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INTERVIEW

Japanese

ヒヨリノアメ

2019年07月号掲載

ヒヨリノアメ

Member:AKI(Gt/Vo) 萩谷 尚也(Ba) 大橋 ユウト(Key) 山崎 一樹(Dr) プロデューサー/それでも世界が続くなら:篠塚 将行(Vo/Gt)

Interviewer:吉羽 さおり

-AKIさんにとっては今作に至る長いストーリーがあったわけですね。

AKI:本当にそうです。一緒にできるなんてまさかっていう感じでした。

篠塚:プロデュースするでもしないでも、変わらず応援していきたいバンドだなと思っていたので。ヒヨリノアメは、AKI君が歌いたいことが重要なバンドだと思うんです。自分の思いがなかったら、歌わない人だと思うんです。

-そうでしょうね。

篠塚:歌の力があるし、歌いながら喋っている人だなとも思いますしね。でもそのぶん、演奏が後ろに下がっているような感じだったんです。歌を大事にするために下がっていたんですけど、とりあえず全員前に出ろ、というところから始まりましたね。

-そういうことでしたか。この音の録り方はまさにそれせかそのものだなと思っていたんです(笑)。それは篠塚さんが手掛けるからというのももちろんだけど、このバンドにもともとあるDNA的なところを引き出す感覚でもありそうですね。

篠塚:それせかのDNAがあるというのは、僕も、AKI君がステージでアンプを2段積みしてるのを見るたびに思います。

AKI:はい(笑)。

篠塚:ただ僕はバンドをプロデュースする場合、僕やそれせかの要素があったら消すようにしているんです。でもヒヨリノアメに関しては放置してます。好きなんだろうなということで(笑)。だけど、本当に歌詞が重要なバンドだと思うので、普通はそこで楽器が歌を引き立てようと下がると思うんですけど、逆に僕は"ナメるな"と思ったんです。AKI君の歌は、演奏が前に出たところで消されるようなものじゃないぞっていう。それで消されるならその程度の歌だし、その程度の歌を歌っている時点でAKI君の音楽も想いも伝わらないじゃないですか。このバンドは、全員が友達だからこそ、みんながもっとAKI君のハードルになってあげたほうがいいと思うんです。山崎君なんかはメタルが好きなんだから、バカスカ叩くほうが似合いますしね。

山崎:はい(笑)。僕は今までの自分の常識をいい意味で壊された感じでもありました。ここまで叩いてもいいんだって。そう言われたら安心してできました。

このバンドで自分に正直に向き合ってやっていくことで、人生を変えられるなと思う


-大橋さんは今回のレコーディングで、意識したことはありますか。

大橋:篠さん(篠塚)とは、ライヴでいつもやっているようなことを音源でも表現できて、ライヴで伝わるのと同じような感じで音源でも伝えられたらと話をしていたんです。普段のライヴでは、大まかなピアノの流れは決まっていますけど、そのときのノリで変えるとか、結構アレンジをしていて、普段のレコーディングでは、ちゃんと形を決めたものを録っていたんですけど、今回はライヴと同じような感じにしているんです。何度もテイクを録って、そのたびにライヴと同じような気持ちで弾くことを意識しました。

-今作はアウトロが長めな曲が多くて、それもセッションっぽい雰囲気や演奏を転がしていく感じを残しているのはそのためなんですね。

篠塚:ライヴはもっと長いんですけどね。

-「傘とシンデレラ」とか相当長いですけど(笑)。

AKI:ライヴではこの3倍くらいあります。ライヴでは、歌詞も俺が好きなように歌うところがあるんです。それは、完全にその日そのときにしか出ないもので。ライヴでは曲の長さも決めてないし、そのアウトロに入るまで自分でも何を歌うかわからないんですよ。でもそうやってきたおかげで、本当に思っていることをライヴで言えるようになったかもしれないです。長さが決まっていたら、言うことを決めなきゃ言えないし、その尺の中で言わなきゃいけないし。

篠塚:そこがポピュラー・ミュージックの弱点かもしれないですね。言わば、すでに用意されたものを、ある意味もう一度朗読したりするような形じゃないですか。新曲だとしても何ヶ月も前に決まっていたもので、その場で決まったものじゃないんですよね。でも、これを"会話"で考えたら、その場の状況で言葉が出てくるのは、自然なことじゃないですか。ヒヨリノアメは、ライヴに来た人やその場にいる人と向き合うことで、歌うことが変わってくるという、普通のバンドとは違ったことをやっているので。いいことだとも思いますね。

AKI:曲でも、そのときに自分が思ったことを歌っているんだから、ライヴでもそのときに思ったことを歌ってもいいなと思ったんです。だから歌詞を崩したりもしていますね。

-歌に漂うある種の無常観も、そういうところから来ているんですかね。

AKI:狙って書いてるわけではないんですけど、言われますね。ライヴに来てくれる人からのメッセージで、"歌詞は寂しいけど、本当に思っていることを歌っているんだなと思った"と言ってくれる人がいて。人間って、自分とは違うなとか、自分ではこんなこと思わないなっていう話をずっと聴くことって難しいと思うんです。それでも、自分が書く歌に感動してくれる人がいるんだなって最近気づいて。だから、共感とかを狙う必要もないなと思うんです。自分が考えたことがあるようなことって、誰かしら考えたことがあることだと思うし。みんなが思うことを歌おうというよりも、自分がそのときに思ったことを歌えば、みんなが思うようなことだったりもするのかなって。

篠塚:僕もそうですけど、誰かにこう思わせたいというより、"僕の人生はこうだったよ。君はどうなの?"っていうバンドだと思うので、あくまで自分たちの等身大で。それも決して順風満帆ではないと思うので、その人生をフルで歌うことが、聴いている僕らにも響きますしね。

-はい。「傘とシンデレラ」でもそうですけど、ラヴ・ソングっぽい曲を書いていても、どこか圧倒的に自分に自信がないところが出ちゃっているんですよね。ちゃんと相手がいるのに。そういうところも歌で出しちゃうんだなっていうのも思う。

AKI:あぁ(笑)。小さい頃から、自分の作ったものとか、夢とか、言葉とかに自信が持てなかったんです。ずっとなんですよ。たぶん、否定されちゃうことがあったからだと思うんですけど。だから、自分がこう思っているんだよねとか、こんなことしたいっていうのを話したりとか、自分で作ったものを見せたりとかするのは怖かったし。"そんなやつが歌ってるのに聴いてくれるのかな"っていう感じでライヴをしちゃったりとか、曲を作ったりしてるので、自然とそういうところが出るのかもしれない。

-否定しがちなんだ。

AKI:だからこそ、このバンドで自分に正直に向き合ってやっていくことで、自分の人生を変えられるなと思うし。自分の思っていることを歌って、誰かが感動して泣いてくれたり、好きだって言ってくれたりする人が増えたら、"俺はこういうこと思っていいんだな"ってなるだろうな、と思ってます。