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INTERVIEW

Japanese

黒子首

2021年08月号掲載

黒子首

Member:堀胃 あげは(Gt/Vo) みと(Ba) 田中そい光(Dr)

Interviewer:秦 理絵

昨年、ミュージック・ビデオが公開された「Champon」が再生数を伸ばし、憂いと激しさを湛えた独特の世界観がじわじわと広がりつつある黒子首。2018年の結成以来、2枚のEP『夢を諦めたい』と『旋回』を経て、待望の1stフル・アルバムを完成させた。バンド初期のジャジーでアコースティックなサウンドを基調としながらも、黒子首流のポップスを突き詰めた今作はエレキ・ギター、シンセ、ホーンなどを積極的に取り入れることでバンドの新境地を切り拓いた。メロウな楽曲に注目が集まる、2021年代のトレンドにもフィットしたポップ・ミュージックでありながら、型にハマらないセンスが光る。彼女たちは、いかにしてこの唯一無二の黒子首ワールドを作り上げたのか。メンバー全員に訊いた。

-去年、「Champon」のミュージック・ビデオを公開したことで、黒子首の名前が広まっていきましたね。この状況はどんなふうに受け止めていましたか?

堀胃:ちょうど「Champon」のMVを公開した時期に、このコロナの時代になってしまったんです。ライヴが全然できないなかで、たくさんの人がコメントをくださって、"徐々に広まってるんだな"っていうのは感じてました。で、いざまたライヴができたときには観にきてくれる人も増えてて。すごく嬉しかったです。まだ全然いけますけどね(笑)。

みと:やっぱりライヴができるようになって、"あ、待っててくれてる人がいるんだな"って実感しましたね。

そい:今までは泥臭く、というか。路上ライヴとかで聴いてくれてる方を増やそうとしてたんですよ。MVが出たことによって、路上ライヴだけでは届かなかったような人にも届いた感覚があって、嬉しかったです。

-そもそも「Champon」は、作ったときから自分たちでも手応えを感じていたんですか? "これは、いけるぞ"みたいな。

堀胃:「Champon」を作ったときは、私が不登校になってダウンしてて......でもまぁ、世界とはうまくやっていかないといけないっていう皮肉を込めて作った曲なんですね。

-たしかに"淀んだ世界と手を繋ぐのさ"という表現もありますね。

堀胃:そうですね。私的にはそういう悪い部分を閉じ込めちゃった曲なので、ちゃんと人に届くか不安だったんです。出してみて、"こういう曲が届くんだな"って気づいたところはあったかもしれないです。

そい:逆に、私はあとから加入したんですけど、Twitterで「Champon」の動画があがってるのを見て、"あ、なんだこの曲すげぇ"ってなって。

堀胃:へーっ!

そい:その衝撃を今思い出しました。今でこそ演奏するのも慣れちゃってますけど。

-どういうところが衝撃的だったんですか?

そい:"あっかんべー"って言っちゃったよ、この人、みたいな。

堀胃:たしかに(笑)。

-歌詞がユニークですもんね。じゃあ、のちにバンドに加入して一緒に演奏できることになったときは嬉しかったですか?

そい:めちゃめちゃ嬉しかったですね。どうしてやろうかって。

みと:当時私は、不登校のときに作ったっていうのを知らなかったので。単純に"あ、いいな、この曲"って思って。(軽い感じで)"「Champon」っていう曲にしようよー"って言ったんですよ。......ごめんね。

堀胃:謝られちゃった(笑)。

みと:"チャンラックン ポムラックン"って歌ってるから、両方混ぜて"チャンポン"にしちゃえっていう。

堀胃:でもそれがハマったんです。"チャンポン"って、ごちゃまぜっていう意味があるから、世界と自分の感情とのごちゃまぜ感が表現できるかなって。あと、チャンとポンは男女っていう意味があるので。恋愛ソングにも捉えられる。ナイスでした。

-「Champon」はEP『夢を諦めたい』(2019年リリース)の収録曲で、それが黒子首のデビューEPだったわけじゃないですか。

堀胃:はい。

-バンドのデビュー作に"夢を諦めたい"っていう言葉はあんまり選ばないと思うんですど、当時どういう心境で作ったものだったんですか?

堀胃:"夢を諦めたい"っていう言葉が文法として、まずおかしいと思うんですよね。夢を諦めたいと言ってる時点で、たぶんそれは夢を諦められない人。夢は"叶える"、または"諦める"っていう使い方が正しい。だから"諦められない"っていう部分に重きを置いた作品なんです。自分的にはかなりポジティヴな気持ちで作ったものだったんです。

-なるほど。翌年には2nd EP『旋回』が発表されました。この作品に寄せては、"自分たちで進路を決めて、ここからスタートしていく"という作品だったそうですが、バンドの中で何かモードが変わっていたんですか?

そい:あー......でも、変わったかも。わかりやすい部分で言うと、レコーディングの仕方を大きく変えて。自分たちで決めていこうっていう方針になっていったんです。今まで導かれていた道筋から多少ハズれるかもしれないけど、自分たちで道を選んでいくっていう意味で、"旋回"にしたんです。

-当時プロデューサーというか、第三者の方に導かれていたところもあったけど、そのタイミングからは、もっと能動的に自分たちで決めていくことにした?

堀胃:そうですね。"こっちだぁ!"みたいな。私たちの中では、作品を出すごとに1章ずつ区切りがついていくイメージなんです。だから、完全に第2章としてスタートしたっていうのが、『旋回』だったかもしれないですね。

-これは今回の最新アルバム『骨格』にも繋がる話かもしれないですけど、2nd EP『旋回』あたりから、かなり作風もポップスに近づいたなって感じたんですね。

そい:そうですね。『旋回』からは(ポップスを)意識するようになったと思います。なんて言えばいいんだろう.........『夢を諦めたい』までは"堀胃あげは"だったと思うんですね。で、『旋回』でバンドになれた気がするんです。そこから今回のアルバムで、黒子首を作りあげた、みたいな。そんなようなイメージですね。

堀胃:"夢を諦めたい"ぐらいまでは、自分の中の気持ちを救済するためにしか曲を作れてなくて。それをアレンジして楽曲にするときも、ただそれを装飾してもらうようなイメージだったんです。で、『旋回』の曲を作ってるときぐらいで、ドラムがそいに変わって。自分の曲を客観視してもらったときに、"ポップスに昇華したほうが伝わるんじゃないか"って言われて、それで意識するようになりました。

-『旋回』の収録曲で、今回のアルバムにも収録されてる曲というと、「チーム子ども」ですよね。このあたりに今話してくれたことが反映されてるのかなと思います。

堀胃:「チーム子ども」は、尊敬してるバンドの先輩がきっかけですね。その先輩が27~8歳ぐらいのときに、ここから夢を叶えるのは無理だと思ってる、みたいなことを言っていて。でも、すごくいい音楽をやってるから、"そんなことで諦めるんですか?"っていう気持ちで書いた曲なんです。

-じゃあ、そのバンドの先輩に向けて、それでも自分たちは子供みたいに無邪気に音楽をやり続けていくんだ、みたいなことを言いたかった曲?

堀胃:そうですね、そこに自分たちの気持ちも投影してる感じですね。誰しも心に子供を飼っていると思うので。

-ここまでの黒子首の歩みの中で、自分たちのターニング・ポイントになったなと思う曲は他にありますか?

そい:んー......「時間を溶かしてお願いダーリン」ですかね。

-昨年発表した1stシングルですね。

そい:出したい曲はいっぱいあったんですけど、この曲をシングルに選んだのが、今作に繋がっている気がするんです。これから自分たちはポップスをやっていくんだっていうのを、聴いてくれる人たちに示せたというか。あとは......「エンドレスロール」もかな。これが、今回のアルバムの始まりなんですよ。

-「エンドレスロール」は悲しみと決別するミディアム・テンポですね。どういう意味で、バンドのターニング・ポイントになったと思うんですか?

堀胃:私はまっとうな恋愛の曲を書くことを避けてきてしまったところがあったんですけど。尊敬している映像の監督さんに、"このタイミングで真実の愛について書いてみては"って言われて、それで真剣に書いてみたんです。

-どうして恋愛の曲を書くことを避けていたんですか?

堀胃:たぶん恋愛よりも人生自体に悩んでることが多かったので、自然とそっちを書くことが優先になってたんです。まぁ、今まで書いていた人生の曲もラヴ・ソングの要素は含まれてはいたんですよね。何かに対する愛の歌だから。そういうのもあって、自分でもちゃんとひとつ愛に関する曲を作ってみようと思えたんです。

-できてみてどう思いましたか?

堀胃:結果、悲しくなっちゃうんだなと思いました(笑)。

みと:なっちゃうよね。

-今回のアルバムを作るにあたっては、"ポップスを目指す"というのが、ひとつの到達点だったんですか?

堀胃:それを意識してたのは『旋回』のほうだったと思います。今はもう自分が作る曲の中に自然とポップスの要素を含むようになってきたので。今回の『骨格』は、それをさらに突き詰めたっていうところですね。

-"突き詰める"という意味では、これまではアコースティック・ギター、ベース、ドラムっていう3ピースのアンサンブルが主軸でしたけど、今作ではいろいろな楽器を積極的に取り入れましたね。

堀胃:もともと3つの楽器でやることが自分たちのアイデンティティだと思ってたので。『旋回』まではそのスタンスを崩さずにやってきたんです。でも、曲を弾き語りで作り終えたときに、どうしても頭の中で鳴ってくる音があるんですよね。それを追求した結果、たとえ他の音が鳴ってても、自分の何かが損なわれることはないんじゃないかなって思えるようになって。今は不安なく(他の)音を出せるようになったんです。

-自分の表現に少し自信を持てるようになった?

堀胃:かもしれないですね。

そい:なんて言うのかしら......もちろん3人だからこそストイックに表現できる世界観みたいなのもあったんですけど、足して表現できる世界が増えるなら、そうしたほうが良くない? って気づいちゃったんです。