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INTERVIEW

Japanese

THIS IS JAPAN

2019年12月号掲載

THIS IS JAPAN

Member:杉森ジャック(Vo/Gt) 小山 祐樹(Gt/Vo) 水元 太郎(Ba) かわむら(Dr/Cho)

Interviewer:TAISHI IWAMI

"嫌なことを潰すより楽しいことと向き合いたい"――THIS IS JAPANの唱える性善説とは


-1曲目の「グルメ」は、ポスト・パンクがイメージになったということですが、80年代のそれだけでなく、現在のロンドンやブリストルといったUKや、アイルランド ダブリンのシーンとも共鳴するような曲になっていると思いました。

杉森:その流れで言うと、たしかにSHAMEとかは好きで聴いてました。でも、直接的に影響を受けたというより、パンクとかポスト・パンクを消化してカッコいいことやってるバンドがいるんだなって。"やれんじゃん、俺も!"みたいな感覚でした。

-ドラムの音色にバリエーションが生まれたことも印象的でした。

かわむら:「グルメ」も含む全体的な話になるんですけど、今まで音の色づけの部分はギターワークで表現してたんで、そうなるとベースとドラムはできるだけ同じものを敷くことに専念してたんです。でも、今回はギターの音数が減って、それぞれの楽器がシンプルに鳴らした音の組み合わせで聴かせるようになったんですよ。ひとつ芯として貫くビートのイメージがあるなかで、パターンを変え、スネアを変え、音色を変え、いろいろやりましたね。

-そんな今のTHIS IS JAPANが最もわかりやすく表れている曲が「グルメ」だと思います。

かわむら:今のモードを示すスイッチでもあり、今までの僕ららしさが加速するギアでもあり、1曲目に相応しい曲になったと自負しています。

-ベースの音も、すごくスリリングな臨場感があります。

水元:僕の頭の中にはずっとFUGAZIのJoe Lally(Ba/Vo)がいて、Joe Lallyになりたいっていう気持ちが常にありつつ、今回はサウンドのオンとオフを今まで以上に意識しながら、自分なりのプレイに昇華していくことができて良かったです。

小山:水元は僕らが知らないところで個人的な実験をやっていて。

水元:「apple me」はTHIS IS JAPANにFUGAZIが降臨した曲なんです。

小山:そうなの? 今初めて聞いた(笑)。

-ソリッドなロックンロールで、すごくドキドキしました。

杉森:すごく思い入れのある曲で、歌詞はかわむらが書いたんですけど、"逆さまでリンゴに齧り付いた/駆け出してその先に何も無いみたいだ"って部分は、今のTHIS IS JAPANを表すパンチラインだと思うんです。この言葉にハッとして、「グルメ」と「ストロボ」で確信が持てました。

-「ストロボ」はブルーズもポスト・パンクもごちゃ混ぜになった曲。このミクスチャー・センスはぶっ飛んでるなと。

小山:自分でも何やってるかわからなかったです(笑)。本当に何事にも捉われず、まったくベースがない状態から感覚的にむちゃくちゃやってすごくカッコいい曲ができた、ナチュラルでチャレンジングな曲なんで、今のTHIS IS JAPANを象徴しているのかもしれません。

-これまでのキャリアと照らし合わせて最も異色な曲となると、「Yellow」だと思うんですけど、どうでしょう。

小山:そうですね。"これやっていいんかな?"って思いました。同期ありきだし、どのくらい打ち込みの音を足していくかいろいろ迷って、最終的にライヴで演奏したときに生音メインでもいいなと思って、シーケンスは添えるだけくらいに落ち着きましたね。

-リファレンスとなった時代感はポスト・パンクやニュー・ウェーヴですか? TALKING HEADSの「Psycho Killer」を思わせるベースのフレーズが。

水元:たまに「Psycho Killer」が顔を出します。

小山:今回僕が作ったデモはどれもバンド名が付いていて、これは"THE TING TINGS"でした。実際にできた曲は全然違いますけど(笑)。

-そうしてテーマを設けず、自由な精神状態で作った曲の集合体ということは、タイトルの"WEEKENDER"は後付けですか? また、どうしてその言葉でまとめようと思ったのでしょうか。

杉森:"ウィークエンダー"は"週末の旅行者"って意味なんですけど、週末って、多くの人たちがやりたいことをやれる時間がいっぱいあって、俺たちも週末に集まって曲を作って、ライヴを重ねてきたんです。

かわむら:歌詞を読み返していたときに、「悪魔とロックンロール」にある"ウィークエンド"という言葉にピンときました。やりたいことを思いっきりやってる今のTHIS IS JAPANは、ウィークエンダーだなって。

小山:週末だけに限ったことではないんですけど、縛られてない時間や状態をわかりやすく表してると思うんです。

杉森:聴いてくれた人たちの自由な時間を、前向きに輝かせたいという想いがあります。

-個人的な話なんですけど、私にとって何にも縛られてないことを最も実感する時間は、深夜~早朝3時とか4時。終電後のクラブなんです。夜中に遊んでるスリルと眠気の峠を越えてハイになった気分が重なって、まるで世界が手に入ったかのような感覚になる。そこにめちゃくちゃハマる作品だなって。

杉森:わかるなぁ。夜と朝の間って、変なゾーンみたいなのありますよね。そこにハマると思ってくださったなら、本当に嬉しいです。

小山:人はなんでクラブに行くのか、よく考えるんです。現実逃避とも思えないし、単に"楽しいね、ハッピーだね"ってことでもないような気がするんですよ。

-私も、自覚的な動機はただ楽しみに行ってるだけなんですけど、それだけじゃない感覚はたしかにあります。

小山:論理的というよりは肉体的に、社会と対峙してる気がするんですよね。そして、社会と自分の間にある鬱屈した何かから解き放たれて、生のエネルギーを高められる場所だと思うんです。で、また明日も生きようって。

-ある種の救いになるエネルギーを持った作品だと思いました。

かわむら:SNSとかを見てると、いろんな人のネガティヴな意見が大きく膨れ上がって、しんどいこともあるじゃないですか。それに対してこのバンドは、基本的に性善説に基づいてなきゃいけないと僕は思ってるんです。嫌なことを潰すよりは、楽しいことと向き合う。嫌な意見とかレスポンスを超えたところで自分たちの美学を打ち出していることが、伝わればいいなと思います。

杉森:めちゃくちゃファンタジーとかじゃなくて、現実と地続きにある理想を楽しんでいきたいんです。俺はよく叫ぶんですけど、それは何かを攻撃したいんじゃなくて、"ここにいてめっちゃ楽しい!"って感覚。"生きてるっていいなぁ"って、この作品への入り口や捉え方は人それぞれですけど、最終的な出口でポジティヴになってもらえたら嬉しいですね。