Skream! | 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト

MENU

INTERVIEW

Japanese

小林柊矢

2022年04月号掲載

小林柊矢

Interviewer:石角 友香

弱さを出す方向ですね。僕の歌詞のコンセプトは、全体的にそっちだと思います


-小林さんが注目されたきっかけの曲や、それ以降の曲も別れや失恋や一目惚れとか、恋愛が題材であることが多いんですが、そこが一番気持ちを込めて書けるってことなんでしょうか。

聴いてきた音楽っていうのもあると思います。なぜかバラードが好きだったんですけど、特に失恋曲が好きだったんですよね。だから、聴いてきた音楽に恋愛曲が多かったっていうのが大きいかもしれない。

-10代の頃から作ってる方に聴くと、一番リアリティのあるテーマだし、書きたいと思うことがそこになっちゃうという理由が多いです。

たしかにそうですね。ま、その10代から20代になる、大人になるに向けての曲も一応あるんですけど。

-もちろん人間関係や理不尽な思いとかもあると思うんですけど。

はい。そういう曲もたまに書くし、今の僕は書いててもいいんですけど、リリースすることを考えると、みんなはまだ小林柊矢のそういう曲を聴きたくないんじゃないかなと思うんですよね。だから将来的には葛藤の曲も出すかもしれないんですけど、今はこの純粋なうちにというか、染まってないうちに等身大の恋愛の歌を出しておこうって意図はありますね。

-中学生ぐらいから思うことですよね。なぜ好きな人のことについてこんなに考えてしまうのか。考える時間があるってことも大きいでしょうけど。

はい。でもどうなんですかね? みなさん考えるんですかね。僕は歌を書くってなってから、無理矢理にでも考えてたんですよ(笑)。

-いや、考えるんじゃないですかね。初めて人を好きになる感情ってどう捉えていいかわからないから。

そうですよね。たしかに自分の中で初めての感情ですよね。一目惚れの感情とかも表現できてるかなと思いますけど。

-作品としてポップなものになってるなと思います。例えば「レンズ」も。好きな人ができると生活がきちんとするんだ、とか(笑)。

ははは(笑)。それはもう、僕自身のほんとのことで。

-そこがいいですよね。好きな人ができてコントロールを失うんじゃなくて。

あぁ。ま、でも、普段から失ってるんで上しかないんでしょうね。これ以上失わないように(笑)。どうにかして好かれたいって思いが強くて、ずっと片思いだったんで、まずは自分を正すのが先だと思って。だからここは僕のほんとに思っている感情ですね。

-かと思えば「君のいない初めての冬」ははっきり別れた感じでもないというか。

でもあっちには好きな人がいて、いい感じになっているという情報を聞いてるっていう僕の中の設定があって。だからきっぱり別れてるんじゃないかなと。

-プライドより自分の弱さを認めている内容で。

弱さを出す方向ですね。僕の歌詞のコンセプトは、全体的にそっちだと思います。

-小林さんの年齢としてなかなか驚きなのは「死ぬまで君を知ろう」なんですが。

そうですね(笑)。これは1年前ぐらいに作った曲なんですけど、なんでこのタイトルを付けたのかな......僕が30手前ぐらいになって、結婚するってなったときに言う"死ぬまで君を知ろう"とはまた違った意味で、これは大妄想というか自分の中の決意というか。死ぬまで君を知りたいっていう意味で。だから、これは壮大に見えて意外とみんなにも当てはまるような、ちょっとした恋愛がテーマの歌というか。

-"死ぬまで君を知ろう"って、たぶんもうちょっと先の自分が言うだろうなという意味合いも込めて?

そうですね。言うし、僕自身そうなりたいと思ってます。でもまだそっと心に秘めてるというか。

-そして今回3曲のアレンジでトオミヨウさんが入っていらっしゃいます。

僕自身、石崎ひゅーいさんとかあいみょんさんとか菅田将暉さんとかを聴いてて。で、最近、(トオミヨウさんは)玉置浩二さんの曲も、平井 堅さんの曲もアレンジをされているし。だからずっと自然と耳にしてきた曲調というか、音色というか。トオミさんらしさが出ている曲を知らず知らず聴いてきたんです。もちろんそのときはトオミさんが作っていることを知らないんですけど、こうやって改めてトオミさんと曲が作れるとなって、完成したものを聴いたときに"わっ! これだ"って、今まで僕が好きだったJ-POPの音だっていうふうに確信しましたね。なおかつ僕の曲の良さというか、声をかき消さない細かい重なりとか、いろいろ僕のこともちゃんと分析して考えてくれて。僕が好きなトオミさんの音楽で、トオミさんが思う僕のいいところを強化するという、お互いに高め合って作れた3つの作品が入っているので、聴いていただきたいです。

-「死ぬまで君を知ろう」はエヴァーグリーンというか、THE BEATLESから続いてるような曲なので、付け焼き刃的なプレイヤーだと無理だと思うんですね。

そうですね。これはほんとに思います。

-伊藤大地(Dr)さんと隅倉弘至(初恋の嵐/Ba)さんのリズム隊も素晴らしいし。

素晴らしいですね。ほんとに俺の曲かな? と思うぐらい素晴らしい曲に仕上げていただいてびっくりしました。

-小林さんのサビの上手い下手というより、このロング・トーンのエモーションをちゃんと支える音として、頑張りすぎてる感じじゃないけど。

上手いですよね。

-力の抜き方と入れ方のバランスが暑苦しくない演奏とアレンジが成されてるなと。

レコーディングにも参加していただいて鳥肌立ちっぱなしでしたね。特にストリングスを「レンズ」と「死ぬまで君を知ろう」の2曲に入れていただいて、初だったんですけど、ほんとに素晴らしいとしか言いようがない。目の前で聴かせていただいたんですけど、あんなちっちゃい楽器のどこからこんな音が鳴ってるんだ? という。

-アンプがなくても遠いところまで届きますよね。

そうですね。今回弾いてくれた吉田宇宙さんは、玉置さんのライヴで演奏されてた方なんですよ。だからほんとに自分は恵まれてるな、と思いながら。

-クレジット見て泣きそうですね(笑)。

泣きそうですね。トオミさんも玉置さんのライヴでピアノを弾いてて、秋山(浩徳)さんってギタリストも玉置さんのライヴで観ていた方なので、ほんとに豪華なメンバーで作らせていただきました。

-このアルバムには、小林柊矢さんがなぜ歌っているのかがよくわかる「プレイボール」という曲があります。他の曲のテーマとは違って。

この曲はそうですね。さっきお話ししたんですが、小1から野球をやってて。小学生のときの自分に書いた歌なんですけど、そのとき、野球チームが強かったんですよ。全国大会とかも行っていたチームで。だから、僕はなかなか試合に出られなかったんです。チームが全国大会行くんだって親に発表したらすごく喜んでくれて"絶対、スタメンとるからね"って言ってたんですけど、結果、当日スタメン発表で入れなかったんですね。でも、サブキャッチャーとしてグランドに立たせてもらって、親はそれを見て一生懸命写真撮ってるわけですよ。で、小学生の頃は、ずっと試合に出られなくてやめたいと思ってたけれど、このEPの題名にもなってるんですが、"あの頃の自分に会えるなら"まだやめるなって言ってやろうって思いを、小学生の自分にあてて綴った曲になってます。結構具体的な内容になってるんですけど、みなさんもどこか、いろいろな出来事の節々に絶対刺さるところがあると思いますね。

-いいですね、"叶わなかったやつだけに/叶うものがあるんだと"という歌詞。

これ最初は皮肉で言ったんですよ。小学生の頃スタメンだったやつに皮肉を込めて、今俺はこうやって頑張れてるぞって。でも書いているうちに、それは過去の自分を誇れるような歌詞に変わっていって。決心も込めて綴った詞ですね。

-そのときの自分にやめんなよと言うだけじゃなくて、その経験は野球を続けることだけに生きるわけじゃないから、皮肉というか、今は今で自分は好きなことをやってるよってことですかね。

そうですね。夢は変わったけど一生懸命走ってるよっていう。

-そして「僕が君の前から消えた時」はGeGさんがリアレンジされたんですね。

YouTubeに僕が高校生の頃に弾き語りした動画が載ってるだけなんですけど。配信はされてなくて。

-それを見てGeGさんがトラックメイクをやりたいと?

僕からお願いしたんです。SNSでフォローしてくださって、僕の歌声を聴いていただいてて。"ぜひやろう"と声をいただいて実現しました。

-こういう感じのトラックになっていかがですか?

僕としては、あの弾き語りの「僕が君の前から消えた時」はYouTubeに出てるんですけど、消化したいって言い方は悪いですが、どこかしらでは配信で出したかったんですよ。で、そのまま出すより、僕の幅といいますか、小林柊矢はこんな曲調も歌うんだぞって幅広さを出すために、こういうアレンジにしていただいたんですけど。なんかこの曲がまた違った曲に聴こえて。16歳のときに書いた曲なんで、歌詞も拙いですし、メロディももうちょっとこうしたほうがいいとか、だんだん浮かんできちゃうんですけど、それがちゃんと恥ずかしくないというか、素晴らしい曲に生まれ変わったなって印象になりましたね。

-最後に漠然とした質問で恐縮ですが、今後どんなアーティストを目指していかれるんでしょうか。

今まで話した内容でわかっていただけると思うんですけど、僕は全然天才でもないし、ギターを持ったのも遅いし。今の最前線で活躍されているアーティストさんたちみたいにすごい才能があるわけでもないんですけど、だからこそ、等身大の僕というか。上から手を引っ張れる存在ではないけど、聴いてるみなさんと同じ目線で、時には肩も組んで、一緒に成長していけるようなアーティストになりたいなと思ってます。