Japanese
JASPĘR
Interviewer:吉羽 さおり
今年7月、SNS上に登場し、その柔らかな光を湛えたチル・ヴォイスでリスナーを増やしているシンガー、JASPĘR。デビュー・デジタル・シングル「Lune」に続き、10月16日には早くも2ndデジタル・シングル『Heal』をリリースする。J-POP、エレクトロ、ヒップホップなど様々なサウンドの要素を感じるポップなトラック、オートチューンによるキャッチーなヴォーカル、またヴィジュアルのイメージも毒っ気とフレンドリーさがあるが、その歌は不器用に生きる人にとても優しい。生きにくい時代や頭と身体とがちぐはぐになってしまうような日々に、そっと寄り添い手をとってくれる音楽だ。謎めいた存在のこのシンガーが、JASPĘRに込めた思いとはなんなのか、話を訊いた。
-まずは、JASPĘRがどんなアーティストなのかというところからお聞きしていこうと思いますが、JASPĘRとして音楽活動はどのような経緯でスタートしたのでしょうか。
JASPĘRの名前の由来となった、ジャスパー(碧玉)という石があるんですけど。その石には、身につけることで精神的な安心感、安定感をもたらすという言い伝えがあるんです。このJASPĘRの音楽を通して、例えば今悩んでいる人や苦しんでいる人、精神が不安定になってしまっている人が、安心感を持ってもらえたらという思いで、歌を始めたんですよ。僕自身、このJASPĘRを始める以前にいろんな出来事があって、苦しんでいた時期があって。そのときに、音楽で勇気や生きる希望を与えてもらったので。今度は僕が、その立場になって何かをしてあげられたらという思いが原点でしたね。
-自分の音楽的なルーツとなったもの、また好きな音楽っていうとどんなものが挙げられますか?
聴く音楽はオール・ジャンルですね。曲や曲の雰囲気、歌詞がいいなって思ったら、もう好きっていう(笑)。音楽を始めようってなったきっかけは、バンドで。バンドのライヴを始めてみて、すごくかっこいいなとなったのが、自分もやってみたいと思ったきっかけでした。
-どういうバンドだったんですか?
パンク・バンドですね。幼少期から海外に住んでいたんですけど、そこでローカルなバンドを間近で観たときに、すごい迫力というか、何か感じるものがあって。そのときは音楽的なことやどんなことを歌っているのかはわからなかったですけど、僕もやってみたいなっていうのが最初でした。
-何かわからないけれど、衝撃があったんですね。海外での生活は長かったようですが、そこで自分の居場所についてギャップを感じたこともあったんですか?
最初の頃はもちろん、英語も喋れない状態だったし、周りにうまく馴染めなかったんですけど。幸いなことに僕の周りは優しい人たちばかりで、僕に興味を持ってくれたんです。僕はスケートボードとか、あとは日本のアニメとか日本の文化が大好きだったので、そういうものを通じてコミュニケーションをとることができて。おかげで仲良くなれたんですよね。僕自身はとてもいい時間だったなって思っていますね。
-そのスケボー繋がりでパンク・ミュージックにというのもあったんですかね。
それもあったと思います。でも、何よりバンドがみんな、ステージで楽しそうにやっているのが伝わってきて、魅力的だったんです。それで、初めてライヴを観たときにすぐやりたいなって思って。本当に一緒にやってくれる人たちを学校で探して(笑)。すぐにギターを買って始めました。当時はパンクとか、スクリーモとかハードコアとか、そっち系が好きでしたね。
-友達とバンドをやった時期は長かったんですか?
そうですね、向こうでもやってましたし、日本に帰ってきてからもやっていました。
-そうしたパンクというルーツと、現在のJASPĘRの音楽はまた違うものですよね。
最初はパンクから入ったんですけど、自分でも音楽を作りたい、バンドの曲を作りたいとなっていって。パンク・ミュージックってすごくコードが簡単で、コード進行もシンプルなんですよね。でも、曲作りをするなかでいろんな曲を聴いていると、例えばJ-POPだったらいろんなコード進行が使われているなとか、複雑なことをやっているなっていうのも段々とわかってきて。自分もそういう音楽を作れたらいいなとなってきたんです。そうやって自分でも曲を作ったりし始めてからは、もっといろんなジャンル、ジャズやヒップホップも聴くようになっていったんですよ。
-いろんな音楽に触れて、そういういろんな音楽を取り込んだ、いわばそのミクスチャー的なものが自分にフィットするんじゃないかと?
ただ、時期によって例えばK-POPを聴くときもあればヒップホップを聴くときもあるし、ジャズを聴くときもあるし。自分のその時々の心情に合わせて聴く音楽や、好みの音楽を選んでいるのかなって思うんです。
-今興味があるのって、音楽的にはどんなところですか?
JASPĘRを始めてからは、ヒップホップ要素も入れていきたいと思っているので、いろんなラッパーの曲やK-POPをよく聴くようになりましたね。でも、そういう音楽をただ真似るとかではなくて、JASPĘRとしてのオリジナリティ、僕にしか作れない音楽を追求していきたいと思っているので。流行っているものを取り入れつつも、自分が伝えたいメッセージやオリジナリティをうまく融合できればというのは、常に意識として持っています。
-夏にリリースした1stシングル「Lune」は、自分のための道を歩いていこうということではJASPĘRの決意表明的な曲ですね。
「Lune」では僕がJASPĘRを始めるきっかけというか、まず自分の気持ちを伝えたいと思って作った曲だったんです。ひとりで苦しんでいるとき、今つらいなって人が聴いたときに少しでも前向きにというか、生きる希望を持ってもらえるような曲にしたくて。作詞作曲を武藤弘樹さんにお願いしているんですけど、"こういう曲を作りたい"というもの、メッセージを伝えて、やりとりをしながら作っていったんです。僕としては、完全に僕の色というよりは、作っていただいた方の色も入れたかったので。それがうまく融合できたのかなと思います。
-この言葉だけはどうしても入れたかったというのはありますか?
サビの"Next for myself"、次は自分のためという意味なんですけど。そこは、こだわりました。「Lune」は、他者や周りの人のために頑張っていたことが、あるとき急に全部壊れてしまって、ここから自分がどうしたらいいかわからなくなってしまったという心境の曲なんですけど。それに対して、周りじゃなくて、次は自分のためを思って頑張ればいいんじゃない? っていうのを伝えたくて。それでこのフレーズをサビの頭に持ってきたんです。
-そういった思いを、恋愛をモチーフにして伝えているのは?
恋愛という形が一番伝わりやすいのはあるんじゃないかなと。でも、今自分が頑張っていること──学業や仕事など、あると思うんですけど、コロナ禍になってそれが急になくなってしまって、どうしようっていうことも今はきっと多いと考えているんです。だからこそ、いろんな面で、共感していただけるのかなと思って。
-JASPĘRとしても最初のレコーディングになったと思いますが、レコーディングはどうでしたか?
レコーディングに対しては、自分なりのこだわりがあったんですけど(笑)。武藤さんはそれに対応してくれたので、すごくやりやすかったですね。歌の音量のバランスであるとか、あとは、JASPĘRは歌にオートチューンというエフェクトをかけているんですけど。普通レコーディング時はオートチューンをかけないで、あとからかけるものなんですけど、自分としては、歌っているときにかかっていたほうが雰囲気や歌のノリも出せるなというのがあったので、それも対応してもらって。要望通りにやらせてもらえたのは良かったですね。
-自分の中でもしっかりと曲の世界観があったんですね。エフェクティヴでありつつ、柔らかなヴォーカルが印象的ですが、こういう声、ヴォーカルだからこそ歌える曲もありそうです。
そうですね。でも実際、僕は自分の声や歌には自信がなくて。今まで、バンドはやってきましたけど、ヴォーカルをやってこなかったこともそれが原因かもしれないんです。JASPĘRを始める少し前くらいに、いろんな方に自分の声を褒めていただいたことがあって。"もっと自分の声を生かして、何かやってみたらいいんじゃない?"って言われるようになったんですよね。それでやってみようかなって思ったのも、JASPĘRを始めたきっかけかもしれないです。
-バンドはやってきたけど、それを自分の歌で伝えたことはなかったんですね。
音楽はもちろん好きだったんですけど、ギター、楽器にしか触れてこなかったので。まさか自分が歌うことは考えていなかったんです。それを今やっているのは自分でも不思議ですね。
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