Japanese
milet
Interviewer:石角 友香
アルト・ヴォイスからハイトーンまで、聴く者の心の奥深くに響く存在感を持った声。邦楽と洋楽の垣根をシームレスに飛び越えていく歌詞とサウンドで、昨年のメジャー・デビュー時から幅広い層の耳目を集めたmilet。今年6月にリリースした1stフル・アルバム『eyes』が"Billboard Japan Hot Albums"にて2週連続1位を獲得する快挙を遂げ、今回、半年ぶりの新作となるニューEP『Who I Am』を世に送り出す。今作の表題曲はデビュー曲「inside you」のプロデュースも手掛けたToru(ONE OK ROCK)と再びのタッグ。同曲をはじめ、多彩な5曲を収録したこのEPを軸に2020年に確かな足跡を残したmiletの今に迫ってみた。
-2020年は初のフル・アルバム(『eyes』)をリリースされて、ファンの方はもちろん、初めて聴かれる方もいてチャート・アクションも好調でしたが、miletさんご自身にはどんなフィードバックがありましたか?
初めてのアルバムで、出すまでこのコロナの中でどれぐらいの人が聴いてくれるんだろうかという不安もあったんですけど。メジャー・デビューしてからの1年間で5枚のEPをリリースして、そのひとつの集大成でもあり、ここから私がどういう音楽をしていきたいのかっていう意思表示のひとつの手段となるアルバムだったんです。なので、自分のためにこのアルバムをリリースしたいっていうふうには思っていたんですけど、それ以上にたくさんの方に聴いていただくことができて。これが誰かに届いて、"すごく元気を貰ってる"とか、"毎日聴いて楽しんでいます"とか、リアルな声が届いていることがやっぱり何より嬉しいですね。
-今年は例年に比べるといろいろ自由じゃなかったので、アーティストのみなさんは制作に没頭するしかないとおっしゃる方も多いんですが、miletさんの場合は何か音楽制作とか、日常の中でトライしたことはありますか?
最初の数週間は時間があって、私は家で制作のスタイルみたいなものをしっかり作りたいなと思ってたんで、ずっと機材を揃えたりしてました。そういう時間としてはすごく有効活用できたなと思っていたんですけど、セッティングしたら少しずつ忙しくなり始め(笑)、今回の「Who I Am」の制作にも役立って。夏の初めぐらいからこのドラマ("七人の秘書")の主題歌を作り始めたんですけど、Toru(ONE OK ROCK/Gt)さんとも今回、完全にリモートでの制作だったんで、最初の自粛期間の頃に機材集めとかして空間を作っておけて良かったなと思いました。
-機材はどれぐらい増やしたんですか?
ヴォーカルをきれいに録れるようにして、デモのレベルはかなり上がったと思います。マイクも新調したし、一番欲しかったオーディオ・インターフェースをちょっとレベルアップしたり、キーボードも変えたり。
-アルバムの際のインタビューを拝見したんですが、そのときはコンポーザーや共同プロデューサーのみなさんと結構、意見を戦わせながら制作していたそうですね。リモートだとコミュニケーションの仕方は変わりましたか?
ちょっと慣れない部分もあったし、お互いの生活リズムや、生活時間帯も違うんです。Toruさんもお忙しい方なので、そこらへんが結構大変だったんですけど。ほんとに音のコミュニケーションという感じで、普段は言葉で説明し合ってるところも、もう言葉で説明し合う時間すらもったいないっていうことで。お互い、メロディもトラックも何通りも一気に送り合って、言葉じゃなくて、フィーリングで選んでいくみたいな感じが多かったです。
-デモがどんどん更新されていく?
ほんとに1日に何度もブラッシュアップされて、歌詞ももちろんですけど、メロディも少しずつ変えていって。でも、Toruさんとは今までに何曲も作らせていただいた経験があったので、お互いのしたい音とか、伝えたい音色とかがちょっとずつわかってきたということがすごく良かったです。そんなに言葉はなくても、お互いにしたいこととか、方向性がうまく理解し合えていたのが良かったと思います。
-今回はもう6作目のEPですが、アルバム・リリース後ということで意識されたことはありますか?
もうアルバム制作が終わった瞬間からアルバムより前のことを忘れるぐらい、このEPのことばかり考えてて。コロナでライヴができなかったというのもあって、私もなかなか落ち込むときもあったんですけど、やっぱりそういうときに前を向かせてくれたのは音楽しかなかったんです。なので、その音楽の力を私ひとりのためじゃなくて、誰かのために使いたいと思って、この「Who I Am」の制作に挑んだんですよ。私の曲の中で一貫しているメッセージは前に進んでいくということで、今回もそのメッセージがドラマの色とも重なりながら、私らしさも出せる曲になったと思いますし。やっぱり自分を前に向かせられるのは自分しかいないなと、特にこの期間に思ったので、この「Who I Am」という曲は自分を奮い立たせるための曲でもあります。
-今回のEPにはいろんな表情の曲がありますが、やはりこの表題曲は一番力強いというか、これまでのmiletさんの曲の中でもバンド・サウンドが印象的な曲ですね。
そうですね。あえて骨太なサウンドをToruさんには作っていただいて、逆にそれがすごく良くて。歌以前の、音ひとつひとつのところから、ポジティヴな力強いメッセージ性のある音を使用していけたことは良かったと思います。
-そもそも、今回の楽曲はドラマ主題歌でもありますが、何が一番のテーマでしたか?
私自身、その歌えない期間に"歌がなかったら私ってなんなんだろう"と思うことがすごく多くて。それで"Who Am I?"という問い掛けがすごく多かった期間だったんですけど、自分とすごく見つめ合って、自分の中で音楽ってなんなんだろうとか、私が歌う意味をすごく考えさせられる期間でもあったんです。その期間を経て、私にとって音楽って、身体的にも精神的にも安定させてくれる必要なものだなというのもわかったし、何より私の音楽を求めてくださる方が周りにいることに気づけた時間でもありました。そこから"Who Am I?"って問い掛けていたのが、ほんとに"今私がいる"、"私っていうのが「Who I Am」なんだな"って思えるようになったのが、この曲の一番のメッセージですよね。
-すぐに前を向けるわけではないということを、歌詞の中でもプロセスを踏んで表現されているし、アレンジも段階を踏んで爆発していく曲でした。
たしかにリズム的にもBPM的にもすごく晴れやかっていうのではなくて、聴いていて心が忙しくならない曲だと思います。Aメロもちょっと穏やかな入り方から、サビでドン! といくのが私は好きなんです。あまり忙しい音楽が実はそんなに好きじゃないのもあるんですけど(笑)、歩く速度というか、しっかり地に足をつけて足の裏でちゃんと地面を感じながら歩くような、そんな地面の暖かさも冷たさもちゃんと感じながら歩いていける実感の湧く曲が、歌っていても"あ、この曲、生きてきてるな"って思える瞬間なので。まさにそういうところが血の通った曲になっていく過程なのかなと思います。
-言わば今までのmiletさんの曲の中でもロック的な曲だなと思うんですよ。ジャンル感では作っていらっしゃらないとは思うんですが、今回のアレンジがこうなった理由はなんでしょうね。
英語ももちろん使ったりはしますけど、やっぱり日本の人にパッと聴いてわかってもらえる音楽を作るっていうのは、私の中のひとつの課題なんです。でも、なかなか難しくて。楽器の生音って変わらないじゃないですか。ポップスとか電子音とかは流行があって、季節ごとに変わっていったりもしますけど、バンド・サウンドというのは誰がどこで聴いても、みんな同じ認識で聴こえるパワーを持ってる音たちだと思うので。どうしてもギターや、ドラムスの音はしっかり前に出して使っていきたいっていうのはあります。そこからはもう自由だなっていう感じはしていたんですけど、この女性たちが活躍するドラマでも、あえて男らしい骨太な音を使うことで、コントラストで逆に音もドラマの登場人物たちも強調されるようなものになったと思いますね。ちょっとそこらへんのバランスの取り方は最近勉強して、成果が出てきたかな? ってところはあるんです。ロックや、生音は扱いづらいというか、私自身バンドをやってきた人間ではないので、調理の仕方は難しいんですけど、今回はToruさんという素晴らしいパートナーの方と作ることができて。ToruさんはTHEバンドマンなので、やっぱりライヴ映えのする曲を作りたいと言ってて、この「Who I Am」に関しても、"できて完成じゃなくて、この曲をライヴでするともっと映えるアレンジ、できるようになるから"って言ってくれたのがすごく嬉しかったです。"やっぱりこれがステージに立つ人の目線なんだな"とすごく新鮮で。いつもスタジオの中だと、曲ができて完成で、"新曲できたな"ってそれをそのままライヴで歌うような気持ちだったんです。でも、ああやってステージの上に立ってる人が作ると、ステージの上で曲がどんどん変わっていくというか、ステージごとにももちろん変わっていくかもしれないし、そういった可能性を考えながら、作曲の段階でイメージしているのがすごく勉強になりました。
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