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INTERVIEW

Japanese

トップハムハット狂

2020年09月号掲載

トップハムハット狂

Interviewer:秦 理絵

今自分がいるところはシーン的に小さい場所だと思ってる。せっかく新しいレーベルから出すならば、大きい場所を目指してみたい


-他にコロナの影響があって書いた曲はありますか?

少なからず全部に入ってると思います。やっぱり否が応でも、その情報は入ってきてたので。無意識に言葉のニュアンスが変わってくるというか。

-「La Di Danimal」で出てくる"同調圧力"へのフラストレーションなんかも、そのひとつですよね。ハムさん自身、この時期に一番強く感じた感情はなんでしたか? 悲しさ、悔しさ、怒り、もどかしさ、いろいろあったと思いますけど。

そうだなぁ......ライヴができないことで、リスナーの人たちと会えないことに対しては、一番思うことがありました。3月に予定していたイベント("TOPHAMHAT-KYO Release Live & FAKE TYPE. Rebirth Live")が中止になったことが大きかったんですよ。それが伸びて6月に延期にしたけど、それも中止になっちゃって。とにかくリスナーの人たちと会いたい、人と会いたいと思ってました。

-「Lofi Hanabi」では、本当にシンプルに"みんなに会いたいな"と歌ってますし。

言ってますね(笑)。この曲で言いたかったのは、"天高く明瞭に君の目に映るような Hifi Star じゃない/それに比べれば曖昧な俺は Lofi Hanabi"のところですね。メディアとかテレビに出てるような超有名なアーティストがHifi Starなんですよ。星って、とんでもないところからみんなを輝かせるじゃないですか。だとしたら、俺が今いる地点は、一応みんなの目に届いてはいるけど、花火くらいの高さかなと思ったんですよ。で、こんな現状だけど、それでもみんなを勇気づけられる存在になれないかと思って書いたんです。

-ちなみに"Lofi Hanabi"という言葉は、今流行ってるローファイ・ヒップホップから着想を得た言葉だったりもするんですか?

そうです。この曲はトラック先行でshirothebeatsっていう人とのコライトなんですよ。ちょっとローファイ・ヒップホップっぽい要素がある曲を作りたいなっていう話をして。そこから、"Lofi Hanabi"っていうキーワードが出てきたんです。

-ハムさんはご自身で作曲もされますけど、それでもトラックメイカーを迎えることには何か意図があるんですか?

最初から自分ひとりでやっちゃうと、トラックの時点で満足しちゃう部分があるんですよ。友達とか知り合いのトラックメイカーにお願いすることで、別の人の脳みそが入って新鮮な印象を受ける。そのほうがラップに気持ちを乗せて書けるんです。

-なるほど。今作にも、FAKE TYPE.のDYESさんと一緒に完成させた曲として、「Mister Jewel Box」がありますね。まさにFAKE TYPE.! という曲で。

この曲に関しては、先に言いたいテーマが決まってたので、DYESさんに"「Princess♂」みたいな曲にしたいんだ"っていうのを言って、ばっちりそういうイメージの曲を持ってきてもらったんです。FAKEでやってたエレクトロ・スウィングのイメージですね。

-最初に決めていたテーマというのは?

「Princess♂」のバズを受けての自分の心境を吐露する曲です。後日談というか。

-"自分の生み出したものに殺される"というリリックもあって。これは、ミュージック・ビデオが独り歩きしていくことに対する苦悩のようなもの?

自分自身よりもMVのキャラが人気になっちゃって、精神的にまいっちゃうみたいな物語ですね。「Princess♂」がバズったことで、少なからずこういうことを思ったりもしたんですよ。でも、正直に言うと、それよりも世界中の人が聴いてくれてるっていう嬉しい気持ちのほうが圧倒的に大きいんですね。だから、少しだけ湧いたネガティヴな気持ちを自分なりに面白おかしく誇張して、ファンタジーとして曲にしたんです。

-じゃあ、そんなに負の感情に苛まれているわけではないんですか? 結構心配してしまうような内容ですけど。

全然。アップロードした当初もすごく心配してくれるコメントがありましたけどね。それがあまりにも多かったので釈明のようなコメントを投げたら、"あ、そうだったんだ"って納得してくれたので、よかったなと思いました(笑)。

-あと、「Stress Fish」は、17歳のトラックメイカー SASUKEさんのトラック提供です。これは、どういう経緯で実現したんですか?

最初はインターネットのフォロー、フォロワーの関係だったんですけど。今回、"BUTCHER SWING RECORDS"っていうレーベルから出すことになって。そこのレーベルの方に、"SASUKE君のトラックが好きなんですよね"って話したら、"SASUKE君、繋げるよ"みたいに言ってくれて、お願いをしたら、OKしてくれたんです。

-意外な組み合わせだなと思いましたけど、絶妙にハマってました。ハムさんって、他の方がやらないようなフローの聞かせ方をされるじゃないですか。

ははは(笑)、自分の中では、歌ってるときに気持ち良くなりたいだけなんですよ。なんて言うのかな、自然と急ブレーキして急発進するようなラップになるんです。そういうのがわりと好きなので、意識してやってますね。

-ハムさんのラップに影響を与えたアーティストってどのあたりなんですか?

めちゃめちゃいますよ。自分がラップを始めたきっかけがKGDRとか、RIP SLYME、KICK THE CAN CREWなんですよ。あの世代のラップにのめりこんで、そこからEMINEM、妄走族、般若にいって。とにかくラップがすごく好きだったので、いろいろな人を聴いたんです。で、その中で好きな部分を吸収していって、今の自分のスタイルができあがったのかなと思います。

-吸収はするけど、模倣ではなく、あくまでも自分のオリジナリティを出したいという強い想いもあったんですか?

そうだと思います。なかなかいないですよね、こんなラップする人って(笑)。

-ええ(笑)。あと気になったのは、5曲目の「YOSORO SODA」です。開放感のあるトラックに、船出をイメージする言葉で"前に進んでいく"っていう意志を綴ってて。

"進んでいく"っていうのが、この曲のテーマですね。今自分がいるところがシーン的に小さい場所だと思ってて。せっかく新しいレーベルから出すならば、もうちょっと大きい場所を目指してみたいっていう決意表明みたいな曲なんです。"ヨーソロー"っていうのは、昔の船乗りの言葉で、"宜しく候(よろしくそうろう)"っていう語源があるらしくて。

-これからのトップハムハット狂をよろしくお願いします、というような意味?

まぁ、そんな感じですね(笑)。

-ソロ以降のハムさんって自分の内面を楽曲に投影してきましたけど、例えば、初期の『BLUE NOTE』の頃はすごくリリックがストレートだったじゃないですか。

あぁ、そうですね。

-でも、今作ではより日本語の美しさを大切にしながら、様々な景色と自分の感情を鮮やかにリンクさせた楽曲になっていて。こういう抒情的な表現こそ、四季シリーズで目指したかったことなんじゃないかなと思ったんですよ。

今振り返ると、『BLUE NOTE』のときは、言いたいことが山積みだったんですよね(笑)。それを消化して、今ようやく自分が本来やりたいかたちに辿り着いたというか。たぶん、「YOSORO SODA」みたいな曲が、僕が一番やりたいことなんです。

-あぁ、なるほどね。結果この『Jewelry Fish』という作品は、儚げな夏の風景の中に、たしかに生きている人間がいることを感じさせる1枚になっていると思います。

そう受け取ってもらえると嬉しいです。僕の中では、コロナの影響もあって、四季シリーズの中では多少イレギュラーなものになったとは思うんです。でも、制作スタンスは変わっていないので、自分が作りたかった作品にはなったと思いますね。

-何度か話に出ましたけど、今作から"BUTCHER SWING RECORDS"という新しいレーベルからのリリースになります。今後、どんな活動をしていきたいと思いますか?

今の時期は難しいんですけど、海外でもライヴをできるようなミュージシャンになりたいですね。「Princess♂」と「Mister Jewel Box」のおかげで海外のリスナーがすごく増えてくれたんですよ。なので、そういう人たちの前で実際に歌ってみたいなっていう気持ちが芽生えてるんです。早く(コロナが)収束してほしいですよね。