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INTERVIEW

Japanese

いゔどっと

 

いゔどっと

Interviewer:秦 理絵

-曲作りはどんなふうにするんですか?

最初の頃は歌詞からしか書けなかったですね。今は他の作り方もいろいろ試してるから、(歌詞からでも曲からでも)どっちでもいけるんですけど。今回のアルバムの中だと「余薫」と「累累」、あと最後の「エニ」っていう曲は歌詞から作ってます。「夜半の雨」は曲からですね。歌詞から書くと収集がつかなくなってしまうんですよ。

-あぁ、言いたいことが多すぎて?

そうです。結局それが8分になっちゃうんですけど。そこから削ったり、増やしたりして、ギターを弾きながらメロディをつけていくっていう感じですね。

-「余薫」のアレンジを春野さんにお願いしようと思ったのはどういう経緯だったんですか?

友達なんです。冬のコミックマーケットで同人即売会があるんですけど、そこで別の友達とアルバムを出したんですよ。半分はカバーで半分は書き下ろしで。そのときに書き下ろしを頼んだのが春野ともうひとりのボカロPで。そこから仲良くなったんです。音楽の趣味が合うんですよね。で、今回もお願いしたら快くOKしてくれて。自分のアルバムを作るときに頼むなら春野だなと思ってましたね。

-春野さんって繊細なチル・ポップが得意なトラックメイカーじゃないですか。そういう人が活躍してるのが今のネット・シーンの最先端だと思ってるんですけど、いゔどっとさん自身は、そういうシーンの動向は意識してるんですか?

そうですね。個人的に思うのは、今の音楽って音数がだんだん少なくなってるんですよね。どんどんシンプルになってきてる。一昨年ぐらいにはヒップホップが流行ったじゃないですか。僕、ああいうメロウなヒップホップが好きなんですよ。ポエトリーっぽい曲とか。今回のアルバムで「forever」っていう曲を書き下ろしてくださったmaeshima soshiさんも、ヒップホップの素晴らしいアーティストですし。ああいう感じが今すごく好きなんです。

-ネット発の音楽って10年代の前半ぐらいまではロック寄りの激しい曲が多くて、独自のカルチャーを突き進んできた印象があったと思うんですよ。でも、最近では音楽シーン全体の動向と似たトレンドの傾向がありますよね。

たしかにボカロ・シーンでも90年代ぐらいのR&Bがウケたりしますからね。......あ、あと僕はロック系の歌詞が書けないんですよ(笑)。

-どういうことですか?

純粋な熱を持った"頑張るぜ!"みたいな曲が書けなくて。これは自分の親に言われたことなんですけど、"悲しい曲しか書けないよね"って(笑)自分の根底にあるのがパッションとかじゃなくて。もっと陰湿な暗いところにあるのかなと思ってるんですよ。

-燃え上がるような情熱というよりも、内側に秘めた想いを掘り起こしていくというか。

そう、そういう感じです。

-過去にはロックっぽい曲を書こうとしたこともあったんですか?

あったんですけど......とんでもないことになりました(笑)。

-(笑)でも、「着火」みたいなロックな曲も歌いこなしてますよね。

歌うのは平気なんですよね。

-そうなんですね。楽曲の話に戻すと「余薫」のあと次のオリジナル曲として「累累」を発表しましたよね。切ないラヴ・ソングのあと今度は内省的なテーマに振り切ったのに驚いたんですけど、どうしてこういう曲を書こうと思ったんですか?

「累累」は、誰でも通る道だと思うんですよ。若いときに"こんな人生じゃいやだ"とか、"こんな自分じゃないのに"とかっていう感情ですよね。

-歌詞には"本当の自分"を探すようなフレーズもありますね。

こういう曲を今のうちに作りたいと思ったんです。この先、年を重ねることで考え方が変わっちゃうんじゃないかなというので。今の23歳のときにしか思わないことを書きたかった。ちょうど仕事を辞めた時期でもあったし、"これからの人生どう生きるか"って考えてた時期でもあったから、自分の中でもタイミングが合致したんです。

-たしかに、歌詞の"愛想笑いも上手くなったなあ/なんでなんだろうか/正解かはわからないけど/たぶん間違いじゃない"は、20代前半でぶつかる壁だなと思います。

僕、決めつけられるのが嫌いなんですよ。男だからとか、女だからとか、23歳はこうであるとか、漠然とあるじゃないですか。そういうレッテルを貼られるのが嫌いで。"好きに生きてればいいでしょ"っていうのがあるから、それをこの曲では歌ってるんですよね。

-実際に書いてみて思うことはありましたか?

あぁ......自分ではそんなむちゃくちゃ悩んでたつもりじゃないんですけど、やっぱり心の中に迷いがあったんだなと思いました。この曲ができたことですっきりしたんです。大学を出て、一般的には就職するじゃないですか。そこから昇進してっていう決められた道はあるかもしれないけど、それだけじゃなくても、いいんじゃないかなって。そういう気持ちがこの曲で消化できたのかなと思いましたね。

-作って良かったですね。

うん、そう思います。30歳ぐらいになったらまた聴こうかなと思いますね(笑)。

-ちなみに、「累累」は「余薫」の次にできたんですか?

いや、4曲目か5曲目ぐらいです。

-アルバムを作る過程の中でできた曲だった?

そうですね。

-今回のアルバム全体としてはどういうものを目指したいと思いましたか?

さっきの話にも通じるんですけど、音楽ってこうでなければいけないって決めるのは違うんじゃないかなっていうのがあって。カバーだからダメとか、ヒップホップはダメとか、そういうのはもういいんじゃないかなと思うんです。"ニュアンス"ってよく使う言葉ですけど、"色彩や音色の微妙な差異"っていう意味と"言外に表された話し手の意図"っていう意味があるんです。芸術とかに使われることが多くて。このアルバムは聴いた人が"この曲はこういう意味なんじゃないか"とか、"この曲とこの曲はこういう流れにしたんじゃないか"とか、勝手に考えてほしくて"ニュアンス"というタイトルにしました。

-聴き手のニュアンスで受け取ってほしいと。

そうです。正解がないのが音楽かなって思うので。

-自分で音楽を聴くときも、明確な答えが用意されているものよりも、何か掴めそうで掴めないような音楽が好きだったりしますか?

好きかもしれないですね。逆に"こう見てください"って言われると面白くなくなっちゃう。そうとしか見れなくなるんですよ。"好きに見てください"って言われたほうが、自分が否定されないような感じがして、自由でいいなと思います。