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INTERVIEW

Japanese

Bye-Bye-Handの方程式

Bye-Bye-Handの方程式

Member:汐田 泰輝(Vo/Gt) 岩橋 茅津(Gt) 中村 龍人(Ba) 清弘 陽哉(Dr)

Interviewer:秦 理絵

-「最終トレインあの子の街へ」も含めて、今作はそれぞれの楽曲がまったく違う方向に振り切ってるなと思いました。そのあたりは意識したんですか?

泰輝:曲ごとに、"この曲はこういうつもりです"ってのは決めてました。例えば、「甘い記憶」は70年代のアイドルっぽくとか、「romance tower」は、もともとフォークっぽいミドル調の曲で、TULIPみたいなイメージで作ってて。今の状態で聴くと想像がつかないですけど、アコギで聴くと、フォーキーなメロディなんですよ。そういうのは1曲ごとにありますね。

-目指すゴールが明確だと、メンバーも同じ方向を向きやすかったんじゃないですか?

陽哉:そうですね。特に「甘い記憶」はわかりやすかったです。でも、70年代のアイドルをそのままやるのは、泰輝が求めてることではないので。あくまでもバイハンサウンドにするというか。いかにそれを噛み砕いて自分たちの音に取り入れるかを考えるのは楽しかったです。

-「甘い記憶」は、わかりやすく70年代ポップスへのオマージュですね。

泰輝:それが僕らとの相性が良かったんですよ。

-ええ、わかります。

泰輝:いろいろなことを試したなかで、初めて歌謡曲的なものをコンセプトにした曲を真面目にやろうと思ったのが「甘い記憶」だったんですけど。いざやってみたら、"こんなに合うの?"みたいな。自分たちの居場所を見つけた感じがしました。これから、おじいちゃんになるまで、いろいろな音楽をやりたいと思ってるんですけど。年をとって、21歳のときの自分の作品を聴いたときに"あ、ここから始まっとるんやな"って言える、それぐらいのものになったんじゃないかなと思ってます。

-そこまでの手応えだったんですか。

泰輝:僕は洋楽を聴かない人間なんですよ。でも、逆に茅津は、洋楽から音楽を聴き始めてたから、ルーツは真逆なんです。でも、歌謡曲って洋楽なんですよね。

-70年代、80年代のアイドル歌謡というのは、60年代のアメリカの音楽の影響が大きかったりもしますからね。

泰輝:そう。洋楽やのに僕の庭の中におる、みたいな。

茅津:僕は、もともとAEROSMITHとかアメリカのハード・ロックを好きになって、日本の音楽を聴くようになったんですね。だから、「甘い記憶」は楽しくて仕方なかったです。

泰輝:デモでアガってたな。今回は初めてお互いの言語同士で作れた感覚があるんですよね。"僕、それちょっとわからん"ってならずに、やっとみんなのいいところを引き出せた喜びもあるんです。自分の歌詞や、メロディが褒められるのも嬉しいんですけど、今回は先に聴いてもらった関係者の人たちに、それぞれの楽器の演奏を褒められることも多くて。アンサンブルの部分で、メンバーの良さを引き出せたのが僕的には一番嬉しいんです。

-曲を作るうえで、みんなで歌謡曲を聴いたりしたんですか?

陽哉:車に乗ってるときに聴いてますね。だいたい、泰輝のセレクトですけど、たまに茅津が流したりして。僕らにとって音楽を共有する時間なんです。

泰輝:制作に入ってから、"これを聴いて"っていうんじゃなくて、その前に刷り込ませるんです。これからやろうとしているものが僕の頭の中にあるから、"今、僕の推し曲なんです"みたいな感じで、みんなで共有しておく。そうすると、実際にやるときに全員が知ってるから、話が早いんです。

陽哉:僕ら、操られてるなぁ。

龍人:洗脳や。なんか怖なってきたわ(笑)。

茅津:でも、そのほうがやりやすいよね。

-80年代のアイドル歌謡は何を聴きましたか?

泰輝:松田聖子さんとか斉藤由貴さんの「悲しみよこんにちは」とか。よく聴いてたのはバンドの音楽ではなかったですね。女性アイドルをたくさん聴いてた気がします。

-自分たちとしてはできあがった作品がポップスだと感じてますか? ロックですか?

一同:えー、難しい......。

泰輝:まぁ、僕はポップスですね。

陽哉:僕はロック寄りかな。

龍人:俺はポップス。

茅津:うーん、ギタリスト的にはロックですかね。

-半々ですね。ちなみに私はロックだなと思ったんです。たぶんこのアルバムは聴く人によってそのあたりの感覚は違うと思うし、衝動的なロックにも、ノスタルジックなポップスにも捉えられるハイブリット感が魅力だなと思います。

泰輝:たしかに。まぁ、ロックかポップかというのは置いといて、そもそもバンドっていうものにもこだわりはないかもしれないですね。大衆が聴けば、それがポピュラー・ミュージックになっていくから、僕が決めるような話でもない。でも、ポップ・ソングではありたいという感じかもしれないです。

-なるほど。では、アルバムに収録されている他の曲に関しても聞かせてください。「夢送り競走曲」で使ってるのはウクレレですか?

泰輝:ギターバンジョーっていう楽器です。もともと僕が作ってる曲に求めてた音があったんですけど、なんの楽器がわからなくて。最初はマンドリンやと思ってたんですけど、違うってなって、楽器屋に見に行ったんです。で、アコギ・コーナーに置いてあったバンジョーとギターバンジョーを試奏させてもらったら、"これやん!"って。絶対このアルバムに必要だと思って、その場で買いました。

-思い切りましたね。

泰輝:いずれ返ってくるお金やと思って(笑)。

一同:(笑)

泰輝:この1曲のためだけに、茅津にバンジョーをイチから弾かせるのは酷やなと思ったので、せめてギターバンジョーならギターのスケールならいけるから、そっちにしました。

茅津:それでも大変でしたね。やっぱり感覚が違うので。

陽哉:めっちゃ練習してたもんな。

茅津:うん。最初は"あ、やっぱり僕か......"と思ったんですけど、完成してみたらこれじゃなきゃ表現できないなっていうのはわかったから、正解やったと思います。泰輝はウッディなイメージって言ってたけど、僕はスヌーピーをイメージしながら弾いてるんです。

-スヌーピー?

泰輝:大阪のユニバ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)に、スヌーピーエリアがあって。子供が遊ぶ用のエリアなんですよ。そこで、バンジョーの音が流れてるんです。

茅津:スヌーピーのテーマ・パークで、こういう曲があったらいいなってイメージですね。

泰輝:ちなみに、この曲はリズム隊がいないので、"ミンティア"を振ってリズムを入れてて。

-シェイカーがなかったんですか?

泰輝:いや、用意はしてたんですけど。

茅津:誰かが冗談で、"「ミンティア」を使ってみたら"って言ったんじゃない?

泰輝:僕。僕、ずっと"ミンティア"を食ってるんですけど、どっかに入れたいなと思ってて。

-残ってる中身の個数で音が変わりそうですね。

泰輝:そうそう。終わりかけのほうが、中身が行きたい放題で鳴りがいいんです(笑)。

-話を聞いてると、その場で"これをやってみよう"っていう遊び心もあるし、レコーディングの風通しも良さそうですね。

泰輝:超幸せな時間でしたね。今回、4日間ぐらい泊まり込みでレコーディングをやらせてもらったんです。缶詰になって。それも初めてやったんですけど、すっごく楽しかったです。仲間と規則正しい時間に寝て、規則正しい時間に起きて。僕は歌わなあかんから、先に朝風呂に入ってコンディションを整えて、みんなでお昼ごはんをしっかり食べてから、レコーディングをやる。で、夜の10時ぐらいに"あー疲れた、何食う?"みたいな感じやったんですけど。こんな楽しいことある? みたいな4日間やったんですよ。僕らはライヴよりレコーディングのほうが好きなんですよね。

茅津:できあがっていく達成感がいいよね。

泰輝:ライヴは短距離走なんですよね。逆にレコーディングはちょっとずつ積み上げていく長距離走なんです。めっちゃ集中してるから、僕はヤバい空気を放ってたと思うんですけど、終わったときの満足感がすごくて。これに代わる幸せは他にないなと思いましたね。

茅津:今思い出しても、めちゃめちゃ楽しかった。

泰輝:メンバーは大はしゃぎしてましたからね。僕はお酒を飲めなくて、みんなは飲めるから。1日が終わったら"泰輝、ごめんな。始めるわ!"みたいな感じで。僕は、それを見て、"やれやれ......"って思いながら、ヨーグルトを食ってました(笑)。

龍人:たぶん僕が一番楽しんでたよね?

泰輝:修学旅行みたいやったね。

-そういう空気感だと、7曲目の「目を閉じるだけ」あたりは、ライヴを意識した一体感のあるムードで作れそうですね。

泰輝:これはレコーディングの1週間前に入れることにした曲なんですよ。

茅津:急にきたから、困りました(笑)。

泰輝:ディレクターから、もう1曲アップテンポなやつが欲しいね、という提案があり作ったんですけど、結果的に、"これがなかったらダメじゃん"みたいな曲になって。

茅津:ないとあかん曲ですね。

泰輝:そういうのを指摘されて、納得できたことが嬉しかったんです。よくある"音楽業界の圧力が......"みたいなのがあるのかなと思ったら、ちゃんと僕らの作品のことを考えてくれてるから、全員が"そのとおりですね"って受け入れられた。ポジティヴに変更できたんです。

龍人:個人的にはアルバムの中で推し曲です。

泰輝:ただ、めっちゃムズくて、ライヴでやるのが乗り気じゃないっていう。特にギターとドラム?

龍人:そう、イジけてるよね(笑)。

泰輝:今スタジオで合わせてるんですけど、ヒーヒー言ってますよ。

茅津:何も考えずに作りすぎちゃったんです。座りながら作ったんですけど、立って弾くことを想定してなかったから、"こんなところ、立って弾かれへん!"みたいなところがあって。

陽哉:僕も、ドラムを決めるときに打ち込みで作るんですけど、打ち込みだからやりたいようにできるんです。"これ、めっちゃかっこいい。入れよう"って作ってたら、叩けなくなりました。

一同:あはははは!

陽哉:ブーブー言うんですけど、"お前がつけたんやろ"って感じですよね。

-この曲、"目を閉じるだけ"というタイトルが素敵だなと思いました。

泰輝:この曲調だと、トゲトゲしい歌詞になりそうだけど、意外と繊細なんですよね。

-大人になることへの葛藤とか、恋人との関係性に終わりを意識してしまうこと。そういう見たくないものに対して、"目を閉じるだけ"と歌ってる曲ですよね。

泰輝:うん、これはコロナ禍だから生まれた歌詞ですね。コロナ以前も、ニュースで残虐な殺人事件とかが流れてきたときに、僕はずっと、"これを知ってどうなるんだ?"みたいな気持ちがあったんです。どこかで誰かがこんなかたちで殺害されましたというのを聞いても、僕が今からやれることはないやんって。毎日、感染者の人数はどれだけですっていうニュースもそうですよね。それを知ることも大事やけど、逆に目を閉じることも必要だよねっていうか。あえて目を閉じることで、自分がどうしたいの? というものを見つける時間にあてたほうが、もっと何かに繋がるものがあるんじゃない? って。諦めからのポジティヴな曲なんです。

-「待ってくれないわ」の中でも、"Close your eyes"っていうフレーズが出てくるし、あえて見たくないものから距離を置くことで、"じゃあ、何を見るべきなのか"ということを歌っているのが、バイハンの音楽なんだろうなと思います。

泰輝:うんうん。そうかもしれない。今起きている現実を止めることはできないし、それは仕方ないこととして受け止めるけど、一度その目をふさぐから、それ以外の部分に目を向けてみてもいいんじゃないかっていうことですよね。でも、それは逃げじゃなくて。少しでも生きやすくなるための活路として、僕らの音楽が届けばいいなと思ってるんです。