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INTERVIEW

Japanese

栞寧

2022年03月号掲載

栞寧

Interviewer:吉羽 さおり

どんな環境の人が聴いても届く音楽を作りたい


-何か、シンガー・ソングライターとして自覚していくうえのターニング・ポイントだったり、人物だったり、曲だったりはあったと思いますか?

2017年にミニ・アルバム『Honest』をリリースしたんですけど、そのアルバムを出したときは実感しましたね。自分の作った曲がCDになることが初めてだったので。曲を聴いて、覚えてライヴに来てくれる人がいて、聴いてくれている人がいるんだっていう気持ちになって、もっと届けたいなと思いました。

-それが今回のアルバム『yadokari』にも繋がっていくんですね。今回5曲収録されましたが、制作時期は近い曲たちが揃っているんですか?

結構バラバラでした。何曲もある中から、アルバムのテーマを決めてどんな曲がいいのかを考えて、スタッフみんなで選んでいったんです。今回のアルバムのテーマが、タイトルにもなった"ヤドカリ"なんですけど。今、この時期にリリースをすることと、現在の環境や状況をリンクさせたかったんです。音楽で言えば、今ライヴハウスが潰れてしまったり、大好きなフェスも中止になったり、音楽を届けるための大事な場所がどんどん減ってしまって。音楽以外でも、これまで当たり前だと思っていたことがなくなってしまった方や、やりたくてもやれなくなってしまった人もいると思うんです。そういうなかでのリリースは、すごく大事なタイミングだと考えていて。今を象徴する何かいい比喩というか、言葉はないかなと考えたんです。"yadokari"というタイトルにしたのは、ヤドカリは成長していく身体に合わせて貝殻を選んでいく生き物で。貝殻がないと身体が弱すぎてすぐに死んじゃうらしいんです。でも貝が小さすぎると動けないし、大きすぎると重たくてそれもそれで死んでしまうらしくて。成長を続けながら、ずっと自分に合うものを探してさまよって生きている生き物だと知って、これから明るい未来が待っているとも言い切れないけれど、自分で手探りで迷いながら探していくしかない気持ちとも合うなと思って、"yadokari"というタイトルにしました。

-「桜風」でも、別れやそれぞれの道を歩んでいくことが"終わることなんか無いんだよ/いつでも始まり続けている"とポジティヴに描かれますね。でも中には、「関係ない人」のような、恋愛の終わりの、シビアな面を綴った曲もあります。

そうですね(笑)。普段は、自分の心の中の言葉を使うことが多いんですけど、「関係ない人」に関しては、日常で見たことがあるものやリアルなものをたくさん歌詞に入れ込んでいるので、想像しやすいかなと思います。

-ドラマを観るように絵が浮かんでくる曲ですね。こういった曲は何かをきっかけに、想像力が広がっていく感じですか?

恋愛ソングを聴いていると、ごめんねとか私が悪かったとか悲しいっていう曲が多いなと思っていたので。そうじゃなくて、あんたが悪いよっていう曲があってもいいんじゃないかなと思って作りました。今までこういう曲は作ったことがなかったので、チャレンジでもありましたね。

-そういう曲をグルーヴィな洒落たアレンジで響かせるバランスも絶妙です。

これでバラード調だったら重すぎますよね(笑)? でもひどい言葉はあまり使っていないんですよ。嫌いだとか最低だとかっていう言葉よりも、ただあったことを淡々と並べている感じで作っていて。きっと、恋愛に限らずですけど傷ついている人が多いと思うので、落ちていくよりも、その曲を聴いて"あぁ、もう自由だ"って気持ちになれたらいいなと考えています。

-アレンジはこういう雰囲気がいいとか、こんな音を使いたいというのは、曲を作る段階でも思い描いている感じですか?

そうですね。「関係ない人」では、JAMIROQUAIのようなドラムのループ感は意識してました。曲ができたときは、サビが最初にできてもともとAメロはもっとメロディアスな感じだったんですけど。これまでやってないことをやってみようと思って、流れでああいう感じになっていって。曲を作るときはギターだけなので、そこまですべての音を思い描いていることはないんですけど、アレンジ段階で、こういう方向性でいこうかっていう感じで決めていきましたね。

-「桜風」や「魔法の言葉」などはストリングスが効いていて、こちらも歌や情景が広がるアレンジになっています。

今回のアルバムはいろんな楽曲が入っていると思います。聴いていて飽きないというか、全部自分も好きな曲ですし、ジャンルレスな5曲なので。2022年にリリースするアルバムということで、いろんな栞寧の音楽が聴けたと思ってもらえたら嬉しいです。

-1曲目の「maru。」は喪失感やその悲しみが描かれた切ない曲です。曲の始まり、原点はどういうものでしたか?

この曲は、2~3年前だったと思うんですけど、曲が思うようにできなくなってどうしようって悩んでいるときにできた曲だったんです。すごく不安だし落ち込んでいて......でも、そこからサビが生まれた曲でした。曲ができなくて、どうしようって苦しんでも、結局何もできないし。もし泣いて解決するならずっと泣いてたらいいの? みたいなことを、メモに書いていたんです。そこからメロディができて。この曲が、誰かが落ち込んだときにそばにいてあげられる曲になればいいなって思って、曲にするに当たっては、ただ自分の心境を歌うよりも恋愛のテイストを入れて、より共感できるものにというのはありました。悲しい気持ちはたぶん一緒というか、感情としては同じだと思うので。

-そうだったんですね。曲ができないということを、どう乗り越えたんですか?

そのときは、めっちゃ悩んでいたら結果的にいい曲ができたので。逃げないことですかね。思っていることを書いていたらメロディになっていたという感じで──もともとはそういう作り方だったんですよ。

-段々とそれだけでは難しくなることもあった。

そうですね、歌詞から最初に書くと文字数が決まってしまうので、いいメロディが思い浮かんでも歌詞を変えなきゃいけないとか、そこでぶつかることはありました。それで悩むなら、じゃあメロディから作ってみようとか、デタラメ英語みたいなので作るとかもありましたし、テーマを設けてそれに合った曲を書くということもしてましたね。曲ができなくて悩むことが嫌だったんです。どうやったらできるのかがわかってしまえば、いつでもできるんだなという状態にしたくて考えました。

-この「maru。」のときは、できない時間がどのくらい続いたんですか?

当時、1週間に最低1曲は作るようにはしていたんですけど、できないときは3ヶ月とかできないことがあって。

-となると苦しいですね。

週1で作っていたときも、あとあと聴いたらこれ同じ曲じゃんって思うものもあったので。ボキャブラリーを増やしたり、作る順番を変えるだけで全然違ったりもしたので、それを見つけられたときはだいぶ気持ちが楽になりましたね。でも曲を作るのはすごく好きなんです。より楽しくなりました。

-このアルバムに揃った5曲はいろんな作り方をした曲ですか?

いろんな作り方をしていますね。「魔法の言葉」は、これぞシンガー・ソングライターっていうまっすぐに歌い上げる曲を作りたかったので、ピアノで作った曲だったんです。いつもはギターで作っているんですけど、ピアノで曲を作るとなぜかバラードができるんですよ。なので、がっつりと歌い上げるバラードが作りたくてピアノで作っていますね。「魔法の言葉」では、ありがとうを言うまでのエピソードみたいなのを歌詞にしているんですけど、これは父ちゃんが"ごめんねとありがとうは魔法の言葉だ"と言ってて。"それが言えるか言えないかで、いろんなことが変わってくるよ"っていう話をされたことがあったんです。ピアノを弾いていたら、その話がポンと出てきましたね。

-この約2年、コロナ禍が及ぼした日常や人との関わりでの変化が、ソングライティングに影響しているなとか、伝える難しさを感じたとか、逆にこういうことを歌いたくなったみたいなことはありますか?

今の世界の状態、例えば直接的にコロナをテーマにして作ることはなかったですね。ただ、コロナが流行り始めた当初、30秒手洗いするといいというのがあって、自分もやっていたんですけど。手を洗いながらふと、30秒で人生を変えられるのかみたいなことを考えて。30秒でウイルスが消えて、ウイルスがなくなることで大事な人を守れるとか、大事な人を守るためにこの30秒があると思って、できた曲はありましたね。

-出来事から発想していったわけですね。

それで、30秒で自分を変えられるという曲を作ったんです。そのサビも30秒で終わるもので、サクッと作ってSNSに載せたことはありましたね。ただ明確にコロナっていうものを入れることはなくて。相手を変えるよりも、自分を変えるほうが早いし、それってもしかして30秒で全部いい方向に変えられるんじゃない? みたいな、そういう曲を作ったことはありましたね。

-普遍的なものにしたいという思いが強いんですね。

そうですね。受け取る側に任せたいところもありますし、どんな環境の人が聴いても届く音楽を作りたいので。例えば、恋愛で悩んでいても友達関係で悩んでいても仕事で悩んでいても、ひとつの曲がみんなの心に届くってすごく素敵だなと思っているんです。それがもしかしたら、あまり明確にしないことなのかもしれないし。部分的に目に見えることやリアルなことを入れることで、より心の距離が近くなって共感度が増すかもしれないし。そこのバランスはすごく考えています。そうすることで、後にライヴをしていくときに、自分もより入り込めるんです。そこで話す言葉も変わってきますし、いつでもまっすぐに歌えるようにというか。

-自分でも、歌い続けていくことで気づくこともたくさんありそうですしね。

そうですね。以前はこういうことで悩んで作っていたけど、今のこの悩みとも合っているなって思うときもあります。

-以前書いた自分の歌に助けられるようなことも?

これって自分なの? って思うときはあります。ステージに立っていないときって、あんなにまっすぐしてないというか(笑)。自分のライヴ映像を観たり、自分のリリースした曲を聴いたりしたときに、未だにこれ自分なの? って思うことがあるんです。ステージに立ったらそんなこと思わないんですけどね。普段は、考え込んじゃうこともマイナス思考になることもあるし、だからこそ自分の曲を聴いたときに、え? みたいなことはあります。

-改めて背中を押されるというか、叩かれるというか。

そうですね(笑)。

-アルバムがリリースされて、ここからのライヴについてや、こんなライヴをやってみたいなどありますか。

まだ具体的な予定はないんですけど、やっぱり目の前で歌を聴いてもらいたいのでライヴはやりたいですね。普段は弾き語りでのライヴが多いんですけど、今回のアルバムはアレンジで不思議な音が入った曲も多いので、そういうのも生で出せるような、打ち込みでパッドを叩いてやるような、新しいスタイルとかでやってみても面白いかなと思っています。バンド・セットもバンド・セットの楽しさがあるし。そもそもギターと自分の声だけで作っている曲なので、それを弾き語りで聴いてもらえるのも嬉しいですし。いろんなことをしたいですね。