じですかね。

そうですね。もともと僕は、アレンジャーの安田そうしさんがやっていたバンドのサポート・メンバーだったんです。サポート・メンバーになる前も彼のバンドのローディーをやっていたから、10年以上の付き合いになるので、だいたい通じているというか。

-師匠という存在ですね。

そうですね。僕がベースを始めてすぐサポート・メンバーにしていただいて、ほとんど初心者だったのでめちゃめちゃしごかれて、という関係性だったんです。

-プレイヤーとしてはもちろん、ソングライターになってもサポートをしてくれるのは、いい関係値ですね。もともとヤマザキさんとしては、どういうルーツや影響があってこうして音楽の世界に飛び込んでいるんですか。

一番影響を受けたのはたぶん......18歳から北浦和KYARAっていう、今はないライヴハウスで働いていたんですけど。

-あそこって結構ハードコアとかパンク系が多かったライヴハウスですよね。

メロコア、ハードコアでしたね。そこで3年くらい住みながら働いていたんです。なので、100人キャパとかで観るメロコア・バンドとかに一番影響を受けたはずなんですけど。

-今のアウトプットを聴く限りではそこからじゃない感じですね。

影響を受けた音楽とやりたい音楽は違うんですよね。なんですかね? もともとヴィジュアル系が好きでX JAPAN とか──それもまた全然違いますけど。

-サウンド的には違うかもしれないですが、世界観がしっかりあるということは通じるところはありそうです。

あぁ、そこはたしかにそうかもしれないですね。でもあまり影響というのがわからないんですよね。間違いなく海外のものからではないですね......最初に始めたバンドは英語詞のめちゃくちゃ速いメロコア・バンドでしたけど(笑)。ただ、音楽好きではない友達とかに聴いてもらいにくかったのがすごく嫌だったんですよね。英語だし、速いし、めちゃくちゃギターがうるさいしっていう。そこで、自分のやっている音楽は聴き手を選ぶんだなって実感があったんです。いつか、誰が聴いてもわかるじゃないですけど、人を選ばない音楽を作ってみたいなという気持ちはありました。だから日本語で、聴きやすいメロディでっていうのはあるのかもしれないです。

-また、歌詞の面、物語を紡ぐということではどうですか。こちらはまた音楽以外での、小説、映画などの影響が大きくありそうですね。

そうですね。暗い、内省的な話ばっかり読んでいる気がします。会話劇みたいなものがすごく好きで、漫画でも映画でもそんなに大きな展開がなく、登場人物も少なくて、心の動きを台詞や間で表現しているような、ゆったりとした心地いいものが好きなんです。

-それが出ているんでしょうね、kittoneとしての音楽に。

出てるかな。暗いなぁっていうのは自分でも思うんですけど(笑)。

-いろんなバンドなども経験して、今、自分のやりたいことと音楽がフィットしてきた感覚になっていますか。

そうですね。自分が書きたいものだけを書いて、それでいいんだって思えているので。まだまだたくさんの人に聴かれているわけじゃないですけど、自分の書いた曲を大切に思えているので、このやり方でいいんだろうなという気持ちではいます。

-では改めて作品のお話で、アルバム1曲目に前奏曲的な「海の見える窓辺より」が収録されました。波音や風の音が聞こえる、とても美しく静謐なピアノ曲で、作品の入り口であり、作品の景色を決めるような曲ですね。

そうですね。次の「誰も知らない」のMVで、漫画家の田口囁一さんにイラストを描いていただいたんです。それは、自分の死期を悟った少年がただ吐き出すように書いていくというものなんですけど、僕が書いた曲をモチーフに描いてもらった絵を、今度は僕がそれをモチーフにして別の曲にしたっていう試みが「海の見える窓辺より」で。「誰も知らない」のMVが、窓の外に海が見えていて、夜中から朝になるまで書いているという映像なんですけど、それが自分の曲を書くスタイルにすごく似ているなと思って。自分の書きたいものだけをひたすら書いていく。今回のアルバムは、そうやってできあがった作品で。「誰も知らない」で自分の人生を書き残している、その書き残された物語がその後の曲たち、というイメージでしたね。

-そう聞くと悲しい物語のようにも聞こえますが、その瞬間、瞬間の気持ちを曲に封じ込めた、生き生きと鮮やかな作品でもあります。

フィクションを書いていても、人間の部分が滲み出てくるというか。そう思うことは多くありましたね。

-自分を知っていく作業にもなっていた。

ひたすら孤独と向き合う作業ですよね。何回も嫌になりました(笑)。でも書かずにはいられなくなっちゃったので。書くたびに自分と向き合って、書くたびに自分を嫌いになっていくような感覚もあって。でも書かずにはいられないっていう......もう呪いですよね。

-自分の嫌いになってしまう部分っていうと、どういうところがありますか。

やっぱり自分の弱い部分というか。人に見せないところにもちゃんと向き合って、必然的にそういうものが曲になっていっちゃうので、"なんのためにこんなしんどいことをしてるの?"って思うし。別に誰かに言われたわけでもないし、好き好んでやっているのに。でもそうやって生み出されたものにしか興味がないというか。セットだと思うんです、いい作品とその作業って。だからそれをやらなきゃいけないんですよね。

-そのアルバムに"独白"と冠した想いについても聞かせてください。

曲の中の物語が独白的というか。誰かに向けたメッセージというよりも、自分の気持ちをただ書き残しているというもので。僕の曲の書き方もそうだし、楽曲の中の物語もそうだし、それをひと言で言うならば"独白"なんだろうなと。"独白"を聴いてくださいって言うのも変な話ですけどね(笑)。でもkittoneとして音楽を出していくうえでのスタンスみたいなものも、はっきりさせておきたかったので。ふたりになって初めてのアルバムでもあるし、ピッタリなんじゃないですかね。